核不拡散ニュース No.0069 2007.09.21
<イラン動向:8月30日付IAEA事務局長報告の公表>
9月10日から3日間、ウィーンにて開催されていたIAEAの9月定例理事会において、イランの核開発に関する保障措置の履行状況を記した8月30日付IAEA事務局長報告(GOV/2007/48)が公表された。
本報告は、8月27日に公開されたIAEAとイランの合意文書「未解決問題の解決のためのモダリティーに関するイランとIAEAの理解」(INFCIRC/711)(核不拡散ニュースNo.0066参照)の内容を踏まえたもので、イランにウラン濃縮活動の停止等を求めた安保理決議1737、1747履行に関する2月22日付報告(GOV/2007/8)及び5月23日付報告(GOV/2007/22)に比べて、未解決問題についてより詳細な記述を含む報告となっている。また、本合意(INFCIRC/711)に基づき、プルトニウム分離実験、カラジ廃棄物貯蔵施設において検出された高濃縮ウランの出所に関する問題は解決済であるとの見解(テヘラン技術大学において検出された分は未解決)が明記され、数多く残されている未解決問題に対しては今後の対応を併記するなど、行動計画の履行に向けた期待を滲ませた内容となっている。また、燃料濃縮工場(FEP)においては、設計規模に比較してウラン濃縮活動が小規模なこと、ウラン濃縮度に関してもイランの宣言(4.8%)よりも低い濃縮度(3.7%)しか実現されていないことが報告されている。当該施設に対しては、3月22日以降、中間査察、設計情報検認(DIV)、無通告査察、及び封じ込め/監視手段を通して保障措置が実施されており、ウラン転換施設(UCF)と同様に、申告された核物質が平和目的以外の活動に転用されていないとの結論が出されていることは留意に値する。また、引き続き、未解決問題への取組を中心に注目される。(8月30日付IAEA事務局長報告(GOV/2007/48)、及び「未解決問題の解決のためのモダリティーに関するイランとIAEAの理解」(2007年8月27日付INFCIRC/711)の概要詳細は別紙1を参照のこと)
(情報ソース)
<第2回GNEP閣僚級会合を開催>
9月16日、ウィーンにて、第2回GNEP閣僚級会合が開催され、5月に行われた第1回GNEP閣僚級会合に参加した、米、中、仏、日、露を含む、38ヶ国及び3国際機関・団体(IAEA,GIF,EURATOM)が参加した(我が国からはウィーン国際機関日本政府代表部の天野大使が出席)。
本会合では、16ヶ国(米、中、仏、日、露、豪、ブルガリア、ガーナ、ハンガリー、ヨルダン、カザフスタン、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、ウクライナ)の代表が、GNEPの原則を述べた「原則に関する声明(Statement of Principles)」と称される文書に署名を行った。今後、署名国は、GNEP Partnersと称されることになる。また、理事会、運営グループ(両者ともオブザーバー国及びパートナー国が参加)、ワーキンググループの3層からなる体制の下で本協力を進めていくことが合意され、「信頼性が高い燃料供給サービスWG」、「インフラ開発WG」の設置が決定した。
GNEPのパートナーとなった国は、第1回会合に参加した原子力先進国、オーストラリア、カザフスタンなどの資源国(カナダはパートナー国としては参加せず。)、既に原子力を導入しているブルガリア、ハンガリー、リトアニアなどの欧州諸国、将来の原子力の導入に関心を示しているヨルダン、ガーナなどの発展途上国、に大別され、地域性においても、原子力の発展段階においても、参加国の多様性が増したということができる。Statement of Principlesでは、既存あるいは新たな二国間協定、及びGIF、INPROといった既存の多国間の枠組みの下で協力を実施することが述べられており、GNEPを進めるための新たな多国間協定等の締結は想定されていない。また、参加国はいかなる権利の放棄も求められず、自発的に本取組に参加することが明示的に述べられているのが特徴的であり、これは、新興の原子力国開発利用国が抱いているところの原子力平和利用の権利の制限への懸念に配慮を示したものと捉えることができる。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 山村】
<ベトナム・ダラト研究炉の低濃縮ウラン燃料炉への転換>
9月12日〜15日、米国エネルギー省・国家核安全保障庁(DOE/NNSA)の地球的規模脅威削減イニシアティブ(GTRI)のプログラムの一環として、ベトナムのダラト研究炉から核拡散懸念の高い高濃縮ウラン(HEU)(U-235濃縮度36%)燃料をロシアに移送し、同研究炉では核兵器転用懸念の低い低濃縮ウラン(LEU)燃料を使用するLEU型炉、ロシア製の研究炉(500kWt,VVR-Mプール型)へと転換する作業が実施された。このプログラムは、IAEAとロシアの協力の下で実施されており、ベトナムのダラト研究炉は同イニシアティブによって転換された50番目の研究炉となる。NNSAはベトナムに対し、このイニシアティブの実施のためにおおよそ240万米ドルの財政的な支援を提供し、ダラトの研究炉及び放射線源取扱施設の核セキュリティー強化などの技術的支援も行った。このイニシアティブによって、今回は約10パウンド(4.5kg)、これまでで合計約500kg(核兵器20個分に相当)の未使用及び使用済高濃縮燃料がロシア製の特別輸送コンテナTK-S15に積まれ、厳重な警備の下、ロシアに移送された。ベトナムにおけるこのプログラムの実施は、2007年3月19日のベトナム原子力委員会(VAEC)とNNSAとの間で締結された取極めに基づくものであり、ベトナムの核不拡散及び核セキュリティーに資するプログラムとして高く評価される。
【注釈:ダラト研究炉とその保障措置の経緯】
ダラト研究炉は、当初は250kWのTRIGA型研究炉で、1959年に南ベトナム(当時)と米国との原子力協力協定締結後、米国の支援で1963年に完成し、臨界に達した。しかし、その後の南ベトナム崩壊、南北正式統一により南ベトナム政府を当事者とする国際条約・協定は失効し、運転は中断され、その後、1983年、IAEAより研究炉用燃料(68万米ドル)の供与を受け、ソ連(当時)の協力の下、保障措置協定(INFCIRC308)を締結し、1984年に、500kWtに出力増強し、運転を再開した。
ベトナムは1990年2月23日には、包括的保障措置協定を批准(INFCIRC/376)しているが、その保障措置協定でおいて、ダラト研究炉に関し、U-235の燃料要素を36%以下に制限することが明記されている。現在、査察は年1度の割合で実施され、在庫変動報告(ICR)、物質収支報告(MBR)、実在庫明細表(PIL)はVAEC委員長がIAEAに提出される。2002年と2004年にIAEAは環境サンプルの採取を実施した。ダラト研究炉が高濃縮ウラン(36%)を燃料とするものから低濃縮ウランを燃料とする500kWtのVVR-Mプール型へと転換されたことに伴い、現在、保障措置の実施内容の変更についての協議が行われている。
(情報ソース)
- National Nuclear Safety Agency(NNSA),“Reactor Converted and Nuclear Material Removed in Vietnam,”September17,2007
- ベトナム原子力委員会(VAEC)の聞き取り調査の他、“Nuclear Research Reactorsin the World:Vietnam,”International Atomic Energy Agency(IAEA),Last Updated April18,2006.を参照。
【報告:政策調査室 濱田】