核不拡散ニュース No.0129 2009.09.24
<イラン核問題の動向:IAEA事務局長報告概要>
【概要】
イランのウラン濃縮活動等の停止を求める安保理決議(1737, 1747, 1803,1835)の履行状況についてのIAEA事務局長報告(2009年8月28日付)が発表され、同国が安保理決議の求めに反しウラン濃縮活動を継続していること、軍事的関与の嫌疑については、依然として協力に応じていないことが報告された。また、ウラン濃縮活動においては、同国の商業規模のウラン濃縮工場(FEP)における稼働遠心分離機数が減少したこと、FEPの封じ込め・監視装置の改善措置が取られたこと、イランがこれまで拒否していたイラン重水型研究炉(IR-40)(アラクに建設中)の設計情報検認(DIV)を受け入れたことなどが報告された。
【イランの核施設に対する保障措置の現状】
イランは、包括的保障措置(INFCIRC/153型)を1974年に締結し、テヘラン核研究センター内のテヘラン研究炉(TRR)やモリブデン・ヨウ素・ゼノン放射性同位体製造施設(MIX施設)、ブシェールにおける建設中のブシェール原子力発電所(BNPP)、及びイスファハン核技術センター内の小型中性子源炉(MNSR)、未臨界軽水炉(LWSCR)、ゼロ出力重水炉(HWZPR)、燃料加工研究所(FFL)、ウラン化学研究所(UCL)、ウラン転換施設(UCF)、及び未臨界黒鉛炉(GSCR)に適用されていた。
イラン内に未申告の核施設が存在するとの告発を受けて開始された、2003年2月以降のIAEAの訪問によって、イランの未申告のウラン濃縮関連活動(遠心分離技術、レーザー同位体分離技術を含む)、プルトニウム分離関連活動、および核関連物質および技術の取得など、多岐に渡る保障措置違反が明らかになった。
イランの保障措置違反の発覚により同国の原子力活動の意図に対する疑惑が高まり、国連安全保障理事会は、イランに対し、IAEAへの全面協力及び自国の原子力活動の透明性確保を通じて疑惑の解消に努めること、ならびに国際的な信頼を回復するまでウラン濃縮関連活動及び重水関連活動を停止することを求める決議を採択した(決議1737, 1747, 1803, 1835)。
安保理決議はまた、イランの決議の履行状況について、IAEAに定期的に報告することを求めており、今次報告もそれに準じるものである。
今次報告に記述がある施設は以下の通り。
これらは、2003年にイランの保障措置協定違反が発覚した後、建設計画が明らかにされた施設である。これらは、2003年にイランの申告により、新たに保障措置対象施設となった。
FEP、PFEP、IR-40、FMPにおいては、定期的な設計情報検認(DIV)、実在庫検認(PIV)、封じ込め・監視措置が取られていた。しかしIR-40 については、設計情報の早期提供を求める修正版の補助取極(Subsidiary Arrangements General Part, Code 3.1)の実施を「停止する」とのイラン政府の決定(2007年 3月)を理由に、2008年8月以降、イランがIR-40のDIVを拒否していた。
また追加議定書については、自国の原子力活動が平和目的によるものであるとの主張のもと、透明性を高める措置として、2003年12月に追加議定書に署名し、未批准でありながら追加議定書に準じた措置を受け入れていた。しかし、イランの核問題が安保理に付託されたのを受け、2006年2月、追加議定書に準じた措置の受入れを停止。追加議定書は、現在も未批准である。
【IAEA事務局長報告の概要】(参照)
商業規模のウラン濃縮工場(FEP)においては、2009年8月12日現在、計4592機(Unit A 24:2952機+Unit A 26:1640機)の遠心分離機にUF6(六フッ化ウラン)を供給し運転中。他に設置が終了した遠心分離機は3716機になる(内、真空状態にあるのは計3608機、他に108機)。
イランは、FEPにおいて2008年11/18-2009年7/31の期間、7942kgのUF6を供給し、約669kgの低濃縮ウラン(UF6)を生産したと報告。
IAEAは、FEPにおいて2007年2月‐2008年11/17の期間、9956kgのUF6を供給し約839kgの低濃縮ウラン(UF6)を生産したことを検認済。
種々のコールド・トラップ内のホールドアップ(注1)により、UF6インプットとアウトプットの差異は538kgとなる。ホールドアップをクリーンアウトした上で、11月に予定されている実在庫検認(PIV)において、すべての核物質の在庫の評価が可能となる。
FEPにおける遠心分離機増設・生産量の増大に対応し、封じ込め・監視手法を改善する措置を8/12に導入。また、IAEAとイランは、計量管理・運転記録の提供についての改善措置、ならびに無通告査察のための適時のアクセスの要件で合意。
ウラン濃縮試験施設(PFEP)においては、2009年5/24-8/13にIR-4型遠心分離機10機からなるカスケード、IR-2m型遠心分離機10機からなるカスケード、及び単機のIR-1型、IR-2m型、IR-4型遠心分離機に合計約37kgのUF6を供給。
FEPとPFEPのすべての核物質(feed, product, tails を含む)と装置・機器はIAEAの封じ込め・監視下にある。ウラン濃縮度(U-235の同位体比)はイランの申告通り5.0%未満であることを確認。申告済みの核物質の転用が無いことを引き続き確認。
燃料製造工場(FMP)とイラン重水型研究炉(IR-40)の設計情報質問表(DIQ)の更新についてのIAEAの要請に応じ、イランはFMPのDIQを提出。
2009年8月11日、IAEAはイラン重水型研究炉(IR-40)の設計情報検認(DIV)を実施。2007年1月24日提供の設計情報と一致することを確認した他、原子炉容器は未導入であること(2011年導入予定)、ホットセル用のマニピュレータ(遠隔操縦機)や特殊加工されたガラス(鉛ガラス)の窓などの装置が未装備であることを確認。イランは、より詳細かつ最新版の設計情報、特に核燃料特性、燃料取扱い・移転機器、核物質計量管理システムに関する設計情報を提供する必要がある。
核開発の軍事目的が指摘される活動の嫌疑については、情報提供国によるイランとの情報共有に制限を加えられることでイランとの協議が難しくなっている。他方、嫌疑の解消にあたっては、イランからの実質的な協力が得られず、依然として未解決のままである。軍事関連の機微情報を保護しつつ、嫌疑解消に資する方法についての協議をイランに求めると共に、イランの核開発が平和的な活動であると証明するためには、同国が追加議定書を実施し、未解決問題の解決に努めることが重要である。
(参照)2009年8月28日付IAEA事務局長報告、GOV/2009/55、IAEAホームページ
【解説:政策調査室 濱田、技術開発支援室 堀】