第3回日米原子力研究開発シンポジウム(2019.06.26)

2019年6月26日に、当機構ワシントン事務所の主催により「日米原子力研究開発シンポジウム」がワシントンにて開催されました。

米国側からは、エネルギー省(DOE)、原子力規制委員会(NRC)等政府関係者、国立研究所専門家、原子力エネルギー協会(NEI)等の原子力産業関係者等が参加し、日本側からは原子力機構の他、政府関係者(在米日本国大使館、文部科学省等)、ワシントン駐在の日本企業関係者が参加しました。

冒頭挨拶として、当機構伊藤副理事長から、シンポジウム開催に向けての関係者の協力への謝意とともに、今回のシンポジウムを通じた日米間の原子力研究開発分野の協力の深化と人的ネットワークの拡大への期待や、先進炉や東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、「福島事故」)関連の研究開発における国際協力の重要性等を訴えました。続いて在米日本国大使館相川特命全権公使からは、シンポジウム参加者へ歓迎の意とともに、世界的な関心が高まっている「地球環境問題」の観点から原子力の有用性に触れ、R&Dだけでなく、核不拡散等幅広い分野で日米間の協力が重要であるとの所感が述べられました。さらにDOEガリッシュ国際問題担当次官補からは、シンポジウム開催に対する謝意が述べられるとともに、日米間の国際的な研究協力や技術情報の交換、特に廃止措置や除染技術に係る現状に触れ、更なる日米間における協力の重要性が述べられました。

基調講演の中では、まず文部科学省の川上研究開発局核不拡散科学技術推進室長より、我が国の原子力政策や原子力研究開発の現状と見通し、福島第一原子力発電所(以下、「1F」)の廃炉、高速炉、高温ガス炉に係る研究開発の動向、人材育成等について触れた上で、企業、大学、政府間で協力して原子力研究開発を積極的に進めていくことの重要性が紹介されました。続いて米国からは、アイダホ国立研究所ピーターズ所長より、議会からの強力な後押しも受けている近年の米国の次世代原子力研究開発の急速な進展の状況が包括的に紹介されるとともに、次世代を担う人材育成の確保・育成の重要性にも触れ、様々な分野での日米の協力の重要性について述べられました。

その後は、「先進炉の研究開発」と「原子力安全の向上のための将来の技術」の2つのテーマでパネル討論が行われました。

最初のパネル討論では、当機構の高速炉・新型炉研究開発部門上出副部門長から、第5次エネルギー基本計画と高速炉開発ロードマップの概要が紹介されるとともに、常陽の再稼働に向けての現状や照射試験の経験等の当機構の高速炉開発の状況及び高温ガス炉の開発状況が紹介され、また、高速中性子実験に関する日米協力の重要性が述べられました。

米国からはアルゴンヌ国立研究所のヒル先進原子力研究開発技術部長より、DOE原子力局のミッションや高速炉の研究開発の概要が紹介され、高速炉の研究開発については、先進材料、評価モデルとその検証、装置のコンパクト化等の活動内容に触れられました。この他、溶融塩炉(MSR)キャンペーン、日米民生用原子力研究開発ワーキンググループ(CNWG)の活動、及び2026年運開予定の多目的試験炉(VTR)等に触れ、VTRについては6月中旬に署名した日米間の協力覚書(MOC)の他に、フランスや韓国との協力に向けての現状が紹介されました。

さらに米国の規制側の観点としてNRCのファーステノー原子力規制研究局長より「新型炉と将来技術に対する規制対応」と題して、解析評価における先進モデリングやシミュレーション技術が紹介されました。

その後の質疑応答においては、常陽への高い関心が示され、再稼働に向けた日本の規制機関への申請状況や審査時の留意点について意見交換が行われました。

また、VTRに関する日米共同研究について、日本側の役割分担等について今後議論していくこと、米国での次世代炉開発においては、中国、ロシアが様々な炉型の先進炉の研究開発を進めていることに鑑み、米国としても研究開発の枠を広げることや許認可にあたり規制機関と推進機関が協力することの重要性等が議論されました。

2つ目のパネル討論では、米国からレンぺRempe and Associates 主宰(原子力諮問委員会(NEAC)共同議長)が、スリーマイルアイランド原子力発電所2 号炉の事故と福島事故より得られた教訓と1Fに関する試験への米国支援について紹介しました。

続いて当機構からは廃炉国際共同研究センター(CLADS)の岡本センター長より、CLADSの概要と研究の進捗状況、国際協力への取組等が紹介されました。

その後の議論においては、CLADSに期待される任務・役割や研究内容に関する高い関心が示され、例えば、任務・役割については東京電力や原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)との協力関係、研究内容についてはシリカを含む放出粒子の発生源の特定や事故初期におけるガス発生等のモデリングの精度に関する意見交換が行われました。

また、CLADSの主な目的は1Fの安全な廃炉に資することであるが、その研究成果は将来の原子力安全に関する分野へ広く応用可能であること等が強調されました。

以上二つのパネルディスカッションに加え、今年は日米両国で大きな課題となっている「将来を担う原子力人材」の確保・育成に焦点を当てた特別イベントとして、日米両国での若手人材の確保・育成に向けた様々な取組を当機構や教育機関等様々な立場から紹介するとともに、両国の若手研究者によるポスター展示及びこれに伴う2分間の研究内容紹介を実施しました。

特別イベントの中では、当機構戦略・国際企画室小泉副主幹より日本が抱える人材育成に関する構造的な問題とその解決のための日米協力の可能性についての提言、福島高等専門学校校長の山下先生から高専の概要、福島イノベーション・コースト構想、及びサマースクール等の人材育成システム、米国カリフォルニア大学バークレー校スレイバー准教授から人材育成プログラムとして実施されている「原子力イノベーションBOOTCAMP」への取組等が紹介されました。

その後の議論においては、次世代の研究者や技術者をどう育てるかの意見交換が行われ、高専は中学校と社会の中間に位置するユニークな存在であり、原子力分野の人材を生み出すことに関して重要な役割を担っているとの認識を持っていること、BOOTCAMPにおいては双方向のコミュニケーションが大切であること、DOEと日本の大学との間の教育システムの構築が重要であること等が議論されました。

若手研究者のポスター展示では、コーヒーブレイクやレセプションの時間を通じて、来場者と出展研究者が活発に意見を交わす場面が見られ、出展者・来場者双方から非常に良い取組であったとの評価を頂き、若手の活躍へのフォーカス及び人的ネットワークの構築・拡大に大きく貢献することができました。

同シンポジウムの結びに、DOE原子力局シニアアドバイザーのペコ氏及びアルゴンヌ国立研究所シニアポリシーフェローのディックマン氏による総括(ラップアップ)があり、先進炉開発を始め多くの分野で日米協力を進めていくことが重要であると改めて強調され、最後に、当機構から閉会挨拶として、本シンポジウム参加への謝意、今回のシンポジウムで提起された様々な方面での協力について今後日米間で議論が発展していくことへの期待を表明し、盛会のうちに幕を閉じました。

DOE等の原子力政策のキーパーソンや、原子力研究開発に知見を有する有識者に参加いただき、原子力研究開発分野における両国のパートナーシップの重要性に関する現状の認識を共有し、さらに今後の協力の方向性について議論する有用な場となるとともに、今年度は「人材育成」という新たな観点での課題提起にも取り組んだ回となりました。

今回は第3回目の実施となりますが、原子力機構ワシントン事務所では、継続的に時宜を得たテーマを選定しながら、同様のイベントを開催していく予定です。