2011年11月8日、イランにおける保障措置協定等の実施に係るIAEA事務局長報告(以下事務局長報告) が加盟国に配布された。今回の報告では、イランは相変わらず核関連活動を継続していることが報告されている。また、付属文書において、イランの核計画が軍事的側面を有する可能性について、IAEAが加盟国からまたは独自に得た情報を詳細に分析しており、その内容は、イランが核爆発装置の開発に関連する活動を2003年末以前から組織的に行っており、いくつかの活動は現在も続いている兆候があるというものであった。IAEAは、これに対して懸念を表明した上で、イランがこれまでの国連安保理決議及びIAEA理事会決議が求める措置を全て実施するよう要求するものとなっている。
IAEAは、従来核兵器の原料となり得る、濃縮ウランとプルトニウムに重点を置いて分析を行ってきたが、今回は起爆装置等の周辺技術にも注目し、また、加盟国からの情報提供及び専門家の協力を得て、核兵器に至る一連の技術開発疑惑について分析を行っているのが大きな特徴である。
イランの核開発状況については、ナタンズにおけるイランの濃縮ウラン製造は継続しており、さらに、フォルドにおいて建設中のウラン濃縮施設が完成すると、20%までの濃縮ウラン製造能力が3倍に拡大されることから、核兵器用核物質獲得までの時間が大きく短縮されることが懸念される。
※事務局長報告の詳細については別添の通り。
(1) イランの核問題に関するIAEA理事会の決議
同事務局長報告を受け、2011年11月18日、IAEAの定例理事会は、イランに対し疑惑解明に努めるよう求める国連安全保障理事会の5常任理事国とドイツの決議案を賛成多数で採択した。
決議は、イランが関連のIAEA理事会決議及び安保理決議の要請や義務を無視し続けているという深刻な懸念を改めて強調し、イランの核計画に関し、すべての未解決の問題を緊急に解決することを目指してイランとIAEAが対話を強化することが不可欠として、イランに対し、関連の安保理決議の下での義務を履行し、IAEA理事会の要請に応えることを改めて強く求めるものとなっている 。
(2) 制裁強化の動き
オバマ米大統領は2011年12月31日、休暇滞在中のハワイ州ホノルルで、イランの中央銀行と取引がある各国の金融機関に対して制裁を科す条項を盛り込んだ国防権限法案に署名し、同法は成立した。同法をもとに、米国は国際社会に制裁強化を求め、欧州連合(EU)は2012年1月22日、EU外相理事会によるイラン産原油の禁輸を決定した。これに対し、イランはEU向け原油の即時禁輸やホルムズ海峡の閉鎖を示唆する等反発を示す一方で、IAEA調査団の受入に応じる等、硬軟取り混ぜた対応を取っているものの、短期での問題解決は難しい状況にある。
○2011年11月IAEA理事会での事務局長報告が、IAEA理事会決議の採択、制裁の強化といった緊張の高まりの要因になっていると考えられる。イランの核開発疑惑に関する付属書記載の情報は、ほとんどが2003年以前に収集されたもので新たに追加された情報は少ない。情報は10カ国以上から提供され、その信頼性についてIAEAは独自に検証を行ったとしているが、NAM諸国を中心に報告の必要性を疑問視する向きもある。
○イランの核兵器製造の兆候は今のところ認められていない。明らかになっている核物質、ウラン濃縮施設はIAEAの査察下にある。しかし、このことが、イランが将来にわたっても核兵器を保有する意志が無いことを意味するとは限らない。イランが現状の原子力発電プログラムに必要ないと考えられる濃縮の継続に固執していることを考えると、むしろ、20%未満の濃縮ウランの在庫を確保し、有事の際の核兵器製造能力を保持しておきたいというのがイランの意図ではないかと考えるのが自然である。一方、イスラエル・米国等は上記危険性から軍事攻撃の可能性を否定しないが、核計画の無い時点でイラク同様に強引に軍事攻撃等を行えば、露、中、NAM諸国等の反発は避けられず、かつ、イランの核兵器獲得の意思がより強固なものとなると予想され、逆効果に終わる可能性がある。
○妥協点としては、イランが、過去の疑惑について説明するとともに、IAEAによる厳格な保障措置(追加議定書等)を受け入れ、更に、自発的に濃縮停止等の信頼醸成措置をとって、核兵器を作る意図がないことを示すことと引き替えに、ウラン濃縮の継続を認める妥協点を目指すことぐらいしか考えられないが、双方とも妥協に応じる見通しは得られていない。
1. 2011年11月8日発出国際原子力機関(IAEA)事務局長報告の概要
