核不拡散ニュース No.0063 2007.08.07
<米国解体プルトニウム処分用MOX燃料製造施設(MFFF,SRS:サバンナリバーサイト)の本格着工>
8月2日、DOEの発表によると、米国解体プルトニウムを軽水炉で燃焼処分するためのMOX製造施設(MFFF)の本格着工が開始された。
MFFF*:MOX燃料(ペレット)製造施設:MOX Fuel Fabrication Facility,米国解体プルトニウム処分用に建設が計画されているMOX燃料の製造施設。(サウスカロライナ州、サバンナリバーサイト)仏国アレバ社のMOXペレット燃料製造技術を基にした施設。年間の解体プルトニウムの処分量は3.8トンの設計になっている。
(情報ソース)
- 8月2日DOEプレスリリース
<フランス、リビアと原子力協力覚書を署名>
7月25日、サルコジ仏大統領は、リビアのトリポリを訪問中に両国間の民生用原子力協力に関する覚書に署名した。今回署名された覚書は、海水を淡水化して飲料水を供給するための原子炉の建設協力を目的とし、協定締結に向け両国間で共通の政策の決意を示したものである。
仏外務省報道官によれば、両国の民生用原子力分野の協力についての話し合いは、2003年12月のリビアの大量破壊兵器計画廃棄(発表)後の2004年末に始まり、2005年には仏原子力庁(CEA)から技術団がリビアに派遣され、2006年3月には、CEAとリビアの原子力担当部署との間で協力のための覚書に署名が行われた。同報道官は、この仏・リビア間の民生用原子力分野の協力は、国家レベルで国際的な不拡散のコミットメントに完全に応じることにより得ることができる原子力の平和的利用の利益の証であると述べている。
同報道官は、リビアの核不拡散上の懸念について、リビアが大量破壊兵器計画の廃棄を自発的に国際的監視下で実施したこと、IAEAにすべての原子力活動の査察の権限を与えた国際協定や追加議定書をリビアが批准したことにより軍事用原子力の放棄の姿勢が示されたこと、IAEA監視団の報告書に示されているように、IAEAがリビアで良好な活動をしていることなどを挙げ、覚書にはNPTなどの国際的な核不拡散レジームへの参加、IAEA保障措置の適用及び追加議定書の批准といった手段を通じて協力は行われると記載されており、フランスはEURATOMやNSGのメンバー国としての核不拡散に関する義務を果たしていく旨答えている。更に、政府間協定においては、全ての原子力施設で使用される核物質に対して、平和利用分野での協力及びIAEAによる保障措置の適用についての条項が含まれるだろう、との見解を示した。
なお、一部の報道では、本協力についてドイツの外務副大臣が、リビアへの原子力技術の輸出が欧州の安全保障にとって懸念事項であること、仏政府の行為はドイツの国益に反するもの、としてこの協力を問題視していることが伝えられている。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 大塚】
<東南アジア非核兵器地帯(SEANWFZ)条約委員会、条約強化に向けた行動計画を採択>
7月30日、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国外相は、マニラにて東南アジア非核兵器地帯条約(SEANWFZ)委員会を開催し、同条約の実施を強化するための5ヵ年行動計画(2007−2012年)を採択した。
行動計画は、以下の4点を目標として掲げている。1:IAEA保障措置協定締結を含むSEANWFZ条約で求められる約束の遵守を確実にする。2:(NPTの定義による)核兵器国5カ国(英仏米中露)による本条約の受諾(議定書の署名・批准)を求めるために5カ国との緊密な協議を継続する。3:原子力の安全についての国際基準に合った法的枠組みの作成、原子力事故早期通報のための域内ネットワークの構築、域内緊急事態準備対応計画の作成、そして、原子力安全分野におけるキャパシティ・ビルディングのために、IAEA、他の国際機関・地域機関、他の非核兵器地帯、対話国・他の友好国との協力を求める。4:行動計画を実施するための具体的な作業計画及び事業プロジェクトを共同で策定する。
近年、原子力導入に向かうあるいは導入を検討する動きがASEAN諸国の中で活発になってきている。インドネシア及びベトナムは2016−2020年までに原子力発電を導入することを政府決定しており、タイ及びマレーシアも原子力発電導入の検討を始めているとの報道がある。こうした動きの一方で、SEANWFZ条約で定められたことの遵守を検証する管理制度(同条約第10条)が十分機能していない、核兵器国による同条約への尊重が示されていないなど、東南アジアの非核化を担保する術は確立していないのが現状である。
