核不拡散ニュース No.0061 2007.07.20
<イラン動向:イランとIAEA、未解決な問題解決のための行動計画策定に着手>
ハイノネン事務次長(保障措置担当)率いるIAEA代表団は、11−12日とイランを訪問し、イランの原子力計画に関する「未解決な問題」(詳細は<核不拡散ニュースNo.0058>参照)の解決に向け、イランとの行動計画策定に着手し、その一部について合意した。今回、合意されたのは新査察官の指名及びアラクにある重水型研究炉(IR-40)への査察官の7月末までの立ち入りについてであり、ナタンズにある燃料濃縮工場(FEP)における保障措置の適用方法については8月初旬に最終的な詰めをすることになった。また、IAEA代表団は、イランの過去のプルトニウム実験に関する未解決の問題解決のための方法・形態についてもイラン側と合意した。8月初旬には、IAEAはこの問題解決を目的とする専門家会合をイランで開催する。加えて、IAEAは、イランの濃縮計画の規模及び内容に関する問題解決に向けて引き続きイランと協力していくこととなり、7月中に、IAEAとイランはこれらの問題について議論等を行うためウィーンで事務レベルの会合を行うという。
今回、一部についてIAEAがイラン側と合意したとされる、イランの核関連施設の査察・検証を含む行動計画の詳細は未だ明らかにされていない。イランは、アラクに建設中の重水型研究炉(IR-40)において、核物質受け入れの180日以上前の時点における設計情報検認を拒否するとの意向を示していたが、IAEAの説得に応じた模様で、IR-40の設計情報検認を含む査察が7月中にも行われることになった。イランはIR-40の使用目的を放射性同位体の製造、研究開発及びトレーニングと説明していたが、この研究炉の当初の設計情報によると、放射性同位体製造に必要なホットセルがなく、イランの説明と矛盾するという問題があった。しかしその後、イラン側からホットセルを伴う設計図の提供と説明があり、IAEAは7月の査察において過去の設計情報検認(2005年3月、2006年7月、8月、2007年1月)に加え、このIR-40の使用目的についてさらに詳細に検証すると思われる。ウラン濃縮活動に関しては、ナタンズの燃料濃縮工場(FEP)において、無通告査察と封じ込め/監視手段の組合せによる査察が行われることでIAEAとイランとの間で合意がされていたが、イランは遠隔監視装置の設置を拒否した経緯がある。今回の合意によって、遠隔監視を含めた形での封じ込め/監視手段が適用されることになるのか、注目される。
イラン側は今回のIAEAとの合意を安保理によるさらなる追加制裁に歯止めをかけるものと認識している。しかし、イランの核問題を協議する他の関係6カ国(英仏独露米中)にとっては、イランの核計画の不透明さを解決する上での実質的な進展を期待する措置である一方で、新たな追加制裁措置に着手する前の最後の警告的な位置付けにあるのも事実であろう。イランがIAEAと行動計画をまとめる期限は9月初旬とされるが、対イラン追加制裁決議(1747)の履行期限(5月24日)を大幅に経過した今、本計画に基づくイランの行動を待つ忍耐力がどれほど関係国に残されているかは疑問であり、今後の1−2ヶ月の動向が大いに注目される。
(情報ソース)
- IAEAホームページから2007年7月11日
- 2007年7月13日
- 2003年6月6日付のIAEA事務局長報告GOV/2003/40
- 2003年11月10日付のIAEA事務局長報告GOV/2003/75
- 2007年5月23日付のIAEA事務局長報告GOV/2007/22
<北朝鮮動向:IAEA査察チーム、5MW(e)黒鉛減速炉等核施設の停止を確認>
