核不拡散ニュース No.0109 2008.12.16
<欧州理事会がIAEA核燃料バンクに2,500万ユーロの拠出を決定>
【概要】
欧州理事会は、12月8日のプレスリリースで、多国間メカニズムの一環としてIAEAが設置する核燃料バンク構想を支持すること、同バンクの態様(モダリティ)や条件が明らかになり、IAEA理事会で承認されれば、最大2,500万ユーロ(約3,200万ドル(1ユーロ=1.28ドル換算)、約30億円(1ユーロ=120円換算)の拠出を行うことを決定したと発表した。また今後、欧州理事会が、IAEA核燃料バンクの枠組みやファイナンスについて、「EU共同行動(EU Joint Action)注」によりサポートする用意があることも述べている。
2007年9月に米国の核拡散脅威イニシアティブ(NTI:Nuclear Threat Initiative)が提案したIAEA核燃料バンクへの資金拠出は、今回のEUの拠出表明でほぼ満たされたことになる。これまで、NTIが5,000万ドル、米国が5,000万ドル、ノルウェーが500万ドル、アラブ首長国連邦(UAE)が1,000万ドルの拠出を表明していた。
多国間メカニズムに関してEUのソラナ共通外交・安全保障上級代表は、12月9日、ブリュッセルで行われた会議で、IAEA核燃料バンクは2010年の春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議までに実現させる必要がある、また、核燃料バンクの設立はNPTの三本柱である核不拡散、軍縮、原子力の平和利用を促進することになると述べている。
【解説】
IAEA核燃料バンクは、2007年9月に米国の核拡散脅威イニシアティブ(NTI:Nuclear Threat Initiative)が、(1) IAEAが2006年9月から2年以内に核燃料バンクの設立に必要な行動を起こすこと(注:2008年9月にこの期限は1年延長された)、(2) 他の加盟国等が合計で1億ドルあるいは1億ドル相当の濃縮ウランを拠出することを条件として、5,000万ドルの資金拠出を行うことを発表していた。現在まで、米国が5,000万ドル、ノルウェーが500万ドル、アラブ首長国連邦(UAE)が1,000万ドルの拠出を表明しており、今回のEUの2,500万ユーロ(約3,200万ドル)拠出表明により、現在の為替レート換算での不足額は約300万ドルとなるが、NTIの(2) の条件はほぼ満たされることとなった。
さらに、ソラナ氏はIAEA核燃料バンクの設立をEU加盟国(27カ国)間の政府間協力としてサポートすること、またバンクはNPTに寄与するものであり、2010年のNPT再検討会議が開催されるまでに実現される必要があると述べている。なお、EU加盟国である英国及び独国は、核燃料供給保証に関し、それぞれ独自に濃縮ボンド(債券)、多国間管理サンクチュアリープロジェクト(いずれの国家の主権も及ばない非主権地帯を設けIAEAが管理運営する濃縮プラントを建設するという構想)を提案している。
核燃料供給保証メカニズムの構築に関しては、加盟国はIAEAに、IAEAは加盟国にメカニズム構築を期待しており、2007年6月にはIAEA事務局長報告が出されたものの、それ以来具体的な進展は見られていない。今回のEU拠出表明でNTIの上記(2) の資金拠出の条件がほぼ達成されることになり、今後IAEAは核燃料バンク設立のために、上記(1) の条件である具体的なメカニズム構築を行うことが求められることになる。メカニズム構築に当たっては、メカニズム発動条件、濃縮ウランの供給条件、消費国要件等、検討すべき点があるが、資金面での目処がついたことから検討が一気に加速する可能性もありIAEAの動向に注目していく必要がある。
(参考)
注)EU共通外交・安全保障政策のための共同行動(CFSP Joint Action、EU加盟国の政府間協力の枠組みで実際の行動を伴うもの)。
【解説:経営企画部(核不拡散科学技術センター兼務)小林 直樹、政策調査室 田崎 真樹子】