核不拡散ニュース No.0055 2007.06.08
<核燃料供給保証メカニズム構築に向けた米国議会の動向について>
核燃料供給保証に関しては、昨年9月に開催されたIAEA特別イベントで提示・紹介された提案や議論を受けて、IAEAでは6月理事会に供給保証の問題点や既存の提案を整理したオプションペーパーを提出する予定であり、これにより国際的な議論を喚起し、既存の提案については各提案国・者が各提案のブラッシュアップすることを期待しているようである。その上で、9月もしくは11月理事会(総会)で本格的な議論を行おうとしている。
ムカジー外相が語ったところによれば、IAEAとの交渉の結果は、同委員会に諮られることになる。尚、IAEAとの交渉は、11月19日の週の後半から開始される予定である。
このような中、米国議会では核燃料供給保証に係るいくつかの関連法案が関連委員会に提出され、その内、一部の法案については委員会で可決されるなど、注目すべき動きが伝えられており、その概要はについて報告する。
1.米国下院での動向
〇5月23日、米国下院外交委員会が、国際核燃料バンクの設立を支持する「2007年平和と核不拡散のための国際核燃料法案」(International Nuclear Fuel for Peace and Nonproliferation Act of 2007)を承認。
上記の法案は、2月にラントス同委員会委員長(民主党)を含む超党派の委員が提出した法案(通称:ラントス法案)の改定版である。当該改訂版は現時点では未入手であるが、ラントス法案は、米国の2008年度予算から国際核燃料バンクの設立のために5千万ドルを支出するというもので、その条件として、
1)IAEAが国際核燃料バンクの設立を支援する目的で合計1億ドル以上の誓約を得ていること
2)当該バンクが非核兵器国に設置されIAEAの監督下に置かれること
3)核燃料の受領国が
a)IAEA保障措置協定を遵守し追加議定書を発効させていること
b)過去に保障措置違反と判断されたことのある国の場合、当該国がその不遵守に関する事務局長の懸念を解消する措置をすでに採ったとIAEA理事会が判断していること
c)IAEA保障措置に従って燃料を使うことに合意すること
d)受領国がどのような規模でもウラン濃縮施設や使用済燃料再処理施設を運転していないことを大統領が上下院の外交委員会に証明することが求められている。
また、大統領には、法律制定後、180日以内に、上下院の外交委員会に対して、米国内に国際ウラン濃縮施設を設立することの実現可能性を含むIAEA等の多国間組織下で核燃料供給保証に関する国際的枠組みの設立を支援する米国の活動についてのレポートを提出することが求められている。
このラントス法案は、2006年9月のIAEA特別イベントで、米国の核不拡散関係シンクタンクの「核脅威イニシアティブ」(NTI)のナン元上院議員(民主党)が表明した「IAEAが管理する燃料(低濃縮ウラン)バンクの設立を支援するために5千万ドルの資金提供を行う用意がある、ただし、1)IAEAが(2006年9月から)2年以内にバンク設立のためのアクションを起こすこと、2)他の資金提供者が1億ドルもしくはそれ相当分の低濃縮ウランを提供すること、を条件とする」との提案と事実上、呼応するものとなっている。
「2007年平和と核不拡散のための国際核燃料法案」については今後、議会の審議状況を注視していく必要があるが、もし、国際核燃料バンク設立の為に米国が予算を拠出することになれば、NTI提案による核燃料バンクの設立が現実味を増すことになる。なお、NTIによればこの1億5千万ドルの根拠は、標準サイズの原子力発電所(100万キロkW級)1基の1炉心分の燃料、つまり50〜60トンの4.9%濃縮の六フッ化ウランと、輸送及び貯蔵のコストの相当額とのことである。
2.米国上院での動向
(1)3月22日、スミス上院議員(共和党)、ダービン上院議員(民主党)及びロット議員(共和党)等が、「2007年イラン拡散対抗法案」(IranCounter-ProliferationActof2007)を上院財政委員会に提出。
(2)4月18日、ルーガー上院議員(共和党)とバイ上院議員(民主党)が、上院外交委員会に「保障措置・原子力供給法案」(Nuclear Safeguards and Supply Act of 2007)を提出。