北朝鮮外務省スポークスマンは、韓国からの5万トンの重油提供の第1便の到着に伴い、7月14日、5つの核関連施設(5MW(e)黒鉛減速炉、核燃料加工工場、放射化学研究所(再処理施設)、50MW(e)黒鉛減速炉(建設中)と200MW(e)黒鉛減速炉(建設中))を停止したと発表した。翌15日、前日に北朝鮮入りしたIAEA査察チームは、同核関連施設の停止を確認したことを発表した。査察チームがこれらの5施設に封じ込め・監視装置を設置し、封印を施すのには、さらに数週間かかる見通しである。
今回の停止措置に際しての、「寧辺のIAEAの活動は「査察:inspection」ではなく「検証及び監視:verification and monitoring」に限られる」との北朝鮮外務省スポークスマンの発言からも明らかなように、IAEA査察チームの当初の活動は、核施設の停止・封印に対する検証・監視に留まる見込みである。今後、北朝鮮の核開発活動の実態解明のためにIAEAが大きな役割を果たすことができるかは、北朝鮮の核問題を協議する六者会合における政治的駆け引きに大きく委ねられることになる。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 濱田】
<北朝鮮動向:次の段階の措置に向けて六者の首席代表者会合を開催>
7月14日に北朝鮮が核施設停止という2月13日合意の初期段階の措置の履行に踏み切ったことで、六者は核問題解決に向けた次の段階の措置へと駒を進める。18日から開催された首席代表者会合では、次の段階の措置の進め方について検討が行われ、北朝鮮は、核計画についての申告と核施設の無能力化を実行する「用意がある」としながらも、関係国の見返り措置の確実な実施が条件になるとの考えを示し、より多くの見返りをより確実に得ようとする思惑を窺わせた。今回の首席代表者会合では、核計画の「完全な」申告及び核施設の「無能力化」といった定義に困難を要する問題は作業部会に託し、北朝鮮に対するインセンティブとあわせた大まかな日程を定めることに焦点が置かれた。今後、六者会合が北朝鮮の核問題解決に向け実質的な進展を図れるかどうか依然として予断を許さない。
(情報ソース)
- 日本経済新聞7月19日
既に核不拡散ニュースでお伝えしているように、米印原子力協力協定に関する交渉は7月に妥結したものの、共産党を中心とする左派政党の反対により、本協力の実現に向けた動きは3ヶ月以上にわたりストップしていた。連立与党と左派政党から構成される委員会は、ヘンリー・ハイド法が米印原子力協力協定に与える影響、インドの原子力部門の独立性の維持、同協定がインドの外交政策、安全保障に関する協力に与える影響等の課題を検討するために設置されたものであるが、これまでの5回の会合ではなんら進展は見られなかった。
これまで、次のステップであるIAEAとの保障措置協定の交渉に入ることに強く反対してきた共産党が突如、妥協に応じた理由は明らかにされていないが、左派政党が政権を握るウェストベンガル州のナンディグラム地方で起きた暴動に関して共産党の責任を問う声が強まっていることと関係があるとの報道がなされている。
もし報道が事実とすれば、左派勢力の基本的スタンスは変わっておらず、仮にIAEAとの間で保障措置協定がまとまったとしても、署名の段階で左派勢力を含む委員会の合意が得られず、再度デッドロックに陥ることも予想される。各種報道の中で、左派政党の関係者が、今回の妥協は、IAEAとの保障措置協定の交渉に入れない状況に立ち至った場合、インドの国家的威信が傷つくことに配慮したものであり、ヘンリー・ハイド法や米印原子力協力協定への反対という基本的なスタンスには変更がない旨、語っていることはこうした見方を裏打ちするものと解釈することができる。
インドとIAEAの保障措置協定の交渉の焦点は、インドが主張している、「インド特有の保障措置」(India-specific safeguards)のあり方、すなわち米印原子力協力協定で合意された核燃料の供給保証の要素をいかに保障措置協定に盛り込むかという点であろう。インドとIAEAの間では非公式な折衝は既に行われていると見られているが、交渉がどの程度の期間を要するかは不透明な状況にある。
【報告:政策調査室 濱田】