核不拡散ニュース No.0098 2008.09.02
<NSG総会、インド特例措置案の結論持ち越し>
(要点)
・NSGは、包括的保障措置の適用を受けていない国に対する原子力関連の輸出を禁止しており、包括的保障措置の適用を受けていないインドに原子力関連物資を輸出するには、インドに対する特例措置を認める必要がある。
・そこで、米国はインドとの原子力協力を進めるべく、無条件でインドに原子力関連物資の輸出を可能にするインド特例措置案を提出した。
・しかしながら、およそ半数の国が懸念を示したと伝えられ、今次総会では合意には至らなかった。
(本文)
8月21、22日、45カ国から構成されるNSG総会がウィーンにて開催された。NSGの指針では、NPT上の非核兵器国に対して原子力関連物資を輸出する際、受領国による包括的保障措置の適用を要件としているため、NPT非参加国、すなわち包括的保障措置の適用を受けていないインドに対し、原子力関連物資を供給するにあたっては、特例措置について参加国間のコンセンサス(全会一致)で決定する必要がある。また、米国の国内法であるヘンリー・ハイド法においても、NSGにおけるコンセンサスによる決定が大統領が米印原子力協力協定を議会に提出する上での条件とされている。このため、2008年8月6日にNSG議長国ドイツに米国はインド特例措置案を提出した。同案がコンセンサスで合意に達するか否かが今次総会における焦点となった。
7NSGの会議は非公開であるため情報は限られているが、報道によれば、およそ20カ国が、インドの特例措置に対し、何らかの条件を課す修正案を提案し、中でもアイルランド、オーストリア、スイス、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、ニュージーランドが、米国の提案を修正する方向で協力していると伝えられている。
結局、今総会で同案合意には至らず、9月4、5日に再度会合をもつことで合意したと報じられている。
なお、今般、米国が提出した案の概要は以下のとおりである。
(米国が提出したインド特例措置案)
1. NSG参加国は、インドが不拡散レジームにおける献身的なパートナーとして自発的な行動を取っていることに留意し、不拡散へのコミットメント及び行動に関する以下のインドの活動を歓迎する。
a.段階的に民生用原子力施設を分離し、IAEAに申告することを決定したこと
b.IAEAとの交渉を実施し、IAEAの基準、原則、慣行に従った、民生用原子力施設に対するIAEA保障措置の適用に関する保障措置協定について、理事会の承認を得たこと
c.民生用原子力施設に関し追加議定書への署名及び批准にコミットしたこと
d.濃縮及び再処理技術を保有していない国に対し、それら技術の移転を自制していること
e.多国間レジームにより管理されている原子力及び原子力関連の物資、設備、技術の実効的な移転管理が可能な輸出管理システムを採用していること
f.NSGの輸出規制品目とインドの輸出規制品目が一致しており、NSG指針を遵守していること
g.核実験のモラトリアムを継続し、多国間によるカットオフ条約の締結に向けて他国と協力する用意があることを表明したこと
2.上記の観点から、NSG参加国はIAEA保障措置が適用されるインドの民生用原子力計画との民生用原子力協力に以下の政策を適用する。
a.指針Part 1注1の第4(a)、4(b)、4(c)パラグラフ注2にかかわらず、移転がPart 1のその他全ての規定を満たす場合は、平和目的で、保障措置の適用を受けている民生用原子力施設での利用のために、インドにトリガーリストの品目及び関連技術を移転することができる。
b.指針Part 2注3の第4(b)パラグラフ注4にかかわらず、移転がPart 2のその他全ての規定を満たす場合は、例えば保障措置が適用されている民生用原子力施設での平和利用目的の場合、参加国は原子力関連汎用設備等を移転することができる。
c.関連する国際的コミットメントやインドとの二国間協定を考慮し、指針の履行に関わる事項について、通常のルートを通じて参加国は連絡を維持し、協議を行う。
3.非参加国でありながら、指針Part 1及び Part 2を遵守する国による指針の履行が、最新の指針に沿ったものとするために、NSG議長国は提案された指針改定案を差別なく全てのそうした非参加国との間で、検討することが要請され、非参加国が希望する場合は、改定案に対するコメントを求めるよう要請される。インドが改定案に関する決定に参加することは、インドによる履行を促進する。
注1) 原子力専用品・技術を規制
注2) これらは、受領国の要件として包括的保障措置の適用を求める条項
注3) 原子力汎用品・技術を規制
注4) 原子力汎用品、技術の移転にあたってNPT参加国でない受領国が保障措置下にない施設を有しているか否かを考慮に入れるべきとする条項
(情報ソース)
<第20回 国連軍縮会議 in さいたま>
8月27日〜29日、さいたま市で第20回国連軍縮会議(国連軍縮部及び国連アジア太平洋平和軍縮センター主催)が開催された。会議には、日本、米国、露国、中国、イランなど17カ国から政府関係者、シンクタンクや大学等の研究者、マスコミ等が参加した。
