核不拡散ニュース No.0044 2007.02.28
<日本、ロシアへの濃縮委託を検討>
日本政府が、ロシアにウラン濃縮を委託する旨検討していると報じられている。ロシアの国営原子力独占企業体「アトムエネルゴプロム(アトムプロム)」を委託先とし、英仏に保管されている回収ウランを再濃縮する。将来的には、カザフスタン等で獲得した天然ウランの濃縮委託も視野に入れる。日本は2年前からロシアに打診し、ロシアも引き受ける意向で、既に両国間の基本的な調整は済んでいるといわれている。本件については米国も了承しているとされている。
しかし、濃縮委託の前提となる日露間の協定締結(ウランが軍事利用されないことを厳格に保証するもの)に向けた交渉で、既に難航しているとの情報もある。回収ウランの濃縮委託先については、経済産業省事務次官の記者会見において、「ロシアというのがあり得るのではないかという報道を見ました。ロシアも一つの選択肢の範囲だと思います」との回答がなされている。
(情報ソース)
- 読売新聞 平成19年2月21日
- 毎日新聞 平成19年2月22日
- 経済産業省HP
<イラン核問題、IAEAが国連安保理に報告書を提出>
2月22日、IAEAは、イランの核開発状況に関する報告書を国連安保理に提出した。昨年12月に採択された対イラン制裁決議案において、安保理や制裁委員会が指定する個人や団体の金融資産凍結のほか、60日以内にイランの決議内容不履行が判断される場合は更なる追加制裁を検討することが規定され、イランは2月21日までにウラン濃縮活動等の停止を求められていた。しかし、イランは要請に応じる姿勢を見せず、むしろ濃縮活動を拡大する姿勢を示していた。
今回、国連安保理に提出された報告書は、米国の科学・国際安全保障問題研究所(ISIS)のホームページに公開されており、以下の内容を含んでいる。
○濃縮関連活動
ナタンツの濃縮試験施設(PFEP)では、昨年11月2日から今年2月17日までの間、約66kgの六フッ化天然ウラン(UF6)が5%未満の低濃縮ウランに濃縮された(環境サンプルの結果、最大で4.2%の濃縮度があった)
今年1月のイランでの会合にて、イランは2月末までにナタンツの商業規模燃料濃縮工場(FEP)に導入されたカスケードにUF6を搬入し、18個のカスケード(約3,000基の遠心分離機)を導入して2007年5月までに段階的に稼動する計画をIAEAに通告した。
FEPやPFEPにおける必要な遠隔監視の導入要請をイランは拒否した。
○再処理関連活動
テヘラン研究炉(TRR)、モリブデン・ヨウ素・ゼノン放射性同位体製造施設(MIX施設)、重水研究炉(IR-40)、または他に申告のあった施設での継続的な再処理活動の兆候はない。
○重水関連計画
今年1月29日にIAEAは重水研究炉(IR-40)に対して設計情報検認(DIV)を実施し、建設の継続が発覚、重水製造工場の稼動継続も衛星写真により判明。
○濃縮関連活動
その他
IAEA査察官48人の受け入れ拒否
透明性の措置受け入れの拒否
上記の他、これまで指摘されてきた未解決の問題や懸念事項も含まれ、全体として、イランが核物質や核活動を平和目的に限定していると立証することは不可能で、イランがこうした問題を解決するには追加議定書の締結や必要な透明性の措置を実行することが不可欠との内容になっている。
なお、米軍によるイラン空爆計画の存在が複数報じられている。ナタンツ、イスファハン、アラク、ブシェールの核関連施設を攻撃対象とし、イランの核開発計画が確認された場合や、イラク駐留米軍への攻撃にイランの直接関与が発覚した場合には、空爆が実施されるとの見方がある。米国は対イラン攻撃の計画を否定している。
(情報ソース)
【報告:政策調査室】
<北朝鮮動向:北朝鮮のプルトニウム保有量に関するISISリポート>
