3_1_2 止水技術
達成目標

地下施設全体の埋め戻しにおいて,段階的に坑道を閉鎖するために不可欠な要素技術として止水壁を取り上げ,その設計・施工技術を確認することを目標とします。

方法・ノウハウ

止水壁は,将来の地下施設の閉鎖時のプラグと同等の役割を担うことになります。また,高レベル放射性廃棄物地層処分の分野においては,人工バリアを構成する緩衝材の流出を防止することや,放射性核種の移行経路となる坑道周辺の掘削影響領域を遮断する機能が求められます。止水壁の設計にあたって最も重要な機能は遮水性能ですが,水圧を支持する止水壁躯体の力学的機能のみならず,止水壁と岩盤との間の水密性も重要になります。このような機能を保持できるように止水壁躯体の材料となるコンクリートの配合試験や室内物性試験,および周辺岩盤を含めた止水壁の数値解析などによる構造力学的安定性や温度応力に関する検討を実施した上で,止水壁の形状(図1に形状の例を示す)やコンクリート材料の使用などを設定する必要があります。

この図は,人工バリアを構成する緩衝材の流出を防止することや,放射性核種の移行経路となる坑道周辺の掘削影響領域を遮断する機能を作用させるために設置される止水壁の形状の例を示してもの。止水壁の形状として,ひし型(止水壁の背面にかかる水圧をくさびによって対抗する形状)と,アーチ型(ダムのようにアーチ型にへこませ水圧に対抗する形状)があげられる。
図1 止水壁構造比較

超深地層研究所計画では,止水壁の設計にあたっては,工期・工費の観点からコンクリートによる躯体の構築を前提として,国内外のプロジェクトを参考に求められる性能や用途,設計に使用した基準,用いた材料などを整理し,考慮すべき事項を取りまとめました。その結果,材料については石油ガス備蓄基地が,形状については打設量が少ないDOPAS(Full-scale Demonstration Of Plugs And Seals)プロジェクトが参考事例として抽出されました。一方で,深度500mに建設される止水壁には最大水圧5MPaに対する耐圧性能を保持させる必要があるため,難易度の高い設計・施工が予想されました。これら超深地層研究所計画における止水壁の設計の詳細な内容については深谷ほか(2015)1)をご参照ください。

瑞浪超深地層研究所における実施例

超深地層研究所計画では,止水壁の設計にあたって,原位置における地質環境条件を踏まえた構造解析を行い,止水壁および周辺岩盤の力学的安定性について検討しました。図2に汎用非線形有限要素法解析プログラムABAQUSを用いた止水壁の構造成立性の検討結果の例を示します。

この図は,変形ノッチ型とアーチ型について,止水壁および周辺岩盤の力学的安定性について解析した結果。設計荷重の5.1MPa(深度500m分の静水圧+大気圧)が作用したことを想定した解析では,変形ノッチ型では4.5MPa程度,アーチ型では5.0MPa程度の最大圧縮応力が載荷面に発生すると予想。また,変形ノッチ型では止水壁本体には引張応力は発生せず,アーチ型では最大で3MPa程度の引張応力がアーチ面すなわち載荷面の反対側の面において発生すると予想
図2 止水壁の形状解析の結果

設計荷重の5.1MPa(深度500m分の静水圧+大気圧)が作用したことを想定した解析では,ひし形では4.5MPa程度,アーチ型では5.0MPa程度の最大圧縮応力が載荷面に発生すると予想されました。また,ひし形では止水壁本体には引張応力は発生せず,アーチ型では最大で3MPa程度の引張応力がアーチ面すなわち載荷面の反対側の面において発生すると予想されました。変位量としては,いずれの形状においても水平方向に最大で1mm程度でした。これらの解析結果では止水壁本体に過度な応力が作用することがないことが確認されました。以上の結果から,止水壁の形状はコンクリート打設量を考慮してアーチ型を採用するとともに,コンクリート材料の仕様を設定しました。なお,止水壁には人の出入りが可能なマンホールや冠水坑道内での計測ケーブルのための貫通管などが設置されますが,これらを除く実質的なコンクリートの打設量は100m³弱となりました。また,止水壁の性能確認のための試験計画もあわせて検討し,実際の施工および再冠水試験前・中・後の挙動計測を実施しました。

