JAEA-CEAワークショップ「原子力イノベーションのための研究基盤の構築に向けて」(2020.01.31)

2020年1月31日、当機構の国際戦略に基づく海外事務所主催のイベントとして、当機構及び仏国原子力・代替エネルギー庁(CEA)共催によるワークショップ「原子力イノベーションのための研究基盤の構築に向けて」をパリにて開催しました。原子力分野でのイノベーションを図るためには持続性のある研究基盤(研究施設、知見、人材等)の構築及び効果的な活用が重要であることから、各国、機関等におけるそれらに対する取組状況や共通的課題、国際協力について議論することを目的として本ワークショップを開催しました。

フランス側からは、CEA、放射線防護原子力安全研究所(IRSN)、その他原子力関連企業等、日本側からは当機構、在仏日本国大使館、文部科学省、経済産業省、その他欧州駐在の日系原子力関連企業等が参加しました。加えて、英国からビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)、原子力研究所(NNL)、原子力廃止措置機関(NDA)、イタリアからSOGIN社、また、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)、欧州委員会/共同研究センター(EC/JRC)といった原子力関連の国際機関からの参加もあり、計75名もの参加を得ることができました。

冒頭、当機構伊藤副理事長、CEAシェックス国際局次長からの開会挨拶、IRSNニール理事長、OECD/NEAマグウッド事務局長、在仏日本国大使館堀内公使からの来賓挨拶があり、特に気候変動の観点からの原子力におけるイノベーション及びそのための国際協力の重要性などが述べられました。

基調講演として、経済産業省の永澤原子力国際協力推進室長及び文部科学省の小林核不拡散科学技術推進室長よりNEXIP(Nuclear Energy×Innovation Promotion)イニシアチブの下での両省の取組について述べられました。続いて、当機構伊藤副理事長から、当機構の概要、国際協力全般及び最近の動向等について述べた後、イノベーションに関連する取組として「JAEA 2050+」の策定、NEXIPイニシアチブの下での当機構の取組、研究施設の供用の促進、当機構が開発した技術の社会実装の取組等を紹介し、今後の課題並びに本ワークショップへの期待を述べました。続いて、CEAサラード イノベーション・原子力支援副部長が、CEAの概要、クローズドサイクルのための産業・研究開発の戦略ロードマップ、短期・中期・長期の研究開発項目について述べられました。その後、英国BEISマザーズ先進原子力技術課長からは、G7の中で初めて温室効果ガスの純排出量ゼロを法制化したこと(2050年までに達成)、Nuclear Sector Deal(産業戦略の一環として原子力を更に発展させるために政府と原子力産業界が連携して実施すべきアクションを文書化したもの)、小型モジュール炉(SMR)の開発等、英国における原子力イノベーション促進の取組について紹介いただき、最後に、OECD/NEAマグウッド事務局長からは原子力イノベーション2050(NI2050)、照射試験に関する枠組(FIDES)、原子力教育・スキル・技術(NEST)等、OECD/NEAが進めているイノベーションに関連する取組について紹介いただきました。

その後、3つのセッションにてパネルディスカッションを行いました。まず、パネル1「研究活動におけるイノベーション推進の取組」においては、OECD/NEAイワノワ原子力科学課長から FIDES、NESTの現状について、CEAブラン・トランシャン氏及びビニャン氏からジュールホロビッツ炉(JHR)プロジェクトの概要とその重要性について、EC/JRCアブサール課長からEUグリーン・ニューディールの中での原子力の位置付けに関する議論、EURATOMの研究・トレーニングプログラム、原子力インフラロードマップ等について紹介いただきました。その後、NNLランダール部長から、イノベーションの実現には施設と人材のコンビネーションが重要である旨が述べられ、研究施設の供用を促進する英国の取組としてNational Nuclear User Facility(NNUF)を紹介いただきました。続いて、IRSNマルシャン氏から規制に資する観点からの実験プラットフォームの重要性が述べられ、OECD/NEAの原子力施設安全委員会(CSNI)に設置された安全研究に関する上級専門家グループ(SESAR)における施設のニーズの同定に関する取組を紹介いただきました。最後に、パネル1のまとめとして、当機構脇本事業計画統括部次長から、①イノベーション推進のための研究開発インフラ、②そのための国際協力、③原子力以外の分野との連携の重要性を述べ、他の分野との連携については、ビニャン氏からはJHRでの試験・計測は宇宙等の分野への適用が可能であること、アブサール課長からは医療やサイバーセキュリティとの相互連携の可能性が示される等、活発な議論が行われました。

