核不拡散ニュース No.0062 2007.07.27
<米印間の原子力協力協定の合意について>
7月20日、米印両国は、17-20日に次官レベル(米:バーンズ国務次官、印:メノン外務次官)で行われた原子力協力協定の交渉において、懸案となっていた問題について大きな進展が得られたとする共同声明を発表した。共同声明によれば協定案は、今後、両国政府による最終的なレビューを受けることとされていたが、インド政府は、同25日、本協定を承認した。現段階で協定案の詳細は公表されていない。
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<北朝鮮動向:六者会合に関する首席代表者会合閉会>
7月18〜20日、北京にて六者会合に関する首席代表者会合が開催された。今回の会合は、14日にIAEAが北朝鮮の核施設の停止を確認したことを受けて、初期段階措置の履行を確認し、北朝鮮の核計画の完全な申告及び核施設の無能力化の実行期限を今年末に設定することなど、「次の段階」の措置の大まかなロードマップに合意することなどが当初の目標であった。しかしながら、北朝鮮が95万トンの重油の供給及び他の関係国との関係改善の進展といった見返り措置の具体的な担保を求めたため、交渉の難航を予想した関係国は、ロードマップの履行期限を設定することを断念した。代わりに、関係国は、2005年9月の共同声明及び2007年2月の成果文書における約束の真剣な実施を改めて述べるとともに、ロードマップ作成のために、第6回六者会合第2セッションを9月初めに開催することなどとしたプレスコミュニケを発表した(六者会合首席代表者会合のプレスコミュニケ概要は下記を参照)。
北朝鮮は、核施設の無能力化の見返り措置として、米国によるテロ支援国家の指定解除、関係国による経済制裁の解除の他、1994年の米朝枠組み合意で示された軽水炉の提供を既得権として改めて主張したのに対して、米国は、北朝鮮がNPTに復帰した後に軽水炉の提供についての協議を始めるとの姿勢を改めて強調した。この北朝鮮の軽水炉の要求が1994年米朝枠組み合意における軽水炉提供を巡っての取決めを喚起させる象徴以上の意味を持ちうるのかは、経済制裁解除など北朝鮮の求める関係改善における進展具合との兼ね合いで図られる可能性は高く、今後の協議は予断を許さない。
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2007年2月の第6回六者会合第1セッション以後の六者会合のプロセスの促進のための全関係国による建設的な努力を評価した。
朝鮮半島の非核化、関係者間の国交正常化及び北東アジア地域の永続的な平和と安定のため、以下の全般的なコンセンサスに達した。
・2005年9月19日の共同声明及び2007年2月13日の成果文書における約束へのコミットメントを真剣に実施する旨改めて述べた。
・朝鮮民主主義人民共和国側は、全ての核計画の完全な申告及びすべての既存する全ての核施設の無能力化に対する約束を真剣に実施する旨改めて述べた。
・朝鮮民主主義人民共和国に対して、95万トンの重油に相当する規模を限度とする経済、エネルギー及び人道支援が提供される。
・「行動対行動」の原則による実施を約束した。六者は、上記の全般的なコンセンサス実施のために、以下の措置をとることを決定した。
・コンセンサス実施のための計画を協議するため、朝鮮半島の非核化、米朝国交正常化、日朝国交正常化、経済及びエネルギー協力、並びに北東アジアの平和及び安全のメカニズムの5つの作業部会を8月末までに開催する。
・9月初めに、すべての作業部会からの報告を聴取し、コンセンサス実施のためのロードマップ作成のため、北京で六者会合第2セッションを開催する。
・第6回六者会合第2セッションの後、可能な限り早期に北京で閣僚会合を開催する。
2005年7月の米印共同声明、2006年3月のインドの原子力に関する軍民分離計画という二つの合意に基づき、米国原子力法第123条で要求される二国間原子力協力協定に関する交渉が米印間で行われてきたが、当初の想定よりも多くの時日を費やしているとされている。これは、特に、(1)インドが将来再び核実験を実施した場合の取扱い(協力の停止、核物質の返還請求権等)、(2)インドに対する燃料の供給保証に関する条項、(3)再処理に関する包括的事前同意の付与、(4)濃縮、再処理技術に関する移転制限等の条項に関して、インドが2005年7月、2006年3月の合意を超える制約を二国間原子力協力協定によって受けることに対して、強い抵抗を示したことが主要な原因であるとの見方が強い。両国がこれらの各条項について、いかなる調整をし、最終的な決着が図られたのか、それがいかなる形で協定案に反映されているかについては、現時点では明らかにされていない。ただ、インド国内での報道によると、インドは、海外から輸入した燃料の再処理に特化した施設を建設し、その施設をIAEAによる保障措置の下に置くことを提案したとされており(2006年3月の軍民分離計画では、タラプールにある再処理工場(PREFRE)は、2010年以降、「キャンペーンモード」注1で保障措置下に置かれることとされていた。)、その提案を受け入れる形で、米国がインド国内における再処理の実施を容認したとされているなど、各種報道を総合すると、米国側がより大きな譲歩を行った可能性が高い。将来、核実験を行った場合の取扱い等、他の論点と合わせて、具体的な条文として、どのような規定がなされているのか、フォローしていく必要がある。
今後、米国においては政府内部における最終レビューを経て、協定の仮署名、米国議会による承認というプロセスが想定されており、仮署名の時期としては、本年8月か9月に予想されるライス国務長官のインド訪問のタイミングが考えられる。また、その後、本協定が発効するためには、米国において、上下両院の合同承認決議が必要とされている。今回の交渉妥結には、チェイニー副大統領、ライス国務長官の後押しがあったとされ、現政権に残された日数も見据えたブッシュ大統領を含む本合意に向けた米国側の強い意思がうかがわれる。ただ、そのために、米国側もいくつかの点で譲歩を余儀なくされたものと見られており、仮に、協定案にヘンリー・ハイド法に反すると解釈される条項が含まれる場合は、米国議会における反対が高まる可能性もある。(ちなみに、7月25日、下院議員22名が連名により、大統領への書簡を発出し、「もし協定が、ヘンリー・ハイド法が求める最低限の条件を満たさないのであれば、議会が本協定に承認を与えるか否かは、疑わしいものになるであろう。」とする警告を発している。)
一方、インド政府による承認がすんなり得られた背景として、インドの原子力プログラムが制約を受けることに対する懸念から、米国への譲歩に反対していたとされるカコドカール(Kakodkar)原子力委員会委員長(兼原子力省長官)他原子力省幹部が、今回の協定交渉団に参加したことがあげられる。
ヘンリー・ハイド法の規定により、大統領が議会による協定の承認を求めるにあたっては、「インドとIAEAが保障措置協定の署名に向け、全ての法的手続きを完了させること」、「原子力供給国グループ(NSG)がコンセンサスにより、ガイドライン対象品目のインドへの供給を認めることを決定すること」などの要件が満たされたことを認定することが必要とされており、今後、並行して進められるであろうこれらの動きについても注目されるところである。
注1)「キャンペーンモード」についての説明はなされていないが、民生用として区分された使用済燃料の再処理のキャンペーンの際にのみ、保障措置の適用を受けることを意味するものと思われる。
【解説:政策調査室 山村】