核不拡散ニュース No.0077 2007.12.07
<イランの核開発に関する米国の評価>
2007年12月3日、国家情報局(Office of the Director of National Intelligence)及び国家情報会議(National Intelligence Council)は、イランの核開発に関する国家情報評価*(National Intelligence Estimate (NIE))(表題:「イラン:核に関する意図と能力」)を発表した。
ムカジー外相が語ったところによれば、IAEAとの交渉の結果は、同委員会に諮られることになる。尚、IAEAとの交渉は、11月19日の週の後半から開始される予定である。
本評価は、(1)イランの核兵器開発の意図、(2)イランの核兵器開発に影響する国内、国外の要因、(3)イランが、現在、保有する、核兵器開発に必要な能力、及び将来、保有すると予測される能力等を評価するものである。
主な結論は、以下の通りである。(尚、以下の項目はいずれも100%の正確性を有するものではなく、精度のレベルは括弧内に示すように、各項目によって異なる。)
- イランは2003年秋に核兵器計画**を停止したが(high confidence)、核兵器開発のオプションは引続き保持している(moderate-to-high level confidence)。
- 兵器計画の停止及びウラン濃縮プログラムの一時中断、追加議定書への署名の決定は、主に、イランの未申告活動が発覚したことにより、疑惑解明に向けた国際的な動きや圧力が高まったことを理由とするものである(high confidence)。このことは、イランが、以前、想定されていたよりも、外からの影響に弱いことを示すものであろう。また、政治的、経済的、軍事的コストに関係なく、やみくもに核兵器開発に邁進するのではなく、イランの意思決定が、費用対効果の計算をベースとしたアプローチによるものであることを示している。従って、疑惑解明に向けた国際的な動きや圧力の強化というムチと、安全保障、国家的威信、地域的な影響力の付与というアメを組み合わせることにより、核兵器計画の停止を継続させることができる可能性がある。
- イランは2007年半ばの時点において、核兵器計画を再開していない(moderate confidence)。
- イランが現在、核兵器開発の意図を有するか否かは定かではない。永久に核兵器計画の停止を維持するか否か、また、同計画を再開する時期、基準を決めているかについて、確信を持って判断するに足りる十分な情報を持ち合わせていない。
- イランはナタンズにおける遠心分離機の運転に関し、引続き、重要な技術的問題を抱えている(moderate confidence)。
- イランが1個の核兵器製造に十分な高濃縮ウランを生産できる能力を有するようになるのは最も早いケースで2009年末であろうが(moderate confidence)、その可能性は極めて低い。
- イランは、恐らく、2010年から2015年の間に1個の核兵器製造に十分な高濃縮ウランを生産できる能力を有するようになる(moderate confidence)。ただし、2015年以降もこの能力が達成できない可能性もある。
- Cランは恐らく核兵器用の高濃縮ウランの生産に、申告済みの施設ではなく、秘密裡の施設を利用するであろう(moderate confidence)。多くの情報が、イランが秘密裡の転換、濃縮活動を実施していたことを示しているが、そうした活動は核兵器開発の停止とともに、2003年秋に停止し、少なくとも2007年半ばまで再開されていない。
- イランは2015年以前には、再処理により、核兵器1個の製造に十分なプルトニウムを生産する能力は有しない(high confidence)。
イランの核兵器計画については、2005年の5月にも、NIEが策定されているが、その中では、イランの核兵器開発の意思が固いこと、将来(2010年代の初め以降)、核兵器を保有する可能性が高いことなどが述べられており、今回公表されたNIEにおいて、2003年末にイランが核兵器計画を停止したとされていることは、2005年のNIEの結論の一部の誤りを認めたものである。今回、公表されたNIEが、現在、EU3(英仏独)+米中露で議論されている国連安保理における3回目の制裁決議採択のモメンタムを失わせることになるのか、あるいは、ブッシュ大統領が記者会見で述べているように、イランが獲得しようとしている濃縮能力が、将来の核兵器開発に利用される可能性が否定できないことに鑑み、引続き、濃縮停止に向けた圧力を強めていく方向になるのかは予断を許さない。後者の場合は、国際社会の圧力が有効であるという、NIEの評価が、制裁決議の正当化に利用されるか可能性がある。
*NIEとは、安全保障に関し、米国の情報機関が行う最も権威ある判断であり、政治、軍事の指導者が安全保障政策を策定するにあたり、インプットを与える。
**ここで言う核兵器計画とは、核兵器の設計、核兵器化及び秘密裏の転換、濃縮関連の計画を意味し、申告された民生用の転換、濃縮計画は含まないとされている。
【報告:政策調査室 山村】