核不拡散ニュース No.0072 2007.10.19
<米印原子力協力について>
米印原子力協力協定に対するインド国内の動きについては、核不拡散ニュースNo.0067でお伝えしたところであるが、その後、本協定の履行の早期実現が困難になりつつある動きが伝えられるところ、以下のとおり概要を報告する。
インド首相府の10月15日付プレスリリースによれば、シン首相は、ブッシュ大統領との電話会談の中で、米印原子力協力協定を発効させること(operationalisation)に困難が生じたことを説明した。
米印原子力協力協定については、シン政権を閣外協力している左派政党が、インドの核実験や外交政策に制約を加えるものとして、印-IAEA保障措置協定の交渉に入ることに反対しており、国民会議派を中心とした連立与党・統一進歩連盟(United Progress Alliance(UPA))と左派政党は、国内委員会を設置し、左派政党の懸念を解消するための議論が行われてきた。しかし、各種報道によると、これまでの会合では、UPAと左派政党の見解の相違は殆ど埋まらず、シン首相がIAEAとの保障措置協定の交渉開始に踏み切った場合、左派政党が閣外協力を取り下げ、議会の早期解散、総選挙の可能性も取り沙汰されていた。
こうしたインド国内の政治状況の中で、シン首相及びソニア・ガンジー国民会議派総裁は12日、現政権が米印原子力協力を実現するだけを目的とした政権ではないとして、早期解散の可能性を否定する発言を行い、米印原子力協力の早期実現には否定的な見方が広がっていた。結局のところ、総選挙での敗北による政権崩壊を恐れる連立与党側が、米印原子力協力の実現よりも、政権維持を最優先にした結果であろう。既にお伝えしているように、本協定案は、核不拡散の観点から見ると、米国がインド側の要求に対し、大幅に譲歩したという点において、米国の核不拡散コミュニティ等では批判的な見方が強く、客観的に見てインドにかなり有利な内容になっている。この点を勘案すると、インド国内の左派勢力の反対は、協定の内容についてではなく、協力そのものに対する反対であると捉えることができ、この点、インド政府与党が読み誤ったのではないかと考えられる。
一方、米国側は公式には、協力実現に楽観的な発言を繰り返している。また、ヘンリー・ハイド法は引続き有効であるという意味において、米印原子力協力は完全に打ち切られたわけではないが、少なくとも、2009年に予定されるインド議会の総選挙後までは、米印原子力協力は進展しないとの見方が強い。2009年の段階では、米国においても新政権が誕生しており、新政権がブッシュ政権と同じ熱意をもって、本協力を推進するかは不透明である。ただ、本協力のドライビングフォースとなった、両者それぞれの要因(インド側:大幅に増大することが想定されるエネルギー需要への対応の観点からの海外からの軽水炉導入、米国側:インドの戦略的重要性)が消えていないのも事実であり、その意味で、長期的に見れば、本協力が実現する可能性もあるのではないかと考えられる。
【政策調査室】