止水壁の施工は2014年11月から2015年4月までに行われました2)が,施工途中にコンクリート圧送用の配管の詰まりによる停止期間が発生し,結果として躯体に打ち継ぎ目が発生しました。止水壁の施工中・施工後には,クーリングシステムを用いたコンクリート内部の温度制御を実施し,躯体内の温度モニタリング結果と数値解析による予測値との整合性や,目視観察で温度応力による割れ目の発生がないことを確認し,当初目的を達成できたものと判断しました。また2015年5月には,コンタクトグラウトを注入するための注入孔を利用して岩盤と止水壁の接触部に対する通水試験を行い,透水量が0.1L/min以上の漏水があった場所のみ,岩盤と止水壁の間を埋めるためのコンタクトグラウト工を実施しました。

止水壁の機能確認試験については,第1回目の機能確認試験を2015年9月に実施しました3)。この試験時には,冠水後5日程度で施工時にできた打ち継ぎ目周辺の弱層部から躯体に穴が空き坑道内の水圧が急激に低下したため,冠水坑道内からの全排水と弱層部の補修作業を実施しました。補修作業の終了後,2016年1月から第2回目の機能確認試験を実施しました。この試験時には,止水壁躯体部からの漏水はなく,坑道内水圧を3MPa程度で1ヶ月程度保持できたことから,補修作業が適切に実施できたと判断し,再冠水試験に移行しました。

第2回目の機能確認試験から再冠水試験を経て最終的に全排水が行われるまでの各種変位・応力のモニタリングデータを整理し,当初設定した止水壁の要求性能が満足されているかどうかの最終的な評価を行いました4)図3に,これらのモニタリング結果に基づく再冠水試験中の止水壁周辺の状態に関する概念を示します。補修時作業として実施した防水塗装被膜は,排水後の目視確認では変状が認められなかったことから,坑道内の水圧上昇によって開口した止水壁と岩盤の境界部(止水壁施工時に発生した可能性のあるダメージゾーンを含む)から地下水が回り込んだことが考えられ,岩盤と躯体の境界部に施工したコンタクトグラウトが不十分であったことが示唆されました。再冠水試験の開始直後からの止水壁表面の変化を見ると(図4),カルシウムの溶脱・固化と思われる白色物質が形成されている様子がわかります。また,同図写真②に示すように,止水壁内の計測装置のケーブルラインから定常的に湧水が生じていたことから,地下水が止水壁の躯体内部に流入する経路が存在していたと考えられます。これらを総合すると,再冠水試験中には止水壁内部で以下のような状態変化が発生していたと想定されます。

今回構築した止水壁では,岩盤との一体性を確保し長期間の水密性を担保する,長期間栓材としての機能を発揮する,高水圧下でも十分な構造安定性・ひび割れ抵抗性を保有する,といった3点を主たる性能目標として設計・施工しましたが,結果として長期的にはそれらが不十分な構造物であったと考えられます。その主たる要因は,前述した躯体構築時のコンクリート打設時のトラブル,コンタクトグラウトの効果が不十分であったことに起因すると推察されます。

この図は,モニタリング結果に基づく再冠水試験中の止水壁周辺の状態を概念的に示したもの。再冠水試験で採用されたアーチ型では,坑道内の水圧上昇によって開口した止水壁と岩盤の境界部(止水壁施工時に発生した可能性のあるダメージゾーンを含む)から地下水が回り込んだことを示している。
図3 各種計測結果から推定される止水壁の状況(概念図)
この図は,再冠水試験の開始直後からの止水壁表面の変化を示した写真。止水壁には部分的にカルシウムの溶脱・固化と思われる白色物質が形成されている。また,止水壁内の計測装置のケーブルラインから定常的に湧水が生じていたことから,地下水が止水壁の躯体内部に流入する経路が存在していたと考えられる。
図4 第2回目機能確認試験開始から終了直前までの止水壁および近傍の状況写真

深度500mに5MPaの耐圧性能を保持させる止水壁を設計・施工し再冠水試験を実施した結果,以下のような知見を得ることができました。

参考文献
  1. 佐藤稔紀,見掛信一郎,三浦律彦,石田知子 (2015): 深度500m瑞浪超深地層研究坑道に設置する止水壁の設計,トンネルと地下,第46巻,12号,pp.17-27.
  2. 東濃地科学センター 施設建設課 (2016): 瑞浪超深地層研究所 研究坑道掘削工事(その6)平成26年度,27年度建設工事記録,JAEA-Review 2016-027,190p.
  3. 松井裕哉,見掛信一郎,池田幸喜,佐々木定雄 (2017): 各種計測結果に基づく再冠水試験のための止水壁の機能評価,第14回岩の力学国内シンポジウム 講演集,講演番号002.
  4. 松井裕哉, 見掛信一郎, 池田幸喜, 筒江淳 (2019): 再冠水試験中の止水壁の状態変化に関する検討, 第46回岩盤力学に関する国内シンポジウム(CD-ROM), pp.286-291.

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