2_2_7 地質環境モデルの更新
達成目標
地下施設の建設に伴う調査や工事で得られる地質環境特性に関する情報を用いて,地上からの調査段階で構築した地質環境モデルの妥当性確認および更新を行うことを目標とします。
方法・ノウハウ
① 地質環境モデルの妥当性確認:
地質環境モデルの妥当性確認においては,概略的には以下の2つの考え方があります。地上からの調査段階で構築したモデルと,地下施設の建設・操業段階 での調査結果もしくは更新したモデルと比較した結果,相違がある場合は,それが設計・施工や安全評価のそれぞれの観点で許容できるかどうかを評価する必要があります。
- 坑道壁面や,坑道からのボーリング孔で直接観察もしくは測定できるモデル構成要素(断層の形状や地質学的性状など)については,位置や性状の実測値(観察結果)と地上からの調査段階での予測結果とを比較する。
- 坑道壁面や,坑道からのボーリング孔で直接観察もしくは測定できないモデル構成要素(例えば,断層分布や水理特性分布,水質分布など)については,地下施設建設段階で取得するデータに基づき更新した地質環境モデルと地上からの調査段階で構築した地質環境モデルとを比較する。
② 地質環境モデルの更新:
地質環境モデルを更新するにあたっては,各分野のデータを統合的に解釈することが重要となります。図1に地質情報の統合的解釈による地質環境モデル更新の考え方を示します。地下施設建設段階では,坑道壁面調査や坑道内からの水平ボーリング調査が実施できるため,地上からの調査段階では取得できない地質環境特性に関する情報を得ることができます。また,深度数百mに及ぶ地下施設の建設に伴って,地下施設周辺の地下水の水圧や水質といった地下水環境が変化することが予想されます。この地下水環境の変化は,坑道と遭遇した水理地質構造の透水性や水理学的な連続性の影響を受けていることから,地下深部の岩盤の透水性分布を推定するための有効な情報となります。

(超深地層研究所計画の例1))
瑞浪超深地層研究所における実施例2-4)
ここでは,超深地層研究所計画の研究坑道の掘削を伴う研究段階(以下,第2段階)で実施した地質環境モデルの更新のうち,地質構造モデルと水理地質構造モデルの更新事例や得られた知見をいくつか紹介します。
- 研究坑道の壁面地質調査および研究坑道からのボーリング調査と物理探査によって,断層の分布を把握し,地質構造モデルを更新した(図2)。その結果,従来の地質図には記載されていなかった断層に関する地表からの調査予測研究段階(以下,第1段階)での推定結果の妥当性が確認できた。
- 第2段階で実施したボーリング調査および換気立坑の壁面地質調査の結果,地表からの調査で予測した土岐花崗岩中の上部割れ目帯の下限深度が誤差10m以内の精度で推定できていることを確認した。
- 一方で,第1段階で確認されていた断層の中には,異なる断層を同一と見なしたり,同一の断層を異なる断層と見なしたりした事例が認められた。そのため,断層の分布に関しては,その走向方向についてはおおよそ把握することが可能であるものの,断層の連続性(あるいは連結性)や地下深部での分布位置については,推定結果に大きな誤差が含まれる場合があることが示唆された。
- 地下水の水質モニタリングを継続して,第1段階で予測した地下水水質の空間分布(1_11_3)の妥当性を確認するとともに,地下施設の建設・操業に関わる地球化学特性の変化の基礎的な知見(2_2_2)を取得した。
- 研究坑道の掘削に伴う水圧・水質モニタリングの観測データ(2_2_2)に基づき研究所用地周辺の水理地質構造の概念モデルを構築するとともに(図3),その概念モデルを考慮した地下水流動のモデル化・解析を実施することで,図4に示すように坑道への湧水量や坑道周辺の地下水圧分布をおおむね再現できる岩盤の透水性分布を推定することができた。
- 第2段階では,第1段階と比較してより精緻な水理地質構造モデルを構築することができ,地下施設の建設・維持管理時に取得される水理関連データやそれらを用いたモデル化・解析が,地下施設周辺の地下水流動特性の推定に有効であることを示した。
- 結晶質岩地域を対象とした地下施設の建設・維持管理時における地下施設周辺の地下水流動を対象としたモニタリングやその観測データに基づくモデル化・解析の考え方を体系的に提示した(図5)。




参考文献
- 三枝博光,瀬野康弘,中間茂雄,鶴田忠彦,岩月輝希,天野健治,竹内竜史,松岡稔幸,尾上博則,水野崇,大山卓也,濱克宏,佐藤稔紀,久慈雅栄,黒田英高,仙波毅,内田雅大,杉原弘造,坂巻昌工 (2007): 超深地層研究所計画における地表からの調査予測研究段階(第1段階)研究成果報告書,JAEA-Research 2007-043,337p.
- 濱克宏,水野崇,笹尾英嗣,岩月輝希,三枝博光,佐藤稔紀,藤田朝雄,笹本広,松岡稔幸,横田秀晴,石井英一,津坂仁和,青柳和平,中山雅,大山卓也,梅田浩司,安江健一,浅森浩一,大澤英昭,小出馨,伊藤洋昭,長江衣佐子,夏山諒子,仙波毅,天野健治 (2015): 第2期中期計画期間における研究成果取りまとめ報告書; 深地層の研究施設計画および地質環境の長期安定性に関する研究,JAEA-Research 2015-007,269p.
- 野原壯,三枝博光,岩月輝希,濱克宏,松井裕哉,見掛信一郎,竹内竜史,尾上博則,笹尾英嗣 (2015): 超深地層研究所計画における研究坑道の掘削を伴う研究段階(第2段階)研究成果報告書,JAEA-Research 2015-026,98p.
- 尾上博則,三枝博光,竹内竜史(2016): 超深地層研究所計画の研究坑道の掘削を伴う研究段階における地下水流動のモデル化・解析,土木学会論文集C(地圏工学),Vol.72,No.1,pp.13-26.