2011年11月8日、イランにおける保障措置協定等の実施に係るIAEA事務局長報告(以下事務局長報告) が加盟国に配布された。今回の報告では、イランは相変わらず核関連活動を継続していることが報告されている。また、付属文書において、イランの核計画が軍事的側面を有する可能性について、IAEAが加盟国からまたは独自に得た情報を詳細に分析しており、その内容は、イランが核爆発装置の開発に関連する活動を2003年末以前から組織的に行っており、いくつかの活動は現在も続いている兆候があるというものであった。IAEAは、これに対して懸念を表明した上で、イランがこれまでの国連安保理決議及びIAEA理事会決議が求める措置を全て実施するよう要求するものとなっている。
IAEAは、従来核兵器の原料となり得る、濃縮ウランとプルトニウムに重点を置いて分析を行ってきたが、今回は起爆装置等の周辺技術にも注目し、また、加盟国からの情報提供及び専門家の協力を得て、核兵器に至る一連の技術開発疑惑について分析を行っているのが大きな特徴である。
イランの核開発状況については、ナタンズにおけるイランの濃縮ウラン製造は継続しており、さらに、フォルドにおいて建設中のウラン濃縮施設が完成すると、20%までの濃縮ウラン製造能力が3倍に拡大されることから、核兵器用核物質獲得までの時間が大きく短縮されることが懸念される。
※事務局長報告の詳細については別添の通り。
2.事務局長報告発出後の国際社会の動き
(1) イランの核問題に関するIAEA理事会の決議
同事務局長報告を受け、2011年11月18日、IAEAの定例理事会は、イランに対し疑惑解明に努めるよう求める国連安全保障理事会の5常任理事国とドイツの決議案を賛成多数で採択した。
決議は、イランが関連のIAEA理事会決議及び安保理決議の要請や義務を無視し続けているという深刻な懸念を改めて強調し、イランの核計画に関し、すべての未解決の問題を緊急に解決することを目指してイランとIAEAが対話を強化することが不可欠として、イランに対し、関連の安保理決議の下での義務を履行し、IAEA理事会の要請に応えることを改めて強く求めるものとなっている 。
(2) 制裁強化の動き
オバマ米大統領は2011年12月31日、休暇滞在中のハワイ州ホノルルで、イランの中央銀行と取引がある各国の金融機関に対して制裁を科す条項を盛り込んだ国防権限法案に署名し、同法は成立した。同法をもとに、米国は国際社会に制裁強化を求め、欧州連合(EU)は2012年1月22日、EU外相理事会によるイラン産原油の禁輸を決定した。これに対し、イランはEU向け原油の即時禁輸やホルムズ海峡の閉鎖を示唆する等反発を示す一方で、IAEA調査団の受入に応じる等、硬軟取り混ぜた対応を取っているものの、短期での問題解決は難しい状況にある。
3.考察
○2011年11月IAEA理事会での事務局長報告が、IAEA理事会決議の採択、制裁の強化といった緊張の高まりの要因になっていると考えられる。イランの核開発疑惑に関する付属書記載の情報は、ほとんどが2003年以前に収集されたもので新たに追加された情報は少ない。情報は10カ国以上から提供され、その信頼性についてIAEAは独自に検証を行ったとしているが、NAM諸国を中心に報告の必要性を疑問視する向きもある。
○イランの核兵器製造の兆候は今のところ認められていない。明らかになっている核物質、ウラン濃縮施設はIAEAの査察下にある。しかし、このことが、イランが将来にわたっても核兵器を保有する意志が無いことを意味するとは限らない。イランが現状の原子力発電プログラムに必要ないと考えられる濃縮の継続に固執していることを考えると、むしろ、20%未満の濃縮ウランの在庫を確保し、有事の際の核兵器製造能力を保持しておきたいというのがイランの意図ではないかと考えるのが自然である。一方、イスラエル・米国等は上記危険性から軍事攻撃の可能性を否定しないが、核計画の無い時点でイラク同様に強引に軍事攻撃等を行えば、露、中、NAM諸国等の反発は避けられず、かつ、イランの核兵器獲得の意思がより強固なものとなると予想され、逆効果に終わる可能性がある。
○妥協点としては、イランが、過去の疑惑について説明するとともに、IAEAによる厳格な保障措置(追加議定書等)を受け入れ、更に、自発的に濃縮停止等の信頼醸成措置をとって、核兵器を作る意図がないことを示すことと引き替えに、ウラン濃縮の継続を認める妥協点を目指すことぐらいしか考えられないが、双方とも妥協に応じる見通しは得られていない。
【解説:政策調査室 清水】