2_3_6 初期応力計測技術
達成目標

水中で水圧が発生するのと同様に,岩盤中でも岩盤自体の重さやプレートの動きにより力(応力)が発生しています。岩盤内に坑道を掘削した場合,掘削部分の応力が解放されると,その応力は坑道周辺の岩盤に作用するため,坑道周辺部の岩盤に変形が生じたり,亀裂が発生したりします。

地下の岩盤中に構築される施設の設計・施工においては,地下空洞の力学的な安定性の把握や坑道周辺岩盤の状態変化を評価する必要があり,その評価に必要なパラメータとして初期応力(元々岩盤に作用していた力)の測定を実施しました。

方法・ノウハウ

①適用する手法

初期応力の測定方法には,ボーリング孔内に水圧をかけ,岩盤に亀裂を人工的に発生させ,その亀裂の方向と亀裂が発生した水圧から岩盤内部の応力状態を推定する水圧破砕法や,採取したボーリングコアを用いた室内試験により初期応力を推定する手法(例えば,AE法やDRA法)などがあります。岩盤内部の初期応力は水圧とは異なり,方向により大きさが異なる計6つの成分で記載されますが,水圧破砕法やボーリングコアを用いた多くの手法では1つのボーリング孔から得られる情報だけで,これら全ての成分を決定することができません。

これに対し,円錐孔底ひずみ法などの応力解放法では,1つのボーリング孔内で6つの成分を決定することができるため,瑞浪超深地層研究所では,坑道を利用し円錐孔底ひずみ法を用いた初期応力の測定を実施し,地上からの水圧破砕法などの結果と比較検討して,各手法の有効性を検討しました。

②データ取得手法

円錐孔底ひずみ法では,ボーリング孔を掘削し,そのボーリング孔底面を円錐状に成形します。円錐状に成形したボーリング孔の底面に,様々な方向の変位を測定できるように複数のひずみゲージが設置されたストレインセル(図1)を孔底に接着・固定します。その後,孔底周辺をオーバーコアリングすることで円錐状に成形された孔底周辺の応力を解放し,その際の様々な方向に生じる岩盤の変形(ひずみ)を測定します(図2)。同時にボーリング掘削時に採取したコアを用いて,岩盤の変形と応力の関係を計測し,そのデータと原位置で観測された応力解放時のひずみの大きさから初期応力の大きさと方向を推定します(円錐孔底ひずみ法による計測の手順:図3)。測定地点の状況が良好な場合には,1日1回程度の測定を実施することができます。

③測定の注意点

円錐孔底ひずみ法では,接着剤を用いてストレインセルを孔底に接着する必要があります。湧水による接着不良を低減するため,初期応力を測定するボーリング孔は上向きに傾斜させて掘削することが重要となります。

引張応力によりオーバーコアリング時にコアが破壊する場合(コアディスキングとよばれる現象が発生する場合)は,変形が正確に測れないため計測結果の評価が困難になります。

坑道に近い場所では,坑道掘削に伴う応力解放の影響を受けて元々作用していた応力が変化しているため,初期応力を正しく評価することができません。坑道壁面から十分に距離を確保して測定を行うことにより,この問題を回避することができます。

瑞浪超深地層研究所における実施例1-3)

瑞浪超深地層研究所においては,深度100m,200m,300m,500mの坑道において,円錐孔底ひずみ法による初期応力測定を実施しました1-3)。また,水圧破砕法などにより推定された初期応力との比較検討を行いました(図4)。

坑内で実施した円錐孔底ひずみ法から推定された初期応力は,最大主応力方向が主に北-北西方向であることが確認されました。また,鉛直応力はほぼ土被り圧と同程度で,水平面内における最大主応力は深度300mまでは土被りおよび鉛直応力よりも高く,深度500m付近で土被り圧と同程度になることが確認されました。これらの結果を水圧破砕法で推定された結果と比較したところ,最大主応力の値に違いは認められますが,深度依存性や方位といった定性的な変化の傾向は整合的であることが確認されました。

これらの結果から,地表からの調査段階で取得した岩盤物性や初期応力値が妥当であったことが確認されました。

円錐孔底ひずみ法では,ボーリング孔を掘削し,そのボーリング孔底面を円錐状に成形。円錐状に成形したボーリング孔の底面に,様々な方向の変位を測定できるように複数のひずみゲージが設置されたストレインセルを孔底に接着・固定。写真はそのストレインセル。
図1 ストレインセル
この図は,孔底周辺をオーバーコアリングすることで円錐状に成形された孔底周辺の応力を解放し,その際の様々な方向に生じる岩盤の変形(ひずみ)を測定した例。
図2 オーバーコアリング時にストレインセルで観測されたひずみ
この図は,円錐孔底ひずみ法の工程を示したもの。流れとしては,①NXケーシングを挿入,②BX孔掘削,③孔底を円錐に整形,④孔底面研磨仕上げ及び清掃,⑤ストレインセルの貼付および測定準備,⑥オーバーコアリング測定,の順に行われる。
図3 円錐孔底ひずみ法の全工程
この図は,坑道内で取得した初期応力結果と地表からの調査(水圧破砕法)で取得した初期応力を比較したもの。内容は本項に記載。
図4 坑道内で取得した初期応力と地表からの調査で取得した初期応力の比較
参考文献
  1. 平野享,瀬野康弘,引間亮一,松井裕哉 (2010): 超深地層研究所計画(岩盤力学に関する調査研究)深度200mにおける立坑掘削中のひずみ計測,JAEA-Research 2011-019,51p.
  2. 丹野剛男,佐藤稔紀,真田祐幸,引間亮 (2014): 超深地層研究所計画(岩盤力学に関する調査研究)深度300mおよび深度400mにおける岩盤力学調査,JAEA-Research 2013-044,257p.
  3. 桑原和道,佐藤稔紀,真田祐幸,高山裕介 (2015): 超深地層研究所計画(岩盤力学に関する調査研究)深度500mにおける岩盤力学調査,JAEA-Research 2015-005,378p.

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