米国のシンクタンク・科学・国際安全保障問題研究所(ISIS)が北朝鮮の核開発に関するリポートを発表した。リポートは、2007年2月現在で北朝鮮が保有するプルトニウムは約46−64kg、その内28−50kgが既に分離されたと想定され、核兵器1個に必要なプルトニウムを4-5kgと仮定すると、5-12個分の核兵器に相当すると報告している。また、リポートは、北朝鮮の核兵器開発能力についても言及しており、ノドン・ミサイルに搭載可能な初期段階の核弾頭を作る能力を北朝鮮が既に開発している可能性は高いが、まだ核弾頭の威力の信頼性は低いとの見解を示している。さらに、北朝鮮の核兵器備蓄構成を、プルトニウム5kgを用いた実験用核兵器、プルトニウム6-7kgを用いたミサイル搭載用の核弾頭、そしてプルトニウム5kgを用いたミサイル搭載不可能なより大きく重い核弾頭の3種類と仮定した上で、リポートは北朝鮮の核戦力が抑止力を重視したものである可能性を明記している。その戦略によると、北朝鮮は情勢が緊迫する状況で、謂わば、「威嚇射撃」的に、「抑止力」のデモンストレーションとして核実験を行う可能性が高いことを指摘している。
今回発表されたリポートは、2月1日に同研究所所長・デビッド・オルブライト他が訪朝し、同国の核開発担当ディレクター始め、政府当局者に行ったインタビューを反映させた内容となっており、前回の2006年6月発表の同研究所による北朝鮮のプルトニウム保有量見積もりを更新している。また、同年10月の北朝鮮の核実験を受けて、前回のリポートにはない北朝鮮の核戦力の評価も付加されている。参考までに、リポート内容の詳細については、添付のリポート概訳を参照のこと。
(情報ソース)
【報告:政策調査室】
<北朝鮮動向:北朝鮮のウラン濃縮に関するISISリポート>
米国のシンクタンク・科学・国際安全保障問題研究所(ISIS)は、2月23日、北朝鮮のウラン濃縮に関するリポートを発表した。
本リポートは、2002年11月にCIAが米国議会に提出した。北朝鮮のウラン濃縮活動に関するファクトシートに記載された。「北朝鮮が遠心分離濃縮施設の建設を開始したことを示す明らかな証拠があり、2005年頃までに稼動可能な本施設により、年間2個以上の核兵器製造が可能である。」との評価に疑問を投げかけるものである。ISISが2002-2006年に実施した、米国、韓国、中国、日本の政府関係者とのインタビューによれば、こうした大規模の濃縮施設建設の唯一の証拠としてあげられたのは、北朝鮮が、2000年代初めに、アルミニウムチューブ数千個をドイツとロシアから購入し、また、購入しようとした事実が発覚したことであるが、ISISによれば、アルミニウムチューブは国際市場で容易に調達できるものであり、北朝鮮がそれを購入しようとした事実だけで、遠心分離濃縮施設の存在、ステータス、建設スケジュールを示すものにはならず、よりセンシティブな構成品の購入やその他の具体的な情報がなければ、証拠として不十分であるとしている。
その後、当初の悲観的予測に関しては、米国政府内でも異論が出されるようになり、2004年11月4日のUSA Today紙において、米国の政府関係者は、「CIAは、濃縮施設が存在するか否かさえ、確かではないとしている。」と述べるに至ったとしている。北朝鮮の限られた能力からすれば、濃縮施設を建設する為には海外から多くの機微な品目を調達する必要があると考えられ、2007年1月の段階で、米国の政府関係者の一人は、ここ1-2年のうちに、そうした大規模な調達が行われた証拠はないと述べたとされている。
北朝鮮が購入したとされるアルミニウムチューブに関して、以下の可能性があげられている。
アルミニウムチューブを購入してはみたものの、北朝鮮には、濃縮施設を建設する能力はなく、現在、保管状態に置かれている。
北朝鮮が別の国の為にアルミニウムチューブを購入した。
濃縮活動の準備(あるいは実際の施設の建設が開始されたかもしれない。)は始まったものの、大規模施設の建設には至らなかった。また、2002年に、北朝鮮は、ウラン濃縮計画の存在を認めたとされるが、元米国政府関係者とのインタビューを引用し、巷間伝えられるほど、北朝鮮が同計画の存在を明確に認めたわけではないとしている。
最後に、同リポートは、北朝鮮による核廃棄が検証可能な形で進められる為には、ウラン濃縮計画についても解決がなされる必要があるとしながらも、欠陥があるCIAの評価をベースにして、今回の六者協議の合意、あるいは、今後、北朝鮮が実施する申告を評価すべきではないとしている。
(情報ソース)
