核不拡散ニュース No.0086 2008.04.04
<米印原子力協力に関するインドの国内委員会の開催について>
報道によると、2008年3月17日、インド連立与党と左派政党から構成される国内委員会が開催され、インドとIAEAとの間でほぼ合意に達していると伝えられる保障措置協定についての議論がなされたが、左派政党は更なる議論が必要として、当委員会としての結論は4月に予定される次回の会合に持ち越しとなった。
(情報ソース)
<中東諸国との間の米露の原子力平和利用協力の枠組み構築の動き>
最近、中東、北アフリカ諸国による原子力発電への関心の表明、及び、これら諸国における将来の原子力導入を睨んだ、米仏露等、原子力先進国による、原子力平和利用の枠組み構築の動きが活発化している。
2008年3月24日に、ライス米国務長官とハーリド・バーレーン外相の間で署名された、米国とバーレーンの原子力協力に関するMOU(了解覚書)もこうした動きの一つとして捉えることができる。バーレーンを含む湾岸協力会議(GCC)諸国(サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、カタール、バーレーン、オマーン)は、2006年12月、共同で原子力発電を導入する意図を明らかにしている。米・バーレーン間のMOUのテキストは公表されていないが、国務省が発表したプレスリリースによれば、同MOUは、安全、セキュリティ、核不拡散における最高レベルの基準に則って原子力の平和利用を促進しようとする中東及びその他の地域の国との間で、米国が協力をする意思があることを表明するものである。また、バーレーンは、MOUにおいて、機微な核燃料サイクル技術を放棄し、既存の核燃料市場に依存するとの意図を確約した。
中東、北アフリカ諸国による原子力発電への関心の高まりそのものも、イランの核開発疑惑に触発された動きと捉えることもできるが、本MOUに見られるような、米国の中東諸国に対する原子力平和利用協力への積極的な動きも、具体的な協力を想定したものというよりは、再三にわたる国連安全保障理事会における制裁決議にかかわらず、濃縮活動の停止を拒否しているイランに対するメッセージという意味の方が大きいものと考えられる。すなわち、機微核燃料サイクル技術を放棄する国に対しては、積極的に原子力協力を行う用意がある旨の意思表示であり、その趣旨は、プレスリリースの中でも明示的に述べられている。
なお、将来、米国がバーレーンとの間で、原子炉の輸出等の協力を行うにあたっては、原子力法第123条に定める原子力協力協定の締結が必要になる。
一方、2008年3月25日、ロシアはエジプトとの間で民生原子力協力協定に署名した。本協定はムバラク大統領の訪露の際、ロシアの国家企業Rosatomのキリエンコ総裁とエジプトのユーネス・エネルギー相により署名された。協定の原文は公表されていないが、Rosatomのプレスリリースによれば、本協定の下で、エジプトで計画されている原子力プラントの入札へのロシア企業の参加、エジプトの原子力施設における人材の訓練、エジプトへの燃料供給が可能になるとされている。
ロシアは、近年、国際原子力市場の中での存在感を増しているが、本協定の締結は、こうした動きの一環として捉えることができる。
1970年代に開始されたエジプトの原子力発電導入計画は、チェルノブイリ事故の影響で、1986年に頓挫したが、2007年10月29日、ムバラク大統領は、原子力計画を再開する意図を表明し、現在4基の原子炉を建設する計画を有している。(最初の原子炉の入札は2008年中に行われる予定であり、15-20億US$の予算規模とされている。)
なお、米国はエジプトとの間で1982年に原子力協力協定を締結済みである。ただし、2004年2月のブッシュ大統領の演説に見られるように、米国は、供給相手国に追加議定書の署名を求めることを政策としており、エジプトが追加議定書に署名していないことが、今後、実際に協力を進めるにあたってのネックとなる可能性がある。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 山村】
<米国エネルギー省(DOE)がGNEP施設検討のために産業界へUS$18.3Mの追加の資金提供を実施>
DOEは、2008年3月28日、GNEP構想のうち、核燃料リサイクルセンターと先進リサイクル炉(ARR)計画を更に進めるために、国内外の4企業グループに対し、総額US$ 18.3Mの資金提供を行う旨を発表した。DOEは、2007年5月、ビジネスプラン、技術開発ロードマップ、核燃料リサイクルセンター、ARRの概念設計等の検討に対し、2007-2008会計年度で、総額US$60Mを提供することを発表し、2007年7月に4企業グループが選定され、最初の資金配分(計US$16.3)が発表された、今回の決定は、1月に各企業グループが提出した評価を基に更なる詳細な検討を求めるために、追加的な資金を提供するものである。
各企業グループに配分された資金の額は以下のとおりである。
Energy Solutions (US$ 5.9M)
International Nuclear Recycling Alliance (AREVAと三菱重工業)(US$ 5.7M)
GE-日立(US$ 5.5M)
General Atomics (US$ 1.3M)
左派政党は昨年11月のIAEAとインド政府間の保障措置協定交渉開始合意の際に、左派勢力を含む国内委員会の合意を得ることを協定の条件としており、今回の委員会開催はこの条件をクリアするためのものであったと考えられる。
米印原子力協力協定が発効に至るには、(1)IAEA理事会でのインド・IAEA間の保障措置協定の承認、(2)NSG(原子力供給国グループ)のコンセンサスによる受領国における包括的保障措置適用というガイドラインの要件からインドを除外する旨の決定、(3)インドの追加議定書の締結に向けたIAEAとの実質的な協議の進展という条件が整った上で、(4)米国議会で米印協定案に対する承認決議、という要件を満たす必要がある。ホワイトハウスのペリーノ報道官は3月25日の記者会見の中で、“now or never” (現時点で先に進めることができなければ、ブッシュ政権中には本協力は実現しないことを意味すると考えられる。)というには、まだ数ヶ月早いと述べているが、今回のインド国内委員会で決着を見なかったことで、ブッシュ政権の任期中に協定発効を実現するのはスケジュール的に厳しくなりつつある
インド政権側が、左派勢力の閣外協力の取り下げ→政権の崩壊→早期総選挙というリスクを冒してまで本協力を推進しようとするか否かが注目されていたが、委員会の結果は、政権側にそこまでの決意がなかったことを示している。また、ロイター通信では、インドは米国の選挙プロセスによる時間的制約に縛られない旨のムカジー・インド外相の発言が伝えられている。
左派勢力の反対は、条件闘争でなく、米印原子力協力合意そのものに対する反対と見られることから、今後も、左派勢力が妥協に応じる可能性は少ないと考えられ、シン政権が政権維持を最優先にする姿勢を崩さなければ、4月の会合でも同様の結果に終わる可能性が高いと考えられる。
【解説:政策調査室 山村】