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地質環境の長期安定性に関する研究

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FAQ

Q.マグマが貫入した場合の影響はどの程度ですか?

A.地下深い所での貫入岩の熱の影響が及ぶ範囲は、貫入岩体の接触部から岩体規模の数分の1程度の距離です。

貫入岩の周辺では、マグマの熱によって岩盤の温度が一時的に上昇しますが、鉱物年代に顕著な若返りが生じるような範囲は、貫入岩体の接触部から岩体の大きさの数分の1 程度の距離と考えられます。


図 ジルコン、アパタイトのFT年代およびトラック長の短縮率<br>から推定した高浜黒岩火道形成後の周辺母岩の温度
図 ジルコン、アパタイトのFT年代およびトラック長の短縮率
から推定した高浜黒岩火道形成後の周辺母岩の温度


K-Ar法、Rb-Sr法、フィッション・トラック(FT)法などの放射年代測定によって求められる種々の鉱物や岩石の放射年代は、冷却過程で閉鎖温度以下になった年代を示しています。閉鎖温度は、年代測定法や鉱物ごとに異なるため、同一の岩石であっても測定する鉱物や測定方法を変えることにより、岩石の熱履歴を調べることができます。
新第三紀に貫入した高浜黒岩貫入岩(直径約50 m)を対象として、貫入岩(接触部)から0.1 m(試料GW-0.1)、1 m(試料GE-1)、8.5 m(試料GE-8.5)、51 m(試料GE-51)、90 m(試料GE-90)離れた地点の母岩である領家花崗岩類中の普通角閃石、黒雲母のK-Ar 年代測定、ジルコン、アパタイトのFT 年代測定およびジルコンのトラック長解析を行いました。K-Ar 年代測定によると、試料GW-0.1 の黒雲母の年代は、そのほかの地点の年代に比べて10%程度の若い値を示すものの、普通角閃石および貫入岩から8.5 m以上離れた地点の黒雲母の年代値にはアニーリングによる若返りが認められません。ジルコンのFT 年代測定によると、試料GW-0.1、試料GE-1、試料GE-8.5 のジルコンの年代に若返りが認められ、とくに試料GW-0.1 のジルコンの年代は貫入岩の形成年代とほぼ一致しています。これらのことから、試料GW-0.1 のジルコンは、貫入岩形成時の再加熱によってPartial Annealing Zone(トラックの部分的な短縮に影響を及ぼす温度域;以下PAZ)を越えて完全にリセットされたものと考えられます。また、貫入岩から8.5 m以内の地点のジルコンも再加熱によってPAZ 付近まで温度が上昇し、トラックの一部が消滅したものと考えられます。アパタイトのFT 年代測定によると、試料GW-0.1、試料GE-1、試料GE-8.5 の年代は、貫入岩の形成年代とほぼ一致すること、試料GE-51 の年代に若干の若返りが認められることなどから、貫入岩から8.5 m以内の地点のアパタイトは、PAZ を越えて完全にリセットされたこと、51 m地点においてもPAZ 付近まで温度が上昇したことが推定できます。
アニーリングによるトラック長の短縮は、温度とアニーリングを受けた時間によって異なるため、一義的にPAZ の温度領域を見積もることはできません。そこで貫入岩形成時に母岩が再加熱を受けた時間を見積もるため、単純な一次元熱拡散モデルによる計算を行った結果、いずれの地点においても貫入後、数年から数十年で最高温度に達した後、温度は徐々に低下し、いずれの地点も貫入後300~400年で100℃以下になることなどから、貫入岩周辺の母岩がアニーリングを受けていた時間は高々数百年程度であると考えられます。ここで、アニーリングを受けていた時間を100~1,000年間とすれば、ジルコンの室内アニーリング実験のデータからFT が完全にリセットされた(短縮率0)試料GW-0.1 の温度は560~610℃以上、短縮率が0.85 の試料GE-1 の温度は330~370℃程度、短縮率が0.95 の試料GE-8.5 の温度は270~300℃程度と推定できます。また、アパタイトの室内アニーリング実験のデータによると、貫入岩から8.5m 以内の試料は180~210℃以上、試料GE-51 は60~90℃以上まで温度が上昇したものと推定できます。以上のことから、高浜黒岩貫入岩周辺の母岩の温度は、接触部から0.1 mで560~610℃以上、1 mで330~370℃程度、8.5 mで270~300℃程度、51 mで60~90℃以上まで(一時的に)上昇した可能性があるといえます。また、51 mより離れた地点では、貫入岩による熱的な影響は認められません。


図 高浜黒岩火道周辺の地質および試料採取地点
図 高浜黒岩火道周辺の地質および試料採取地点


図 高浜黒岩火道からの距離と周辺母岩中の鉱物年代
図 高浜黒岩火道からの距離と周辺母岩中の鉱物年代



[文献]
小松 亮,梅田浩司,棚瀬充史,檀原 徹(1998):領家帯,高縄トーナル岩のマグマ貫入時の熱履歴,日本火山学会1998 年秋季大会講演予稿集,p.100.
梅田浩司,小松 亮,棚瀬充史,湯佐泰久(2001):西南日本領家帯(四国),高浜花崗岩類の冷却史,特に新第三紀貫入岩類による熱的影響,岩石鉱物科学,30,pp.17-27.