今回の会議は、核不拡散条約(NPT)の3本柱である「核軍縮」、「核不拡散」、及び「原子力の平和利用」にスポットを当て、「核軍縮、核不拡散と原子力エネルギーの平和的利用:傾向と課題」をテーマとし、(1)「NPT体制の課題と克服への取り組み」、(2)「原子力ルネサンスと核不拡散」、(3)「東アジアの安全保障と軍備管理」、及び(4)「市民社会との連携(軍縮・不拡散教育)」の4つのパネルが設けられ、スピーチ及び議論が行われた。
このうち、(1)のパネルの「核兵器の無い世界に向けた取り組み」のセッションでは、米露間の核軍縮について露国外務省からのスピーカーは、昨今の米露間の緊張関係がSTART I (第一次戦略兵器削減交渉、1994年12月発行、有効期間15年で来年12月に失効)後の枠組み作りに影響を及ぼす可能性について言及した。
また「原子力ルネサンスと核不拡散」のパネルでは、岡﨑理事長が「Nuclear Renaissance and Nuclear Nonproliferation Responsibilities of Nuclear Energy States and Japan’s Contribution」と題するスピーチを行い、世界のエネルギー事情と原子力の必要性、原子力と核不拡散に向けた日本の取り組み、日本の高速増殖炉サイクルの開発戦略、原子力利用における3S(Safety、Safeguards、Security)の重要性、原子力機構における核拡散抵抗性のある原子力技術の研究開発などについて述べるとともに、原子力機構としても科学技術的な観点から関係機関とも協力しながら原子力の平和利用の拡大と核不拡散の両立に向けて積極的に貢献していきたい旨を言及した。
同パネルの討議では、NPTにおける非核兵器国の原子力平和利用の権利と核兵器国の軍縮努力義務、3Sの具体化や現在、原子力供給国グループで議論が行われている米印協定との関係、IAEAを中心に議論が行われている核燃料供給保証メカニズム構築に向けた取り組みや課題、等について問題点の指摘及び議論が行われた。
米国は、米印原子力協力を進めるに当たり2006年3月のNSG協議グループでインド特例措置案を回覧しており、同案と今回の提案の主要な相違点は以下の表のとおり整理できる。今回の米国案は全体的にインドに一層有利な内容になっている。
○2006年6月に米国が示した案
1.インドへ原子力関連物資の輸出を行おうとする国が、インドが、本文書で述べられている核不拡散や保障措置のコミットメントを継続していると判断する場合に、インドへの移転が可能。
○2008年8月に米国が示した案
1.本文書で述べられている、インドによる核不拡散上のコミットメントと、インドへの原子力関連物資の移転を結びつける記載はない。
2.インド等の非参加国が将来のガイドライン改正の議論に参加することを可能にする記載が含まれている。
(今後の展開)
次回の総会では、インドの特例扱いに関し、何らかの条件が課されるか、条件なしの特例扱いが認められるか否かが焦点となる。報道によれば、各国から様々な条件が提案されたとされるが、米国のシンクタンク等では、以下の2つの条件が課されることが最低限必要であるとの見解が示されている。
1)インドが核実験をした場合の燃料供給の停止
2)インドへの濃縮・再処理技術の輸出制限
インドは、インド特例措置を認めるにあたりClean Exemption(条件をつけずに特例措置を認める)を求め、何らかの条件が課されれば、米印原子力協力を履行しないと断言している。従って、上記の条件をそのまま課すことは米国・インド双方にとって受け入れ難い。一方、Clean Exemptionに懸念を表明している国々はインドに対する無条件の例外扱いを認めることは、核不拡散体制を大きく損なうものであり、米国案をそのまま受け入れることはできないとの見解である。従って、次回のNSG臨時総会では、米国案の修正について協議が行われることとなるが、例えば、一つの妥協案として、上記事項について、明確な条件と受け取られないよう、表現を工夫することが考えられる。あるいは、NSG参加国が、インドの核不拡散活動に対する定期的なレビューを行う、などで妥協することも考えられる。現在、米国と関係国との間で調整が行われていると推定されるが、次回協議までに妥協点を見いだせるか、予断を許さない状況である。
(米国議会との関係)
NSGの9月の協議でも合意に至らなかった場合、9月26日からの米国議会の休会を考えると、米印原子力協力の年内発効は絶望的となる。
仮に議会が再開する9月8日までにNSG内で何らかのコンセンサスが得られたとしても、バーマン下院外交委員会委員長がライス国務長官に書簡(※)で伝えたように、9月26日までの議会スケジュールを考えると米印原子力協力協定を審議する時間はあまりにも限られているため、今年中に米印原子力協力を発効させることは難しい状況にある。
(※)バーマン委員長はライス長官宛てに、米国国内法であるヘンリー・ハイド法と同等の条件(インドが核爆発を実施した場合の協力の停止等)を課さないNSGの決定がなされた場合、現行法の発効要件(議会提出後、合同承認決議が可決されるまで最低30日間必要)を変更するような立法措置は困難であるとする書簡を発出している。
【解説:政策調査室:大塚】