上記「イラン拡散対抗法案」は、イランへの対抗手段の一つとしての核燃料供給保証に関して、上記ラントス法案と「ほぼ」同様の提案を含んでいる。しかし、ラントス法案にある「核燃料バンクの非核兵器国への設置」は言及されていない。
一方、「保障措置・原子力供給法案」は、核燃料供給保証に関して、
1)大統領に対して、核兵器の拡散防止を順守するとともに、自ら濃縮プログラムの実施と再処理施設の保有を行わない(forgo)ことを選択した国等に核燃料の供給を行うために二国間及び多国間の核燃料供給保証メカニズムを設立する権限を賦与すること
2)大統領に対して、法律制定から180日以内に1978年米国核不拡散法(NNPA)が規定する国際核燃料機関(INFA:International NuclearFuel Authority)設立の実現可能性に関する報告書を議会に提出するよう求めている。また、IAEAに関しては、米国がIAEA内の核燃料バンク設立を支援し、IAEAが管理する核燃料バンクを支援するNTIの支援を讃えている。(この法案では、核燃料供給保証の他に、IAEAのサイバースドルフ保障措置分析所の改修・リプレイスのために米国が自発的貢献として2008年度予算から1千万ドルをIAEAに拠出すること、国務長官に対して、保障措置技術の研究開発の強化等の権限を賦与すること、も盛り込まれている)。
両法案は、現在、夫々の上院委員会に提出されたのみで、6/5現在、特段の動きはない。
上記のように米国議会では、現在、上下院ともに様々な形で、また党派を超えて核燃料供給保証メカニズムの構築の必要性が表明されている。特に上院に提出されている「保障措置・原子力供給法案」では、二国間または多国間での核燃料供給保証メカニズムと、NNPAに基づくINFAや核燃料供給バンクが視野に入れられており、この点において米国政府がこれまで行ってきた提案、構想等に沿ったものである。
また米国は、核燃料の受領国となる条件として、濃縮や再処理といった機微技術の放棄を強く求めており、昨年のIAEA特別イベントでも核不拡散条約(NPT)第4条の原子力平和利用の権利を主張している開発途上国とどう折り合いをつけるか(過度の条件を付すと受領国となることを希望する国がなくなる恐れがあり、結果として何のための供給保証メカニズムなのか、ということになりかねない)。更に、この問題は、1970年代後半に米国主導によって試みられた国際核燃料サイクル評価(INFCE)やその後の供給保証委員会(CAS)が実現に至らなかった理由の一つでもあり、その点、この問題を上手くハンドリングしなければ核燃料供給保証構想自体の構築が危ぶまれるところである。
今後、北朝鮮や、特にイランの核開発問題への解決に向けた動きと合わせて6月にIAEA事務局から出されるオプションペーパーの内容と、それを受けた関係国・機関の動き、また9月もしくは11月に本格的に行われるであろうIAEA理事会等での議論の行方が注目されるところである。
(情報ソース)
- 2007年平和と核不拡散のための国際核燃料法案(H.R.885IH:A bill to support the establishment of an international regime for the assured supply of nuclear fuel for peaceful means and to authorized voluntary contributions to the International Atomic Energy Agency to support the establishment of an international nuclear fuel bank)
- 2007年イラン拡散対抗法案(S.970:A bill to imposesanctions on Iran and on other countries for assisting Iran in developing a nuclear program,and for other purposes)
- 保障措置・原子力供給法案(S.1138:A bill to enhance nuclear safeguards and to provide assurances of nuclear fuel supply to countries that for go certain fuel cycle activities)
【解説:計画推進室 田崎】