SISが主張するように、2002年にCIAが発表した北朝鮮のウラン濃縮活動の評価が、アルミニウムチューブの存在を唯一の証拠としている点において問題が多いものであったことは恐らく正しい指摘であろう。ただし、アルミニウムチューブの購入の事実、パキスタンのカーン博士の核の闇ネットワークを通じた遠心分離機等の購入や技術指導の受け入れ、北朝鮮の高官がウラン濃縮計画を認めたと解釈される発言をしたことを勘案すると、北朝鮮に何らかのウラン濃縮計画が存在した、あるいは存在するのは確実である。それがどれくらいの規模、進捗状況にあるのかは不明であり、今回、発表されたISISのレポートでは大規模な濃縮施設の存在の可能性は低いとされているが、そうした施設の存在を全く排除できるわけではない。
今回の六者協議の合意に対する批判として、ウラン濃縮という、核兵器製造へのもう一つのパスに全く言及されていないことがあげられるが、合意を段階的に履行する過程において、ウラン濃縮活動の実態が明らかにされるとともに、ウラン濃縮関連施設(もし存在するとすれば)、関連活動を検証可能な形で完全に廃棄することを確保する枠組みの確立が不可欠である。
【報告:政策調査室 山村】
<IAEAのエルバラダイ事務局長が北朝鮮訪問を発表>
IAEAのエルバラダイ事務局長は、2月23日、国連の潘事務総長との会談の後の記者会見の中で、北朝鮮の招待を受け入れ、3月に同国を訪問すると発表した。同事務局長によれば、北朝鮮訪問の際には、六カ国協議の合意の履行等、相互の関心事項が議論の対象となる。
また、もし、北朝鮮がフルメンバーとしてIAEAに復帰するならば、核廃棄の検証の役割だけでなく、原子力技術や原子力安全の分野での支援も可能になる旨、述べた。
(情報ソース)
【報告:政策調査室】
<インドがイランへの原子力輸出を禁止>
インド政府は、2月20日、イランとの間で、同国の濃縮関連活動、再処理活動、重水関連活動及び核兵器の運搬システムの開発に寄与する、全ての品目、物質、装置、製品、技術の直接、間接を問わない輸出入を禁止する旨を、商業産業省の外国貿易局長名の通達により発表した。
(情報ソース)
本通達は、昨年12月23日に採択された、イランに対する国連安保理制裁決議1737号第3条(濃縮、再処理、重水関連活動及び核兵器の運搬システムの開発に寄与する、全ての品目、物質、装置、製品、技術のイランへの輸出の禁止)、第7条(これら品目等の輸入の禁止)をそのままインドの貿易政策として取り入れたものである。インドとイランのこれまでの伝統的な友好関係に鑑みれば、インドが国連安保理決議に則り、イランへの経済制裁に参加する方針を明確にしたことは、インドの核不拡散政策に対する国際社会の信頼度の確保という観点から重要である。特に、米印協力に関して昨年末に成立した、米国の国内法(「米印原子力平和協力法」)には、大統領がインドとの原子力協力を進めるにあたって議会に提出すべき情報の一つとして、インドが、イランの核計画の封じ込めなどの米国や国際社会の取組みに十分かつ積極的に参加する為にとった特別な措置の記述、評価が含まれていることもあり、今回の通達は、米国内にある、インドの核不拡散政策に対する懸念を和らげるものとなるであろう。
【報告:政策調査室 山村】
<インドとパキスタンが核兵器に関連する事故からのリスク低減に関する協定に署名>
2月21日、インドとパキスタンの間で、「核兵器に関連する事故からのリスクの低減に関する協定」が署名された。本協定は、ニューデリーにて、両国の外相の同席の下、外務省の幹部により署名され、同日、発効した。
(情報ソース)
本協定は、8条の条文から構成される非常に簡単な協定である。最も重要な点は、核兵器に関連する事故の場合に、相互に直ちに通報することを義務付けている点にあるが(第2条、ただし、事故による影響が自国内に限定される場合は対象外)、詳細かつ具体的な通知の手続きが定められているわけではなく、信頼醸成措置の一環として、核兵器関連の事故の場合の相互通知についての政治的意思を示したものとして位置づけるのが妥当であろう。
