キーノートスピーチ「国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)の将来展望」
ジェリー・ポール 米国 エネルギー省 国家核安全保障庁 副長官

世界的なエネルギー需要は社会や経済発展とともに急激に増大しており、2025年までに50%増加、電力需要も75%増加すると見込まれている。このような状況に鑑み、インドや中国では新規原子炉の建設が進んでおり、世界で約130基の新規原子力発電所が建設中、もしくは計画されている。一方で国際社会は原子力の開発と利用を促進しクリーンで安全なエネルギーの恩恵を享受しつつ、同時に核兵器技術と核物質の拡散リスクを最小限に抑えることができるかのジレンマに陥っている。このジレンマは、核兵器不拡散条約(NPT)を推進していく上で常に大きな課題であった。NPTは、原子力の発展と持続に必要不可欠であるが、NPT下の義務への違反により、国家は民生原子力計画を核兵器開発活動の隠れ蓑に使うことが可能である。したがって我々は、このNPTを強化する方策を模索する必要がある。
この課題に対処するため、ブッシュ大統領は、エネルギー安全保障の強化、二酸化炭素排出を伴わない電源の開発、環境の改善、及び核拡散リスクの削減を目的として、国際エネルギー・パートナーシップ(GNEP)を提案した。GNEPはエネルギー・セキュリティをもたらすものであり、我々は、核拡散のリスクを低減しつつ、利用国の利益にかなう原子炉と燃料サービスを提供する技術的かつ制度的な取決めに関して、主要な原子力供給国のコンセンサスを得られるよう努力している。世界が必要とするGNEPの目標は下記の通りである。
- 二酸化炭素の排出を削減しつつ、適切な方法で世界のエネルギー需要を満たす原子力発電の供給を拡大すること
- 濃縮と再処理技術の拡散を制限すること
- 分離プルトニウムの蓄積を削減すること
- プルトニウムをアクチニドと共に回収し、ウランと混合して新燃料として使用できるよう使用済燃料のリサイクル技術を開発すること
- プルトニウムとアクチニドの混合物を燃料とする原子炉技術を開発すること(これにより長期の廃棄物管理の問題を大幅に低減できる)
- 燃料供給者間で、開発途上国に確実な燃料供給を行うための燃料リースの仕組みを作り、独自の濃縮及び再処理施設開発を放棄するインセンティブを与えること
- 核拡散抵抗性、核物質防護、及び民生利用のために、先進的な保障措置がリサイクル施設と原子炉に適用されること
原子力は、上記のガイドラインの下で国際的な核不拡散の目的に合致しつつ拡大可能であり、今後50年間、米国を含む世界で原子力プラントの数を倍増できると考える。しかし、そのためには燃料サイクルのマネージメントを根底から変えること、つまり使用済燃料に対する新しいアプローチの構築や、使用済燃料管理を最適化し、ウラン資源を効率的に利用する必要がある。GNEPの目標達成のため、エネルギー省(DOE)は7つの要素(エレメント)から成る以下の戦略を構築した。

2002年に政府は、新規原子力プラントの立地と建設につき、規制手続きを合理化することを目的とした産業界との経費イニシアティブである「Nuclear Power 2010プログラム」を発表した。このプログラムは現在順調に進んでおり、初めての建設・運転ライセンス(COL)申請と認可を目的として2つのケースのスポンサーとなっている。
米国では、どんなシナリオでも地層処分が必要であり、直接処分は古い商業用使用済燃料の一部と分離プロセスが開発されていない特定燃料のためのものである。GNEPの下では超ウラン元素(TRU:ネプツニウム、アメリシウム、他)は廃棄物として処分されずリサイクルされる。残りの核分裂生成物は単一の地層処分場で処分される。GNEPでは廃棄物処分に関して、(1)廃棄物量の大幅な削減、(2)熱負荷の低減、及び(3)長寿命放射性核種の削減の、3つの改善が可能である。
DOEでは、既存のリサイクル技術における主な拡散リスクであるプルトニウムにつき、これを分離せず、新しい使用済燃料リサイクル技術の開発、実証、及び実用化を促進し、当該技術は供給国とのパートナーシップによって行う。「先進燃料サイクル・イニシアティブ(AFCI:Advanced Fuel Cycle Initiative)」プログラムでは、実験室規模で実証に成功し、現在では大規模実証プログラムに移行できる有望な原子力技術オプションを特定してきた。今から着手すれば、パイロット及び工学規模実証フェーズ実施期間に生じる問題に取り組む十分な時間がある。
米国とその国際パートナーは、プルトニウムを単離せずに使用済燃料中の有用成分を廃棄物成分から分離する先進サイクル技術(Uranium Extraction Plus (UREX+))の工学規模実証(ESD)の実施を提案している。GNEPでは、すべてのリサイクル国にプルトニウムを単離しない工程を奨励している。日仏とも核拡散抵抗性強化のため、最終製品にウランを混合する措置をすでに実施している。
米国とGNEPのパートナー国は、原子炉の使用済燃料中のTRUを消費する先進燃焼炉(ABR)の開発と実証を行う。TRUを炉で消費することにより、放射能及び放射性毒のある発熱物質を減衰まで数十万年間収容するという地層処分場の要件を回避できる。また我々はUREX+工程からのTRUを使用したABR用燃料の開発や試験も実施予定である。
GNEPは先進原子力技術を有する国々から成る信頼性ある国際燃料サービス・コンソーシアムを構築、強化する。当該コンソーシアムにより、核拡散リスクを最低限に抑えつつ、開発途上国は経済的に原子力エネルギーを得ることができる。「揺りかごから墓場まで」の燃料リース・アプローチにより、燃料供給国は新燃料を利用国に提供し、使用済燃料は供給国に返還され、プルトニウムを単離しない工程でリサイクルされ供給国のABRで利用される。最終廃棄物は利用国か、商業サービスを提供する別の国の処分場に返還されるかもしれない。これにより、多くの利用国は、濃縮、リサイクル、及び処分施設に投資することなく、信頼性ある燃料供給の恩恵を享受できる。この多大で経済的なインセンティブは、濃縮及び再処理技術の拡散防止に役立つものである。
米国とそのパートナー国は、開発途上国の条件に適した既存の経済的で安全な小型炉の開発を進める。さらに炉寿命期間中、同一燃料を利用し、燃料交換が不要な小型炉の設計、開発、及び展開を奨励する。
国際保障措置は、原子力の世界的な展開や核拡散抵抗性のある将来の燃料サイクル技術の開発において欠くことのできないものである。IAEAが効果的かつ効率的に核物質を監視、検認できるように新たな先進原子力施設の計画や建設に直接、先進的な保障措置アプローチを設計する。また、輸送や貯蔵、及び処分を含む燃料サイクルのすべての側面において保障措置やセキュリティを強化すべきである。
GNEPは排他的なものではなく、この重要な国際協力を支持して集まる、すべての国に対して包括的な機会であり、燃料サイクルを再構築し、核拡散を抑制し新たな取決めを創設する機会を提供するものである。我々は、GNEPが供給国、利用国双方にとって平等な取引であることを実証することが必要であると思っている。兵器製造能力を放棄する代わりに、利用国は濃縮や処分場に投資することなく、原子力エネルギーシステムが利用可能となる。GNEPは、偉大な目的のための偉大な挑戦である。アイゼンハワー大統領が1953年の国連の"平和のための原子力(Atoms for Peace)"の演説の中で、「軍備構築でなく、まず人類の向上心に関心を持つべき」と述べているように、GNEPはこの精神を具体化するものであり、我々は貴方のパートナーシップを求めている。