1_3_7 MT法およびCSMT法による地上電磁探査
達成目標

電気探査や電磁探査は,物理探査手法の主要な手法です。直流電流を用いる電気探査や高周波の電磁波を使用する空中電磁探査では,地下の浅い部分にしか感度はありませんが,低周波の電磁波を用いる地磁気地電流法(MagnetoTelluric method,以下「MT法」)では,kmオーダーの地下深部までを調査することができます。MT法には,自然の電磁界を信号源とする通常のMT法と,人工的に電磁波を発生させるCSMT法(Controlled Source MagnetoTelluric method)があります。東濃地域では,ボーリング孔の掘削深度などを加味し,地下1,000m程度までの比抵抗構造を事前に明らかにすることを目標に,MT法とCSMT法を組み合わせた調査を実施しました。

方法・ノウハウ

①MT法およびCSMT法による地下構造調査例えば1)

MT法では,電磁波を用いて比抵抗構造を調査するため,調査する際には水平方向の電場2成分と磁場2成分を測定します。測定点毎に独立して電極と磁力計を設置できるため,観測点の間に測線を設置する必要がありません。ただし,CSMT法の場合は,電磁波を発信するためのケーブルを設置する必要があります。

測定された電場と磁場の比から,地下の比抵抗構造を求めることができます。水平方向の電場と磁場は2成分ずつ存在するため,2階のテンソルとなるインピーダンス・テンソルを算出し,そこから見掛け比抵抗などを算出します。なお,磁場のZ成分を利用する解析もあります(この変換係数をTipperといいます)。

②データの解析

MT法やCSMT法では,電磁波を地表面で観測し,それらを解析することで地下の比抵抗構造を推定しますが,地上で観測される電磁波には,我々が観測したい成分とは異なる電磁波成分も含まれます。例えば,鉄道による漏洩電流や変電所などで発生する電気的なシグナルがノイズの原因として考えられます。また,CSMT法の場合には人工的に電磁波を発生させますが,その発信位置が観測場所に近い場合に観測されるデータは,解析にふさわしくありません。

こうした場合,観測されたデータに信号処理を行うことで解析に入力するデータの品質を改善することができます。その方法の代表的な1つとして,リモート・リファレンス処理と呼ばれる手法があります。この手法では,観測場所から遠く離れたデータを参照データとして用いてインピーダンス・テンソルを算出することで,ノイズを低減する手法です。最近では,さらなるデータの品質の改善を目標として,独立成分分析などを用いた手法も提案されています例えば2)

インピーダンス・テンソルやそれから求められる見掛け比抵抗は,電気探査などの手法によって得られる見掛け比抵抗と同様,地下の地層そのものの比抵抗構造を推定したものではなく,それらの平均的な値を推定したものになります。地下構造を推定するためには,一般的に,比抵抗モデルの修正を繰り返し行い数値計算による結果を観測値に漸近させる逆解析が適用されることが多いですが,ボスティックインバージョンのように測定周波数毎に算出された見掛け比抵抗を深度方向の比抵抗分布に数学的に変換する簡易な解析手法もあります。最近では,三次元逆解析が行われることが多いですが,二次元逆解析を行う際には,三次元構造の影響を加味する必要があります。また,地表付近の不均質構造も逆解析結果に影響を及ぼすことが知られているため,それらに関しても考慮する必要があります。

東濃地域における実施例3-6)

東濃地域では,MT法とCSMT法を組み合わせた地上電磁探査を実施し,比較的広範囲の領域データを取得しました(図1)。図2は,前述のボスティックインバージョンを用い,取得されたデータから推定した比抵抗の平面分布図です。図3は,図1のAおよびB線近傍の観測点で取得したデータを二次元逆解析し,比抵抗断面図を推定したものです。浅い部分では低比抵抗の領域が,深い部分には高比抵抗の領域が推定されていますが,これらは各々,堆積岩および花崗岩に相当するものと考えられます。なお,実際の岩盤では,地層境界の前後で比抵抗が急激に変化すると考えられますが,解析結果を見ると,低比抵抗帯と高比抵抗帯の境界部では比抵抗の値がスムーズに変化しています。これは,逆解析の処理による影響と考えられます。

一方で,調査地域は市街地近郊であり,前述したノイズの影響を受けていることも危惧されました。検証の結果,東濃地域で取得されたデータは,JR中央線,変電所,送電線などによるノイズの影響を受けており,一部の解析結果については信頼性が低いことが明らかになりました6)。より精確な比抵抗分布を取得するためには,これらのノイズをデータ処理で取り除く,観測時間帯を電車運行時間外にする,CSMT法において観測装置をノイズ環境に併せて選択するなどの工夫が必要と考えられます。

約12km四方の土岐市,瑞浪市周辺の白黒地図。国土地理院発行1:25,000地形図「御嵩」「多治見」「武並」「瑞浪」を使用。南から北に-73,000mから-62,000mの目盛が,西から東に1,000mから12,000mの目盛がそれぞれ1,000m置きに記載されている。東京測地系VII。赤線Aは(6,300m,-71,700m)付近と(5,700m, -62,400m)付近を結び,赤線Bは(2,100m,-64,800m)付近と(10,150m,-64,600m)付近を結んでいる。交点(5,900m,-64,700m)の南西には観測点を示す青い点が東濃鉱山と正馬様用地周辺に多く分布している。
図1 MT法とCSMT法を組み合わせた地上電磁探査の観測点
青の点は観測点,赤の線は図3の位置を示す
深度+200m,+100m,0m,-300m,-500mを対象とした約10km四方の比抵抗の平面図。1~10000Ωmまでの比抵抗を,高い値は寒色系,低い値は暖色系で色分けして表現してある。深度0mより高い領域では100Ωm以下の低比抵抗体が広く分布するが,それ以深ではほぼ全域が1000Ωm以上の高比抵抗を示す。
図2 ボスティックインバージョンで得られた各標高における比抵抗の平面分布
幅が約8km,深度が約1kmの2つの比抵抗断面図。深度200m付近を境に,地表付近では比抵抗が10~1000Ωmの低比抵抗,それ以深では1000Ωm以上の高比抵抗を示す。
図3 東西および南北方向(図1中のAおよびB線)に沿った二次元比抵抗断面図
参考文献
  1. 物理探査学会 (1998): 物理探査ハンドブック.
  2. 小川大輝,浅森浩一,濱友氣 (2018): 連続ウェーブレット変換と独立成分分析による地磁気・地電流データの品質改善方法,第139回物理探査学会講演会講演論文集.
  3. 篠原信男 (1999a): 電磁法による地上物理探査,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7420 99-007,72p.
  4. 篠原信男 (1999b): 電磁探査(MT法)適用試験,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7420 99-009,62p.
  5. 大里和己,山根一修 (2000): 電磁法データの2 次元比抵抗構造解析,核燃料サイクル開発機構,JNC TJ7440 2000-005,46p.
  6. 長谷川健,山田信人,小出馨 (2014): 電磁法による地上物理探査 総括報告書,JAEA-Research 2014-004,177p.

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