3_1_3 地下施設閉鎖後の地質環境モニタリング技術
達成目標
瑞浪超深地層研究所の研究坑道の掘削を伴う研究段階(第2段階)および研究坑道を利用した研究段階(第3段階)では,研究坑道に湧出する地下水を長期にわたって地上に排水するため,周辺の地下水の水圧の変化および,それに付随する地下水の水質の変化が引き起こされることが確認されました(2_2_2)。このような大規模な地下施設の建設・維持管理(操業)による地下水環境の変化は諸外国でも報告されています例えば1-6)。坑道埋め戻し中および埋め戻し後も,これらの行為によって地下水環境が変化,定常化すると考えられますが,カナダでの事例を除き,地下施設閉鎖後の地質環境の変化を観察した事例はほとんどありません。
地下施設の閉鎖後の地下水環境は,安全評価の設定条件の1つであることから,埋め戻しに伴う地下水環境の回復・定常化過程を把握することは重要です。そこで,坑道埋め戻し中および埋め戻し後に地下水の水圧・水質観測を継続的に実施し,坑道の埋め戻しに伴う地下水の水圧・水質環境の変化を把握することを目標とします。
方法・ノウハウ
地上から掘削したボーリング孔を用いたモニタリング7)
地上から掘削したボーリング孔を用いたモニタリングでは,これまでのモニタリング(2_2_2)の結果を踏まえ,観測を行うべき重要なモニタリング区間を抽出します。地下施設の閉鎖後による地質環境の変化をモニタリングするためには,地下施設の建設や操業時に水圧や水質の変化が認められた区間が観測を行うべき重要な区間になると考えられます8)。
国外の事例として,カナダのホワイトシェルに建設された地下研究所(URL)が2010年に施設の閉鎖に伴い水没しています。地上から掘削されたボーリング孔を使った地下水位モニタリングが水没から3年間行われ,地下水位が回復していく様子が観測されました。また,数値解析によって地下水位が水没から約10年でURL建設前に回復すると予測されており,地下水位モニタリングはこれを支持する結果を示しました9-12)。
地下施設の閉鎖前後でモニタリング項目が大きく変わらない場合は,これまでの観測方法をそのまま活用できると想定されます。ただし,ボーリング孔の孔壁や,内部に挿入している装置の状態を考慮しつつ,必要に応じてメンテナンスを行う必要があると考えられます。一方で欧州では,閉鎖後モニタリングの要否も含め,ステークホルダーと議論して検討する可能性があることが言及されており13),その方法や期間が具体的に決められた事例はまだありません。
地下施設内のボーリング孔を用いたモニタリング
地下施設内に掘削したボーリング孔を用いたモニタリングは,従来は坑道内に人が入って採水やデータ回収を行うシステムであり,これを地上からモニタリングした事例はありません。そのため,瑞浪超深地層研究所では,研究坑道の埋め戻しに伴う環境モニタリング調査の一環として,埋め戻し後も坑道内のボーリング孔から地下水の水圧・水質データを取得可能なシステムを構築しました(「瑞浪超深地層研究所における実施例」参照)。
環境モニタリング調査は坑道埋め戻しの開始から約5年間の計画であり,その期間に観測ができることを念頭に,水圧は光ファイバ水圧センサーを,水質(採水)は地下水モニタリング配管を,それぞれボーリング孔に挿入したパッカーシステムに接続したモニタリングシステムを構築しました。
瑞浪超深地層研究所における実施例
研究所用地および周辺での地下水の水圧・水質モニタリングについては,超深地層研究所計画の第2段階,第3段階における調査研究と同様に,地上から掘削されたボーリング孔でのモニタリングを継続します。また,坑道近傍での地下水の水圧・水質モニタリングについては,坑道から掘削されたボーリング孔を利用した地下水の水圧・水質モニタリングの地上化システム(地上で観測できるシステム)を用いたモニタリングを実施します。
瑞浪超深地層研究所の環境モニタリング調査では,水圧を連続で,水質を年に1回~2回の頻度でモニタリングする計画です。観測項目としては,間隙水圧または孔内水位と,水質については一般水質分析項目に加え,環境基本法における地下水の水質汚濁に係る項目を対象としています。
1) 研究所用地および周辺での地下水の水圧・水質モニタリング
地上から掘削されたボーリング孔でのモニタリング地点を図1に示します。05ME06号孔は超深地層研究所計画の第2段階から,その他の観測孔では超深地層研究所計画の第1段階から観測を継続しており,研究坑道掘削前から研究坑道埋め戻し後までの地下水の水圧・水質変化のモニタリングを行うことができます。

2) 坑道近傍での地下水の水圧・水質モニタリング
超深地層研究所計画の第2段階,第3段階の調査研究では,研究坑道から掘削されたボーリング孔を用いて,研究坑道周辺の地下水の水圧・水質モニタリングを実施しました。ここで用いたモニタリングシステムとしては,地下水水圧データの収録装置(データロガー)や水質分析試料を採取するための採水装置を坑道内に設置しているため,坑道へのアクセスができない坑道埋め戻し中および埋め戻し後は,これらのモニタリングシステムが使用できません。そこで,坑道から掘削されたボーリング孔に設置されているパッカーシステムを利用して,地上から地下水の水圧モニタリングや地下水試料の採取が可能なモニタリングシステムを構築し,研究坑道に設置しました。
地下水の水圧モニタリングシステム
地下水の水圧モニタリングについては水圧センサーなどへの電力供給や,長期観測に伴うセンサーのメンテナンス・交換が必要となります。しかしながら,坑道埋め戻し中および埋め戻し後のモニタリングでは,地上から地中に埋設されたセンサーなどへの電力供給技術は確立されておらず,また,埋設されたセンサー類のメンテナンス・交換は不可能です。これらの課題に対して,地中での電力供給が不要であり,センサーの長期耐久性が期待される光センシング技術を適用した光ファイバ水圧センサーによる水圧モニタリングシステムを構築しました(図2)。このシステムは,研究坑道から掘削されたボーリング孔に設置されているパッカーシステムの観測区間からつながる水圧モニタリング用チューブにファブリペロー式光ファイバ水圧センサーを接続し,光通信により地上のデータ収録装置に水圧データを転送・記録することができます。

地下水の水質モニタリング地上化システム
地下水水質モニタリングについては,地上から掘削されたボーリング孔で使用する地下水の水圧・水質モニタリングシステム(カナダ・Westbay社製MPシステム)を改良した地下水モニタリング用配管を立坑内に設置し,地下水モニタリング用配管と研究坑道から掘削されたボーリング孔に設置されているパッカーシステムを接続して地上から採水可能なシステムを構築しました(図3)。

技術の有効性・留意点
研究所用地およびその周辺での地下水の水圧・水質モニタリングの方法は,超深地層研究所計画の第1段階からの継続であり,これまでの実績から,坑道の埋め戻し中および埋め戻し後のモニタリングも適用可能だと考えられます。
一方で,坑道近傍での地下水の水圧・水質モニタリングで用いるモニタリングシステムは,これまでに同様のシステムによる観測事例が存在しなかったことから,瑞浪超深地層研究所に構築したモニタリングシステムを用いて,坑道埋め戻し中の水圧モニタリングと採水機能の有効性を確認しました。その結果,坑道を全て埋め戻した後においても,地上から地下水の水圧モニタリングと採水が可能であることを実証できました。今後は,本システムを坑道埋め戻し後のモニタリングに適用していく予定です。また,これらの観測を通じて,研究坑道近傍から研究所用地およびその周辺での坑道埋め戻しに伴う地下水環境変化を把握する予定です。
参考文献
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