核不拡散ニュース No.0053 2007.05.25
<IAEA、国連安保理にイランの核開発問題について報告書を提出>
5月23日、IAEAは国連安保理にイランの核開発状況に関する報告書を提出した。今年3月24日、国連安保理はイランに60日以内の濃縮・再処理・重水関連活動の停止を義務付ける決議を採択したが、イランはこれに応じる姿勢を示さず期限を迎えたためである。
科学・国際安全保障研究所(ISIS)のHPに掲載されている同報告書によれば、濃縮関連活動については、5月13日に164機の遠心分離機で構成されるカスケードが8基運転されており、他に2基のカスケードが試験中、更に3基のカスケードが製造中であるとされる。また、重水型研究炉(IR40)の建設及び重水製造プラントの運転も継続されているという。同報告書は、申告された核物質が転用されていないことは確認できているが、追加議定書の履行や透明性が確保されなければイランの原子力活動が平和目的であると断言できない、としている。
(情報ソース)
<GNEP閣僚級会合の開催>
GNEPと原子力の平和利用に関する関係国の閣僚級会合が、5/21にワシントンDCで開催され、ホスト国である米からサミュエル・ボドマンDOE長官、中国は馬凱・国家発展改革委員会主任、フランスはアラン・ビュガCEA長官、ロシアはニコライ・スパスキー・Rosatom副長官、日本からは高市科学技術担当相の5カ国の閣僚が参加し、IAEAからはオブザーバー参加した。
参加各国は、GNEP構想の意義を確認するとともに、原子力を希望する第3国へのインフラ整備、先進核燃料サイクルや保障措置技術の開発、核燃料供給構想などについて意見交換を行った。会談後の共同声明では、原子力発電の普及拡大を支援し、原子力による効果的な資源の活用及び廃棄物対策を考慮した最適な燃料サイクルの追求、また、核不拡散などを念頭に置いた使用済み燃料の再処理に関する先進技術の開発や実証を追求し、核不拡散問題への適合とともに最高レベルの安全、セキュリティー、保障措置に取り組むとした。さらに、先進的な高速炉の開発・実証・導入の重要性などでも共通認識を示し、協力の推進を確認した。
(情報ソース)
- 電気新聞5月23日
NY Times紙によれば、5月13日にIAEAがイランのナタンツの濃縮施設に対する短期通告査察(2時間前通告)を実施したことで、イランの濃縮活動の拡大が確認されとのことである。イランは、現在、164機の遠心分離機からなるカスケードを週に1基のペースで製造できる段階にあり、このままのペースでいけば6月までに遠心分離機3,000機を稼動し、毎年核爆弾1つを製造できるぐらいになるのではないかともいわれる。
また、今年末には8,000機の遠心分離機の製造に至っている可能性もあると指摘される。
イランの濃縮活動規模は、これまでの推移からすれば、大幅な進展を遂げていることは明らかである。イランが低濃縮ウラン製造に成功した昨年4月には、長期的に54,000機の遠心分離機を組み上げる計画が発表されたほか、2007年3月までに164機で構成されるカスケードを順次組み上げていき、全体で遠心分離機3,000機に増やす計画をIAEAに報告していたことが明らかになっている。同計画に従えば、月に200〜300機の遠心分離機の製造が必要となるが、2つめのカスケードを組んだのは昨年10月であり、その意味で計画は遅れ、現時点でも計画通り進んでいるとは言いがたい。しかし、2つめのカスケードを組むのに約半年費やしたのに比べ、僅か5ヶ月程度で6基のカスケードを組んだことを考えれば、急速なピッチで製造が進んでいるものと思われる。
最近まで、イランは遠心分離機の技術的困難に直面しつつあると報じられていた中で新たに確認された事実に、IAEAのエルバラダイ事務局長も、イランは濃縮製造のペースを上げ、産業レベルに向かいつつあると述べている。
今後、本年6月にドイツのハイリゲンダムで開催されるG8首脳会合でも追加制裁措置が検討される見通しであるが、これまで国際社会がイランに課した2つの制裁決議注1が必ずしも成果を挙げておらず、更なる制裁に疑問を持つ声もある。これまでもロシアは、イランに濃縮活動等の一時停止を要求することに意味があるのか疑問を呈している。
低濃縮ウランを兵器級に高めるには更なる濃縮を伴わなければならないが、2003年に北朝鮮がIAEA査察官を追放したように、イランもいずれ同様の行動に出る恐れがあるのではないかとの懸念もある。かねてからエルバラダイ事務局長は制裁を課すことでイランが濃縮活動を停止するとは考えておらず、イランの顔を立てるような解決策を模索すべきとの見解を示している。
イランの原子力施設に対する軍事力を行使するオプションについては、中露だけでなく英仏独も否定的で、米国政府内にも軍事攻撃は中東情勢の更なる不安定化をもたらす懸念があることから、イランの核兵器開発問題の解決策とは見られてない。
米英等は制裁を強化する旨表明しているが、今後、イランが濃縮技術を放棄する可能性は低く、更なる制裁決議が実効的な手段となるのかも不明であり、手詰まり感は否めない。
なお、5月初めにドイツ外相が、イランや北朝鮮の平和目的の濃縮活動はIAEA監視のもと第三国で実施すべきとの見解を示したが、平和利用の権利を盾に濃縮技術の開発をしてきたイランがこれに応じる可能性は低いであろう。
注1)制裁決議1737及び1747。
(参考)
【解説:政策調査室 大塚】