2_3_3 地表傾斜量観測技術
達成目標

地表傾斜量観測技術に関しては,地下深部の水理地質構造の推定を行う1つの方法として,揚水試験や坑道掘削などによって生じる地表の微小な傾斜変化を観測し,その結果を用いた逆解析により地下深部の地下水の体積変化を推定するための手法の開発・改良を行うことを目標としました。

方法・ノウハウ

ボーリング孔からの大規模な揚水や大規模地下構造物の建設に伴う湧水など,人為的行為によって地下深部の地下水が移動すると,岩盤には,それに伴う体積ひずみが生じると考えられます。また,地下水は,水理地質構造に規制されながら移動することから,地下水の移動に伴う岩盤の体積ひずみの変化も,水理地質構造の位置や分布を反映すると考えられます。

地下深部で生じた岩盤の体積ひずみが地表に伝わると,地表に微小な傾斜が生じます。この地表での微小な傾斜を測定し,逆解析により岩盤の体積ひずみや岩盤中の地下水体積の変化を推定し,その変化から水理地質構造を推定することが可能になります(解析方法は,成川ほか(2009)2)参照)。なお,本研究は東北大学との共同研究の成果として得られたものです1-3)

この図は,地表傾斜観測結果に基づく水理地質構造推定の流れを示したもの。地下深部で生じた岩盤の体積ひずみが地表に伝わると,地表に微小な傾斜が生じる。この地表での微小な傾斜を測定し,逆解析により岩盤の体積ひずみや岩盤中の地下水体積の変化を推定し,その変化から水理地質構造を推定するという流れを示している。
図1 地表傾斜観測結果に基づく水理地質構造推定の流れ
瑞浪超深地層研究所における実施例

瑞浪超深地層研究所の研究坑道は,2005年2月から深度約50m以深の坑道掘削を開始し,2005年10月に主立坑は深度約170m,換気立坑は深度約190mに到達しました。この間,立坑へ流れ込む湧水をつねに排水し続けていたことにより,坑道周辺では地下水圧の低下が観測されました。また,2005年10月から2006年2月までの期間は,坑道からの排水を停止したため,立坑内の水位が上昇するとともに,坑道周辺の地下水圧は立坑掘削前の状態までおおむね回復しました。その後,2006年2月に立坑からの排水を再開し,坑道周辺の地下水圧が再び低下したことが確認されました(図2)。

上記の期間,瑞浪超深地層研究所ではナノラジアン(10-9radian)オーダーの分解能を持つ傾斜計を研究所用地内の地表の4箇所に設置し,研究坑道掘削時の地表での傾斜の変化を観測しました(図3)。

この図は,研究坑道掘削の進捗と坑道周辺での水圧変化を示したもの。2005年2月から深度約50m以深の坑道掘削を開始し,2005年10月に主立坑は深度約170m,換気立坑は深度約190mに到達。この間,立坑へ流れ込む湧水をつねに排水し続けていたことにより,坑道周辺では地下水圧の低下が観測。また,2005年10月から2006年2月までの期間は,坑道からの排水を停止したため,立坑内の水位が上昇するとともに,坑道周辺の地下水圧は立坑掘削前の状態までおおむね回復。その後,2006年2月に立坑からの排水を再開し,坑道周辺の地下水圧が再び低下したことを確認。
図2 研究坑道掘削の進捗と坑道周辺での水圧変化(西尾ほか,20084)に加筆)

観測の結果,地表付近での傾斜変化の傾向は,立坑の掘削開始から排水停止までの期間(期間1),排水停止中の期間(期間2),排水再開後の期間(期間3)それぞれで異なることが確認されました(図3)。この結果から,立坑の掘削や排水停止などによる地下水流動の変化によって,地表付近の傾斜に微小な変化が生じていると考えられます。

この図は,掘削期間,排水停止期間,排水開始期間での地表付近の傾斜変化を示したもの。観測の結果,地表付近での傾斜変化の傾向は,立坑の掘削開始から排水停止までの期間,排水停止中の期間,排水再開後の期間それぞれで異なることを示している。
図3 地表付近の傾斜変化5), 6)

各期間における地表での傾斜変化データを用いた解析結果のうち,例として地下160mでの地下水の体積変化を推定した結果を図4に示します。地下水の体積減少・増加領域は,立坑付近を中心に北北西-南南東方向に広がっていると推定されました。

推定された地下水の体積減少・増加領域は,これまでの調査・観測で推定されている低透水性の2条の断層に挟まれた領域とおおむね一致しています(1_10_3)。このことから,立坑への湧水は,2条の低透水性の断層に挟まれた領域から主に供給されていることが示唆されました。この結果は超深地層研究所計画で実施された調査・観測結果と整合的であることから,本研究により開発した手法は,地下水流動に大きな影響を与える水理地質構造を推定する有効な手法の1つであることが確認できました。

この図は,各期間における地表での傾斜変化データを用いた解析結果のうち,例として地下160mでの地下水の体積変化を推定した結果を示している。地下水の体積減少・増加領域は,立坑付近を中心に北北西-南南東方向に広がっていると推定。
図4 地下水体積変化の推定結果
参考文献
  1. Matsuki, K., Nakatani, K., Arai, T., Ohmura, K., Takeuchi, R., Arai, Y. and Takeuchi, S. (2008): A quadratic element method for evaluating groundwater flow by the inversion of surface tilt with application to the Tono Area, Japan, Journal of Hydrology, 360(1-4), pp.217-229.
  2. 成川達也,松木浩二,新井孝志,大山卓也,竹内竜史,竹内真司 (2009): 立坑掘削に伴う排水・冠水・再排水時の地表面傾斜量の逆解析に基づく岐阜県東濃地域超深地層研究所用地の地下水流動場評価,土木学会論文集C,65(2),pp.442-455.
  3. 木村かおり,松木浩二,大山卓也,竹内竜史,竹内真司 (2010): 地下水流動に伴う地表面傾斜量に及ぼす岩体の不均一性と地表面形状の影響,Journal of MMIJ,Vol.126,pp.660-667.
  4. 西尾和久,松岡稔幸,見掛信一郎,鶴田忠彦,天野健治,大山卓也,竹内竜史,三枝博光,濱克宏,吉田治生,水野崇,齋正貴,中間茂雄,瀬野康弘,弥富洋介,島田顕臣,黒田英高,尾方伸久,仙波毅,池田幸喜,山本勝,内田雅大,杉原弘造 (2008): 超深地層研究所計画 年度報告書(2005年度),JAEA-Review 2008-073,99p.
  5. 大山卓也,竹内竜史,三枝博光,尾上博則,松木浩二 (2008):地表傾斜データを用いた水理地質構造の推定手法の有効性について,第37回岩盤力学に関するシンポジウム講演要旨集,pp.245-250.
  6. 野原壯,三枝博光,岩月輝希,濱克宏,松井裕哉,見掛信一郎,竹内竜史,尾上博則,笹尾英嗣 (2015): 超深地層研究所計画における研究坑道の掘削を伴う研究段階(第2段階)研究成果報告書,JAEA-Research 2015-026,98p.

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