現在、放射線標準施設棟では、4MVバンデグラフ加速器を用いた中性子校正場の開発が進められています。質の高い校正場を開発するためには、校正場のフルエンス及びエネルギーの分布の評価を含めた中性子発生用ターゲットの最適設計が重要となります。これらの設計計算には、荷電粒子の挙動計算,核反応による中性子の生成及び生成した中性子の輸送計算を一貫して取り扱うことが可能な計算コードが必要です。現在のところ、荷電粒子の挙動計算と中性子の輸送計算を行うコードはそれぞれ多数存在します。しかし、核反応による中性子の生成を含めて、両者の計算を一貫して取り扱うことが可能な公開コードは存在しておりません。このため、当課では、中性子発生用ターゲット・校正場解析コードシステムMCNP-ANT (MCNP for Accelerator Neutron Target)を開発しました。
MCNP-ANTコードシステムは、ターゲットにおける荷電粒子の発生・輸送、中性子の生成・輸送を一貫して計算するために、今回新たに作成したモンテカルロプログラムです。新たに作成したモンテカルロプログラムの特徴は以下のとおりです。
計算コードの妥当性を検討するために、荷電粒子の挙動についてはTRIM/SRIMコードとの比較を、全体については他の単色中性子校正場における実験値との比較を行いました。
図1 MCNP-ANTとTRIM/SRIMで計算した荷電粒子停止位置の深さ分布の比較
図1に、荷電粒子の停止位置の深さ分布についてMCNP-ANTとTRIM/SRIMの計算結果を比較したものを示します。エネルギーストラッグリングの取扱いの違いによりわずかにピーク位置が異なっているものの、両者はよく一致しています。
Source Reaction |
Target/ Backing |
Neutron energy |
Energy spread | Neutron fluence at
10cm (cm-2・μC-1) |
||
---|---|---|---|---|---|---|
MCNP-ANT | Baba et.al | MCNP-ANT | Baba et.al | |||
3H(d,n)4He | Ti-T / Cu | 15 MeV | 400 keV | ~500 keV | 1.4×105 | 8.0×104 |
7Li(p,n)7Be | LiF / Pt | 550 keV | 55 keV | ~50 keV | 2.5×104 | 3.2×104 |
7Li(p,n)7Be | LiF / Pt | 250 keV | 60 keV | ~50 keV | 6.5×103 | 1.0×104 |
表1に、3H(d,n)4He反応及び7Li(p,n)7Be反応により発生した中性子のフルエンス及びエネルギーの広がり幅について、MCNP-ANTによる計算と東北大学で行われた実験値の比較を示します。
図2 中性子スペクトルに関するMCNP-ANTの計算結果とTOF法による測定結果との比較
また、図2に中性子スペクトルを比較したものを示します。実験における入射粒子エネルギーの詳細が不明であること、実際のターゲットの状態を厳密に模擬できないこと、TOF測定における時間分解能による広がりがあることなどを考慮すると、計算値は実験値をほぼ再現しているといえます。したがって、本コードは中性子発生用ターゲットの設計に関して妥当性が確認された。
今後、さらに詳細なターゲット設計を行うために、取扱い可能な中性子生成核反応の種類を増やす必要があります。