こうした事故に該当するケースとして、放射能によるリスクが生じた場合、両国による核戦争の勃発の可能性が生じた場合があげられており、両国は、事故による放射線の影響を最小限に留める為に直ちに必要な措置を講じることとされている。第3条では、両国は、自国のとった行動が、他方に誤解を与える可能性を少なくするよう、行動すべきこととされている。
また、本協定の履行にあたり、両国は、外交、軍事両面におけるホットライン等のコミュニケーション手段を活用することが求められている(第4条)。尚、本協定の有効期間は5年間であり、両国の合意により、5年ごとの延長が可能である。(第8条)
インド、パキスタン両国とも、原子力事故早期通報条約(1986年9月26日採択、1986年10月27日発効)に加盟することにより、平和利用の原子力施設で発生した事故につき、事故の影響を受ける国に対し、直接、あるいはIAEAを通じた通報が義務づけられている。
【報告:政策調査室 山村】
<中国が原子力軍民両用品・技術の輸出管理に関する条例を改正>
中国政府は、2007年1月26日、温家宝首相名にて、「中華人民共和国核両用品及関連技術輸出管理条例」(中華人民共和国国務院令第484号)を改正し、2月16日付けで、公布、施行した。
(情報ソース)
中国では、1998年に制定された、「中華人民共和国核両用品及関連技術輸出管理条例」(国務院令第245号)に則り、管理リスト(NSGガイドライン(INFCIRC/254/Part2に準拠)に列挙された原子力軍民両用品・技術について輸出管理がなされているが、今回の改正は、核テロリズムの脅威の現実化等を勘案し、輸出管理を更に強化することを目的とするものである。主要な改正点としては、
- 規制対象としてソフトウェアを追加
- 輸出管理の対象となる物品、技術の複製品に対する規制の導入、
- 商務部の下に、輸出管理に関する協議、評価、検証を担当する特別委員会の設置
- 税関に対して、疑わしい貨物の保留、検査を求める権限を商務部に付与
- 輸出を実施する組織に対し、輸出に関する内部マネジメントシステムの確立を義務づけ
- 管理リストに掲載されていない品目についても規制の対象とすることができるキャッチオール規制の導入
- 違反の際の処罰規定を具体化
等があげられる。
現在、英仏に保管されている我が国の電力会社の回収ウランは6,000〜7,000tに上るとされる。また、ロシアの濃縮役務能力については、アンガルスクに約1,000tSWU/年、エカテリンブルグに約7,000tSWU/年、ジェレノゴルスクに約3,000tSWU/年、セベルスクに約4,000tSWU/年と約15,000tSWU/年の濃縮規模があり、セベルスクでは再処理回収ウランの濃縮も実施されている注1。
一方、日本国内の濃縮設備規模は一時的に1,050tSWU/年となったが、現在の稼働状況はその半分以下にとどまっている(最終目標は1,500tSWU/年)。
カザフスタンとロシアは良好な関係にある。ロシアの国際核燃料センター構想へのカザフスタンの参加表明や、ロシア―カザフスタン間の原子力平和利用協定の締結など、両国は原子力協力を進めている。両国間の対立によって委託事業が阻害される可能性は恐らく少なく、両国だけで日本向けの燃料サイクルのうち転換から成型加工までの供給元になることは、輸送費等の観点からもメリットは大きいものであろう。
一方、報道でも指摘されているように、ロシアに濃縮委託した場合、安定的に燃料サイクルが機能するか疑問が残る。昨年、ロシアは、ウクライナとガス価格を巡る対立により、同国に天然ガス供給を一時停止した経緯がある。日本とは北方領土を巡る問題等が未解決のため、同問題の協議の行方次第では濃縮委託に悪影響を及ぼすことも考えられる。
濃縮委託の前提となる日露間の協定に向けては、ロシアのイラン核問題への対応も無関係ではない。日露間の協定締結には、米露間で原子力協定が締結されない限り難しいと見られている注2。米国は、ロシアのイラン核問題への対応を米露原子力協定への試金石と見ているところがあるからである。なお、ロシアへの濃縮委託と、ロシアが提案している国際核燃料サイクルセンターとの関係については不明である。
注1)原子力ポケットブック2006年版、電気新聞、199p
注2)読売新聞 平成19年2月21日
【解説:政策調査室 大塚】