核不拡散ニュース No.0102 2008.10.15
<米国大統領候補者の包括的核実験禁止条約(CTBT)に対する考え方について>
大詰めを迎えている米国大統領選挙活動に於いて、民主党オバマ、共和党マケインの両候補が包括的核実験禁止条約(CTBT)をどのように考えているのか、これまでの両候補の発言から考察してみたい。
《ポイント》
・オバマ候補はCTBTの批准を優先的に行う旨発言していることから、同候補が大統領に選出された場合、CTBT批准の可能性が高まると考えられる。
・マケイン候補はCTBTの進展に対して偏見を持たない旨発言しているが、過去にCTBT批准に反対したことがあること、核抑止を担保するための核実験実施に含みを持たせていることから、同候補が大統領に選出された場合には、CTBT批准の可能性は高いものでは無いと考えられる。
・何れの候補が大統領になった場合であっても、2009年にはCTBT発効促進会議がニューヨークで開催されることから、国際世論の動向によっては、米国はアクションを取らなければならないことも想定される。
【両候補者の考え】
オバマ候補:大統領に選出された場合には、CTBTの批准を優先的に行う旨発言している。
マケイン候補:1999年のCTBT批准に対しては反対票を投じたが、CTBTの進展については偏見を持っていない旨発言している。また、米国は核実験モラトリアムを継続するが、核抑止を弱体化させないため、検証可能な方法での核実験実施方法について、議会や同盟国との協議を開始すべきであるとの考えを有している旨発言している。なお、この協議には現在のCTBTの見直しも含まれている。
(情報ソース)
- Barack Obama and John McCain on Nuclear Security Issues
- 上院選、民主党は議会支配の60議席獲得なるか(米国)日本貿易振興機構
- CTBTO/Country Profile-United States of America
- Arms Control Association Prospect for U.S. Ratification of the Comprehensive Test Ban Treaty
【分析】
オバマ候補が大統領として選出された場合、上記の発言振りからCTBT批准に向けたリーダーシップを発揮することが予想される。また、大統領選挙と同時に実施される米国上院選挙において、民主党の議席が現有の51議席を上回る議席を獲得することが見込まれることから、民主党議員を中核として、一部の共和党議員の賛同が得られれば、CTBT批准の実現性が高まるものと思われる。
しかしそのためには、1999年の批准を巡る議会審議の際に問題となった論点、即ち(1)国際監視システムによる核実験探知の有効性(CTBTの国際監視システム(IMS)で全ての核実験を探知できるか)、(2)核実験無しでの米国核兵器信頼性確保(核兵器の老朽化に伴う安全性、信頼性を核実験なして確保できるか)、(3)核不拡散達成に向けたCTBTの有効性(核実験を禁止することによって核兵器の開発に歯止めをかけることができるか)の3点について、批准に反対する議員が納得する解決策を示す必要がある。この内、特に核実験探知の有効性については、1999年当時から現在に至るまでの技術革新により、現行のIMSの探知精度が向上していると考えられるが、残る2つの問題については説得性のある根拠を示すことができるかどうかが問題である。
マケイン候補が大統領となった場合、CTBTの進展に対しては偏見を持っておらず、核実験に対するモラトリアムを継続する旨を表明しているが、一方で核抑止力を担保するための核実験の実施にも含みをもたせていることから、現行のCTBTを批准する可能性は決して高いものではないと思われる。また、仮に同候補が批准に向けた行動を取る場合には、上記の論点に関する説得性のある根拠を示すことが求められているのは、オバマ候補の場合と同様である。
なお2009年9月には、ニューヨークでCTBT発効促進会議が開催されることから、どちらの候補が大統領となった場合であっても、国際世論の動向によっては、何らかのアクションを取らざるを得ないことが想定される。
【波及効果】
仮に米国がCTBTに批准した場合であっても、以下の(参考)に示したCTBTの発効要件を満たすことにはならないため、関係国に対し引き続きCTBTの早期発効に向けた働きかけがなされることが予想される。しかしながら、他の未批准国(中国、エジプト、インドネシア、イラン、イスラエル)において批准に向けた動きがなされた場合であっても、未署名国(インド、パキスタン、北朝鮮)における議論が進展しない以上、CTBTの早期発効が困難な状況にあることに変わりはない。従って、今後のCTBTを巡る議論は、CTBTを如何に発効させるかといった点に焦点が絞られるものと思われる。
(参考)
1.CTBTの発効要件
CTBTが発効するためには、国際原子力機関(IAEA)が発行した1996年4月の「世界の動力要原子炉」の表1に掲げている国及びジュネーブ軍縮会議におけるCTBT検討作業に正式に参加している44ヶ国の署名、批准が必要とされている。
この44ヶ国の内、未署名国はインド、パキスタン、北朝鮮。署名済の未批准国は中国、エジプト、インドネシア、イラン、イスラエル、米国である。
2.CTBT発効促進会議
CTBTは、署名開放後3年を経過しても発効しない場合、批准国の過半数の要請によって、発効促進のための会議を開催することが条約により定められている(第14条2)。本規定に基づき、1999年を第1回として、2年毎に、過去5回ウィーン及びニューヨークで開催されている。
3.米国のCTBTに対する協力
(1)米国内のCTBT発効に向けた動き
クリントン政権(民主党)下の1996年9月、CTBT署名開放と同時に米国はCTBTに署名。その後、同政権は1997年9月に上院に対してCTBT批准決議案を提出した。その後の検討を経て、1999年の上院本会議では、賛成48(民主党44,共和党4):反対51(共和党50,無所属1)、棄権1(民主党)で条約批准を否決(米国憲法の規程により、条約批准には上院の出席議員の2/3の賛成が必要)。
(2)米国内に設定されている国際監視システム(IMS)
(1) 主要地震観測所 5箇所(認証済)
(2) 補助地震観測所 12箇所(認証済)
(3) 微気圧振動観測所 8箇所(認証済5箇所、計画中3箇所)
(4) 水中音波観測所 2箇所(認証済)
(5) 放射性核種観測所 11箇所(認証済10箇所、整備中1箇所)
(6) 放射性核種分析所 1箇所(認証済)
(7) 希ガス観測所 4箇所(運用中2箇所、準備中2箇所)