このような状況等を背景に、今回の行動計画は、(1)条約締結国の核不拡散に対するコミットメントの確認、(2)原子力の安全のための対応、(3)核兵器国に本条約議定書の署名・批准を求めることの3点を主な目的とし、東南アジア諸国の原子力活動の拡大が東南アジアの非核化にとっての脅威とならないことを保証するシステムを構築するとともに、原子力の安全に対する対応を求めている。2020年に向け、ASEAN域内各国の原子力活動の活発化が益々予想される中、核不拡散の取組の強化に向けた努力も加速することが見込まれ、今後も引き続き留意していく必要がある。
(情報ソース)
- Association of Southeast Asian Nations(ASEAN),“Joint Statement on the Commission for the Treaty on the Southeast Asia Nuclear Weapon-FreeZone Manila, 30July2007,”
- 東南アジア非核兵器地帯(SEANWFZ)条約:INFCIRC/5484March1998
【報告:政策調査室 濱田】
<米印原子力協力協定に関する共同声明について>
7月27日、米国国務省、インド外務省は、ライス国務長官及びムカジー外相連名による共同声明を発出し、米印原子力協力協定の交渉が妥結したことを発表した。同日に行われたバーンズ国務次官のプレスブリーフィングと合わせて、協定の内容、問題点としてあげられる点について別紙のとおりまとめた。
今回の本格着工は、2005年10月整地整理(約10ヶ月程度)に着手し、停滞していた工事を再開したもので、軽水炉(PWR)プルサーマルによる米国の兵器級プルトニウム燃焼処分の根幹をなす部分がようやく始動したことになる。
米露の解体プルトニウム処分に関する2000年協定(核兵器から解体された米露双方34トン以上の兵器級プルトニウムを再び核兵器に転用できないよう処分する)をベースに、米国における解体プルトニウムの処分は当初、(1)プルサーマルによる燃焼処分、(2)セラミックに固定し高レベルガラス固化体でカバーし地層処分(固定化処分)の2つの方法が検討された。ブッシュ政権発足時に計画が見直され、計画の合理化のためプルサーマルによる燃焼処分に一本化された。プルサーマルによる燃焼は、欧州では実績のある手法で、米国では、Duke Power,COGEMA,Stone&Websterの3社がコンソーシアム(DCS)を形成し、この事業にあたることとなった(2006年2月Shaw AREVA MOX Services LLCに移行)。2005年3月MOX製造施設の規制当局からの建設許可が発給されている。一方、4体のMOX試験燃料の先行照射試験も処分が予定されているDuke Powerの発電所(カトーバ発電所)で2005年から開始されている。(試験用MOX燃料は、米国解体プルトニウムを使って仏国COGEMAのMELOXプラントで製造された)
米国における処分は、段階的に進められてきたが、MFFFの本格着工に影響した米国内外の要因がいくつか挙げられる。
(1)ロシアとの関係:元来解体プルトニウム処分は、米露両国の核軍縮・核不拡散の問題であり、米国単独の処分先行はできない(双務性)。これがロシア解体プルトニウム処分に米国が協力している理由のひとつである。近年ようやくロシアの解体プルトニウムにおいても本格処分について現実的な計画の合意が米国ともなされるようになった。
(2)地元(サウスカロライナ州)との関係:米国での処分計画が確定後、米国内の余剰核兵器解体プルトニウムがサウスカロライナ州サバンナリバーサイトに集められた。州は予定通りの処分を要請しており、目標が達成されないとき政府から州に対する罰金についても決められている。
(3)予算措置の問題、MFFFに関する設計・建設費、運転費の必要コスト見積もりが増大している。計画当初(2001年頃)は、MFFFの設計・建設費は10億ドル程度、運転費を含めた総事業費38億ドル程度と見積もられていた。しかし、度重なる設計変更、計画遅延等から、現在では、設計・建設費が47億ドル、総事業費100億ドルを越えると見積もられている。米国議会は、この状況に対し、政府の計画に批判を強め、予算案に対し厳しく査定している。また、MFFFの将来の運用としてGNEPでの活用を含め、政府側の検討を要求している。
本格着工の遅延は、事業全体の経費をさらに増加させることになるため、これらの課題を解決し、本格着工が強く期待されていた。
この米国の解体プルトニウム処分の対極となるロシアの処分は、ロシアの費用負担が可能な現実的な方法によって進めることが検討されている。米国側の進展を受けて、処分計画が進められることも予想できるが米国側は、従来の双務性のリンクを緩やかにして自国の処分を開始した面もあり、今後のロシア処分に対する米国の協力について注視する必要がある。
【解説:技術開発支援室 川太】