2_2_6 物質移動特性の評価技術 -コロイド・有機物・微生物の影響-
達成目標

日本の結晶質岩は,海外の結晶質岩と比べて割れ目の密度が高く,割れ目の透水性のばらつきが大きい特徴があります。このような岩盤の特徴を踏まえて物質移動現象をモデル化するためには,花崗岩中での物質移動現象を理解するとともに,地下水中の元素の挙動に関連する影響因子(コロイド・有機物・微生物)を調査・評価する必要があります。ここでは,岩盤および地下水における物質移動とその遅延効果などに影響を与えると考えられる,コロイド,有機物,微生物の評価について,それに関する技術的知見を整備することを目標とします。

方法・ノウハウ1)
瑞浪超深地層研究における実施例

瑞浪超深地層研究所では,前述の方法・ノウハウで示した手法を適用し,深度200~500mの予備ステージ,深度300mおよび500mの研究アクセス坑道から花崗岩中に掘削されたボーリング孔を利用して地下水の採取・分析を行い,地下水中のコロイド,有機物,微生物の存在量や各種元素との相関について解析を行いました。さらに,深度500m 冠水坑道中の地下水を対象として,坑道の掘削・閉鎖により人為的な影響を受けた地下水中のコロイド,微生物(バイオフィルムなどの有機物を含む)についても,同様の調査・解析を行いました。また,放射性元素の移動プロセスに対するそれらの影響を考察するため,放射性元素と同様の化学特性を示す天然の希土類元素(Rare-Earth Element,以下REE)を指標(アナログ元素)として分析しました。なお,上記の調査を行うにあたり,高い水圧をもった地下水中の微小粒子をろ過して捕集する技術を開発して用いました2)

コロイド

この図は,花崗岩中の地下水で観察されたコロイド・懸濁粒子の写真。地下水中には0.1~100μm以上の大きさの粒子が認められ,その組成はケイ酸塩鉱物(長石,雲母,粘土鉱物など),鉄鉱物,炭酸塩鉱物,硫化物,有機物などから構成されており,コロイド濃度は1~15μg/Lと推定。
図1 花崗岩中の地下水で観察される様々なコロイド・懸濁粒子の例
この図は,地下水とコロイド粒子に含まれる希土類元素(REE)量を示したもの。地下水中の希土類元素の数十%がコロイド粒子と共に存在していることを確認。
図2 地下水とコロイド粒子に含まれるREE量
この図は,冠水試験前後の冠水坑道における地下水中の溶存態・コロイド態希土類元素(REE)濃度を比較したもの。閉鎖後の冠水坑道内の地下水は,坑道周辺のボーリング孔の地下水に比べてアルミニウムや鉄を含む粒子が多い一方で,溶存態およびコロイド態のREE濃度が低くなる特徴があることを確認。
図3 冠水試験前後の冠水坑道における地下水中の溶存態・コロイド態REE濃度

微生物

深度500mの冠水坑道で行った再冠水試験では,冠水坑道の閉鎖後,約3か月間で還元環境に回復。この図は,この時の溶存酸素濃度や溶存イオン濃度,微生物相の経時変化を示したもの。坑道閉鎖直後に坑道内の地下水中に含まれていた酸素を微生物が利用して代謝反応が活発化し,酸素が消費された後には硝酸還元菌や硫酸還元菌が酸化還元を連続的に行ったことで,還元環境が早期に形成されたことを確認。
図4 冠水坑道内における地下水水質と微生物数の経時変化
参考文献
  1. 松岡稔幸,濱克宏 (2020): 超深地層研究所計画における調査研究-必須の課題に関する研究成果報告書-,JAEA-Research 2019-012,157p.
  2. 青才大介,吉田治生,水野崇 (2009): 超深地層研究所における地下水の地球化学に関する調査研究; 地下水の地球化学環境を保持したろ過手法に関する技術開発,JAEA-Testing 2009-003,27p.
  3. Iwatsuki, T., Munemoto, T., Kubota, M., Hayashida, K. and Kato, T. (2017): Characterization of rare earth elements (REEs) associated with suspended particles in deep granitic groundwater and their post-closure behavior from a simulated underground facility, Appl. Geochemistry, 82, 134-145.
  4. Suzuki, Y., Konno, U., Fukuda, A., Komatsu, D.D., Hirota, A., Watanabe, K., Togo, Y, Morikawa, N., Hagiwara, H., Aosai, D., Iwatsuki, T., Tsunogai, U., Nagao, S., Ito, K. and Mizuno, T. (2014): Biogeochemical Signals from Deep Microbial Life in Terrestrial Crust, PLOS ONE, 9, no.12: e113063.
  5. 林田一貴, 加藤利弘, 久保田満, 村上裕晃, 天野由記, 岩月輝希 (2018): 坑道閉鎖試験に基づく坑道掘削・閉鎖時の化学環境変化プロセスの考察, 地球化学, 52, pp.55-71.

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