2_2_9 地下施設閉鎖後の回復挙動の予測解析 -坑道周辺を対象として-
達成目標

地下施設を建設した場合,坑道からの地下水の排水による水圧低下やそれによる地下水の流れ方が変化することにより地下水の水質が変化します。他方,地下施設を閉鎖した場合には,坑道からの排水の停止や外部環境からの遮断(例えば,地上から坑道内に送り込まれる外気からの遮断など)により,水圧の上昇や水質の変化が予測されます。ここでは,瑞浪超深地層研究所の深度500mの冠水坑道で実施した再冠水試験を事例に,地下施設閉鎖時の坑道周辺における地下水の水圧・水質変化の予測・再現解析を実施し,数値解析技術の整備を目標とします。

方法・ノウハウ

数値計算 を実施する場合には,例えば,岩盤中の水の流れやすさを示す透水係数が岩盤内部でどのように分布しているのかといった地質・地質構造や,解析対象範囲,地下水の水圧や水質の初期条件(予測計算開始時点)と境界条件(解析対象範囲の境界)を適切に設定する必要があります。

地下施設建設時の地下水の水圧・水質変化の予測解析では,まず解析対象とする領域を選び,その領域の地形図や地質図,ボーリング孔のデータなどを用いて水理地質構造モデルを構築し,解析のための初期条件や境界条件を設定します。坑道掘削時に追加で取得されるデータを利用することで地質環境モデルを更新(2_2_7)し,実際に観測される地下水の水圧・水質変化の再現性を高めることができます。

地下施設閉鎖時の回復挙動の予測解析では,施設閉鎖のプロセスに沿って坑道掘削解析を逆再生するような解析を実施することになります。この過程においても,モニタリングデータが利用できる場合にはキャリブレーションなどにより水理地質構造モデルなどを更新することは可能ですが,地質・地質構造に関する情報など,直接的にベースとなる地質構造モデルに反映できる情報は坑道掘削時のように取得することはできません。従って,精度の高い坑道閉鎖時の予測解析を実施するためには,地下施設建設時に取得されたデータを十分に活用し,地下施設建設時の地下水の水圧・水質変化を十分な精度で予測できるモデルを使用する必要があります。

瑞浪超深地層研究所における実施例1), 2)

地下施設建設から閉鎖時に至る過程における地下水の水圧・水質変化のシミュレーション手法を開発するために,瑞浪超深地層研究所の深度500mの冠水坑道で実施した再冠水試験を対象とした数値解析を実施しました。シミュレーションに必要な水理地質構造モデルを作成するために,冠水坑道掘削前に取得された割れ目データを利用してDFNモデルを作成しました。DFNモデルでは,確率論的にモデルを作成するため,複数のモデルを作ることができます。これらモデルのうち,冠水坑道掘削後の水圧を最も正確に再現できるDFNモデルを選びました。その後,有限要素法による解析を実施するために,DFNモデルを多孔質媒体に置き換える手法(等価多孔質媒体モデル,equivalent continuous porous medium: ECPM)を適用し,再度,坑道掘削時の周辺ボーリング孔での水圧および坑内で測定された湧水量を再現できるようにモデルをキャリブレーションしました。なお,水圧の境界条件や初期条件に関しては,冠水坑道の直近に位置するボーリング孔や他深度に位置するボーリング孔で取得されたデータを参考に設定しました1), 2)

図1は,冠水坑道閉鎖時の地下水の水圧変化です。観測されたデータでは,坑道閉鎖と同時に水圧が上昇しており,坑道掘削前と同程度まで回復しました。再現解析結果でも同様の結果が得られており,おおむね良好な結果を得ることができました。このように,坑道閉鎖後の水圧回復は早いことが分かりました。

水質変化ではCl-(塩化物イオン)濃度を対象 とした解析を実施しました。地下水中のCl-濃度は,一般的に化学反応による変化が起きにくいため,混合プロセスのみを考慮したシンプルな計算で解析可能です。図2は,再冠水試験の実施時における地下水中のCl-濃度の空間分布を予測した結果です。Cl-濃度の観測結果から,坑道掘削時(2013年4月~10月)には坑道掘削に伴う地下水流動の変化の影響を受けて大きく変化するものの,それ以降は坑道を閉鎖(2016年1月~)しても坑道掘削時と比較して変化が小さいという結果が得られました。再現解析(図3)では,変化の幅は観測値と異なるものの,その傾向はおおむね近い結果が得られました。これは,坑道閉鎖時には冠水坑道周辺の地下水の水圧がすぐに回復してしまうために物質移動が拡散的になるためと考えられます。

この図は,冠水坑道閉鎖時に冠水坑道周辺のボーリング孔で観測された水圧上昇の実測値と数値解析結果の比較した図。観測されたデータは,坑道閉鎖と同時に水圧が上昇しており,坑道掘削前と同程度まで回復。再現解析結果でも同様の結果が得られる。このように,坑道閉鎖後の水圧回復は早いことを確認。
図1 冠水坑道閉鎖時に冠水坑道周辺のボーリング孔で観測された水圧上昇と数値解析結果の比較
実線が観測結果,破線が再現解析結果
この図は,再冠水試験の実施時における地下水中のCl-濃度の空間分布を予測した結果。濃度分布は,冠水坑道の上位は300mg/L,冠水坑道周辺は400~600mg/L,下位は700mg/L以上となっている。
図2 再冠水試験時の冠水坑道周辺におけるCl-濃度分布の予測解析結果
この図は,冠水坑道掘削時から坑道閉塞後に至る冠水坑道周辺のボーリング孔で観測されたCl-濃度の観測結果と数値解析結果の比較したもの。再現解析では,変化の幅は観測値と異なるものの,その傾向はおおむね近い結果。
図3 冠水坑道掘削時から坑道閉塞後に至る冠水坑道周辺のボーリング孔で観測されたCl-濃度の観測結果と数値解析結果の比較
実線が観測結果,破線が再現解析結果。単位はmg/L。
参考文献
  1. Iwatsuki, T., Onoe, H., Ishibashi, M., Ozaki, Y., Wang, Y.F., Hadgu, T., Jove-Colon, C.F., Kalinina, E., Hokr, M., Balvín, A., Zeman, J., Landa, J. and Šembera, J. (2018): DECOVALEX-2019 Task C; GREET Intermediate report, JAEA-Research 2018-018, 140p.
  2. Ozaki, Y., Ishibashi, M., Onoe, H. and Iwatsuki, T. (2018): Hydro-Mechanical-Chemical (HMC) simulation of Groundwater REcoverry Experiment in Tunnel (GREET), Proceedings of 10th Asian Rock Mechanics Symposium & The ISRM International Symposium for 2018 (ARMS 2018), 11p.

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