続くパネル2「廃止措置分野でのイノベーション推進の取組」においては、まず初めにOECD/NEAテデッサ廃棄物管理・廃止措置課長から、廃止措置・レガシーマネジメントを所掌する委員会(CDLM)の設置等、廃止措置に関するNEAの活動を紹介いただきました。続いて、当機構木村廃炉国際共同研究センター(CLADS)センター長代理から、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の研究開発に資するCLADSの取組を紹介しました。その後、NDAブラウンブリッジ課長からは、廃止措置を安全、迅速かつ低コストで進める観点、特殊な施設における廃止措置への技術的チャレンジに対応する観点からのイノベーションの重要性、使用済燃料や廃棄物の取扱いといった技術的課題のみならず、セキュリティの確保やプロジェクトマネジメントといった非技術的課題に対応する観点からのイノベーション、他分野の知見の取り入れの重要性について述べられ、また、SOGIN社のパンコッティ氏からは、廃止措置は複雑かつ多くの学問領域にわたる特徴を有しており、技術及び非技術の両面においてイノベーションが必要であることが述べられ、SOGIN社が取組んでいるイノベーションの事例を紹介いただきました。最後に、パネル2のまとめとして、CEAジョルジュ部長から、安全かつ低コストで廃止措置を進める観点からのイノベーションの重要性が述べられ、当機構との協力により実施している項目も含め、CEAによる廃止措置技術開発の事例を紹介いただきました。またEUのHorizon2020の枠組みで実施されているSHARE Project(廃止措置の技術課題のロードマップ、ギャップ分析)についても紹介いただきました。その後の質疑応答においては、廃止措置のマインドセット、知識保存、知識継承、国際協力により研究開発の重複を避けることの重要性等についての議論を行いました。

続くパネル3「若手セッション」においては、当機構、IAEA、OECD/NEA、CEA、NNLの若手研究者・技術者6名をパネリストとして、自らの研究テーマや業務の中でのイノベーションの重要性、イノベーションを推進するために克服すべき具体的課題として、以下に関する活発な議論を行いました。

  • 他の分野からの知見の取入れ(コーディネータの役割の不足が課題)
  • 実用技術と大学の基礎研究の架け橋としての役割
  • 若手世代に求められる役割に関してのシニア世代との認識のギャップの克服
  • 失敗を恐れないマインドセットの醸成
  • 公衆へのアウトリーチの重要性

その後、NNLのレイメント原子力イノベーション研究事務局(NIRO)理事から、「イノベーションの必要性とフレームワークの重要性」と題する講演の中で英国内及び国際的なイノベーション推進の取組について紹介いただいた後、本ワークショップの議論を総括していただきました。

最後に、当機構山村戦略・国際企画室次長から閉会挨拶として、本ワークショップでの発表及び議論は気候変動の緩和への貢献の文脈において原子力イノベーションをいかに実現するかということが原子力コミュニティにおける今日的課題となっていることからも有意義なものであったことを述べ、各参加機関の協力への謝意を示しました。

本ワークショップにより原子力イノベーションに関して、以下の点において認識が共有されました。

  • 世界が気候変動のリスクの顕在化に直面し、各国が炭素排出量の大幅な削減もしくはカーボンニュートラルの達成を目標として掲げる中で、原子力がカーボンフリーのエネルギー源としてソリューションの一翼を担うことができるか否かは、原子力が安全性、コスト低減、電力以外の用途での利用等の観点でのイノベーションを実現できるかに依存すること
  • イノベーションを実現するためには、施設も含めた研究開発インフラへのアクセスの確保、若手人材の原子力界への供給、そのための国際協力が不可欠であること。また、原子力以外の分野との連携も重要であること
  • 廃止措置の分野でも、安全、迅速、かつ低コストで廃止措置を実施する観点から、イノベーションが重要な役割を果たすこと

当機構としましては、本ワークショップで得られた情報、成果を踏まえ、イノベーションに関する取組を継続してまいります。