核不拡散ニュース No.0105 2008.11.11
<オバマ次期大統領の原子力・核不拡散政策の展望>
11月4日、民主党のオバマ候補が新大統領に選出された。これまでの発言から、オバマ新政権の核不拡散・原子力政策を展望する。
(展望)
地球温暖化問題に鑑みると、もはや原子力エネルギーを排除すること自体、非現実的であることをオバマ氏は認識している。とはいえ、党内の伝統的な事情を考慮してか、原子力政策を積極果敢に進めるとまでは明言せず、核燃料及び廃棄物のセキュリティ、廃棄物処理、核拡散という主要課題を解決した上で、推進するという立場を堅持している。その意味で、ブッシュ政権の原子力政策から大きなトーンダウンとなることが考えられる。
ブッシュ政権と異なる、大きな変化が予想されるのは、GNEPとヤッカマウンテンプロジェクトである。GNEPへの参加国も年々増え国際的には支持を得ているものの、国内ではGNEPに対する政府要求予算は大幅に削られ、民主党内でも核不拡散の観点から再処理、高速炉に対する否定的な意見が強く、原子力政策の中心には位置付けられていない。ただし、研究開発については、一定の理解も得られていることから、先進的核燃料サイクルイニシアチブ(Advanced Fuel Cycle Initiative)の下で継続される可能性が高い。
ヤッカマウンテンでの廃棄物貯蔵については、反対の意を示している。発電所サイトでの貯蔵を考慮すべきとする一方、現在発電所サイトで貯蔵されている廃棄物には最先端のキャスクを使用するよう貯蔵要件のハードルを上げる可能性がある。
核不拡散については、オバマ氏は2007年8月2日、上院議会に「核テロ抑止、核兵器備蓄のグローバルな削減、核兵器・関連する物質や技術の拡散防止、原子力技術の責務ある平和利用への支持といったグローバルな協力活動において持続的に米国がリーダーシップを発揮するための法案」(別称:核兵器脅威削減法案(S.1977))を提出している。この中には、IAEAの能力強化、CTBTの批准、検証可能なカットオフ条約の成立、国際核燃料バンクの設立、民生の高濃縮ウラン使用原子炉の低濃縮ウラン使用原子炉への転換、などが盛り込まれており、オバマ政権の核不拡散政策に反映される可能性がある。副大統領に指名されているバイデン氏自身も、以前、IAEA保障措置や核の鑑識(Nuclear Forensics)活動の強化を強く支持する姿勢を示していた。そのため、米国エネルギー省の国家核安全保障庁(NNSA)が始めた次世代保障措置イニシアチブは国際保障措置への米国の支援の強化を狙ったものであることから、今後も継続される見込みが高い。また、燃料供給保証についても、米国の軍備管理協会(Arms Control Association)が発行している雑誌Arms Control Today (9月24日付)によれば、オバマ候補は以下のような見解を示しており、今後、国際核燃料バンク構想への米国の関与が更に深まり、検討が活性化する可能性も否定できない。
「米国及び同盟国の核セキュリティの観点から、発電のための原子力の拡大が、兵器級のプルトニウムやウランを生産可能な、機微な核燃料サイクル施設の増加につながらないようにすることが求められる。私は、大統領として、核燃料が原子爆弾に利用されるのを防止することを最優先事項とする。私は、核物質や核燃料製造施設の拡散に寄与することなく、原子力エネルギーの需要を満たすために、新たな国際原子力秩序(国際燃料バンク、国際核燃料サイクルセンター、信頼できる燃料供給保証を含む。)の確立に向けて、関心を示す他の政府と協働する。合理的な価格での燃料へのアクセスを確保する国際システムにより、機微な核燃料サイクル施設を必要としない発展途上国の経済発展を助長するとともに、核兵器開発の野心を有しながらそれを隠そうとする国に対する圧力を高めることが可能になる。」
現在はグルジア問題を契機に米露関係は冷え込んでいるが、グルジア問題以前は、オバマ氏はロシア国内の核物質のずさんな管理について早急な対応が必要との認識を示し、ロシアと積極的に協力する意向を示していた。米露間の核軍縮削減条約についても取り組む姿勢を見せていることから、今後、核不拡散及び核軍縮の分野で米露関係に動きがみられる可能性もある。また、グルジア問題の余波を受けて2008年9月に議会審議から取り下げられた米露原子力協力協定についても、進展を見せる可能性がある。
2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減する行動計画を打ち出しているものの、共和党政権との政策の違いが明白になるであろう地球温暖化対策としての原子力エネルギーの位置づけは、上述した以上のことははっきりしていない。目下、米国の喫緊の課題が経済政策という事情のほか、民主党内にも原子力推進派から反原子力派までと幅広い意見が混在している。こうしたことから、新政権の原子力政策の詳細が明らかになってくるのは、エネルギー省長官や原子力担当次官補の人事に依存する部分もあり、今後分かり次第追って分析を試みたい。
(参考)
- オバマ氏及びバイデン氏のエネルギー政策についてはこちらを参照。
- オバマ氏の核テロ対策として、政権第1期中に脆弱な施設内の核兵器に使用し得る核物質(nuclear weapons materials)のセキュリティ向上、PSIの制度化、核テロに関するサミットの開催、IAEAの強化、兵器用核分裂性物質の生産禁止条約の交渉、燃料供給保証等の構築、核テロ及び核兵器拡散を担当する国家安全保障担当補佐官代理の設置、などが挙げられている。詳しくはHPを参照。
- バイデン氏は民主党内の大統領候補選に立候補した際、核不拡散に関し、IAEA保障措置の改良、核の鑑識能力の強化、旧ソ連の元兵器製造関連科学者への基金の増加、などを支持している。詳細はHPを参照。
- 米国の軍備管理協会のHP。
- Library of Congress(S.1977)
【解説:政策調査室 大塚】