核不拡散ニュース No.0041 2006.12.28
<イスラエル・オルメルト首相の核発言>
イスラエルのオルメルト首相は11日、ドイツのテレビでのインタビューで、「イランは公的にもイスラエルを地図から消すと脅している。核兵器を持ちたいと望むとき、米国、フランス、イスラエル、ロシアと同じレベルと言えるか?」と発言した。この発言を受け、14日に欧州連合(EU)は中東地域における非核地帯設置を求めた。NPT非加盟国のイスラエルは、核兵器の保有について肯定も否定もしない「あいまい政策」をとってきたため、翌日、同首相は「イスラエルは中東初の核保有国にならない」として、従来どおりの主張をして前言の撤回を図ったが、イスラエル国内からは無責任な発言だとして、辞任を求める声も上がっているとされる。
(情報ソース)
<国連安保理、対イラン制裁決議採択>
12月23日、国連安保理はイランに対し初の制裁決議を採択した。同決議は、10月24日に英仏独による原案が提示されて以来、5回の修正を経て、決議採択直前には非公式会合が開かれ、米欧露間で妥協がなされ、とりまとめられたものである。決議骨子は以下のとおり。
- 安保理は国連憲章7章第41条(非軍事的強制措置)の規定の発動により行動をとること
- イランに対しウラン濃縮や再処理の活動、重水関連計画の停止を義務付ける
- 国連全加盟国に対し、イラン向けの原子力やミサイル開発に用いられる物質や技術の禁輸を義務付ける
- イランに対し追加議定書の早期批准を求める
- 安保理や制裁委員会が指定する個人や団体(決議の付属書に記載された11団体と12人が対象)の金融資産を凍結する
- 60日以内のイランの決議内容の不履行が判断される場合は、更なる追加制裁を検討する
決議採択後、24日にイランのアフマディネジャド大統領は同決議を「紙きれ」と述べ、ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長は遠心分離機3,000基の設置を急ピッチで開始する旨主張、27日にはイラン国会にてモッタキ外相が遠心分離機3,000基の稼動用意ができていると発言した。
(情報ソース)
- 読売新聞 12月27日
- 朝日新聞 12月25日
- 産経新聞 12月25日
- 毎日新聞 12月25日
- 日経新聞 12月12日
安保理がイランに対し初の制裁決議を採択した意義は大きいが、内容そのものに対しては骨抜きだという見方が多い。10月14日に安保理が採択した対北朝鮮制裁決議と対イラン制裁決議の内容を比べると、類似してはいるが、対イラン決議には(添付1を参照)、
- 貨物検査の実施について盛り込まれていない、
- 加盟国による報告が60日以内となっている(対北朝鮮決議は30日以内)、
- 海外渡航については警戒する(対北朝鮮決議では禁止措置を講ずる)、
といった特徴がある。とくに、(2)、(3)は英仏独が提出した原案では対北朝鮮決議と同様の趣旨であったが修正を通じて緩和された。また、ミサイル開発で知られる「航空宇宙産業機構」やロシアが協力するブシェール原発が対象外となったことなど、全会一致の採択を目指したためロシアに譲歩し、実効性に欠ける決議と評されている。一方、ロシアは来年3月にブシェール原子力発電所に濃縮ウランを供給することでイランと合意していたが、イランが資材調達の履行などを先延ばしにしたため、ブシェール発電所建設を完成させるつもりがないのでは、との疑念から、ロシアは濃縮ウラン供給を延長する方向で検討中と報じられている注1。
イランがこれをどう判断するのかは見通しがつかないが、当初の予定通りにロシアからイランに濃縮ウランの供給が行われることを想定しつつ、制裁に賛同する有志連合国は足並みをそろえておかなければならないだろう。
なお、決議採択後のラリジャニ最高安全保障委員会事務局長の主張は、従来の強硬的な姿勢を改めて示したもので、今年3月に遠心分離機3,000基設置の計画が明らかになっているモッタキ外相の発言の真偽は不明だが、これまで公になった遠心分離機の製造・設置スケジュールを考慮すると、依然として製造に苦心していることが推測される注2。
注1)日経新聞 平成18年12月27日
【報告:政策調査室 大塚】
<政府内文書「核兵器の国産可能性について」>
12月25日、「核兵器の国産可能性について」と題する政府の内部文書が、24日に明らかになったという記事が掲載された。記事によれば、文書は10月の北朝鮮の地下核実験前の2006年9月20日付で作成されたという。文書の概要は、小型核弾頭の試作には期間として3〜5年、費用では2,000億〜3,000億円を要すること、黒鉛減速炉からの使用済燃料を再処理してプルトニウムを製造することが最も合理的であること、などが記載されている。
同文書の存在を示唆する内容は、10月23日の『NIKKEI EYEプロの視点』にも記載されているが、このときは北朝鮮の核実験後に纏められたものとして紹介されている。なお、25日午前中に、塩崎官房長官が同文書に関する報道に対し「政府として承知していない」と述べ、政府との関係を否定した。
(情報ソース)
- 産経新聞 平成18年12月25日
- 日経NET
【報告:政策調査室】
<北朝鮮動向:六者会合、核協議無しに閉会>
18日から北京にて開催された北朝鮮の核問題を協議する六者会合(韓国、北朝鮮、中国、日本、米国、ロシア)は、再開5日後にして、実質的な核協議を行えないまま閉会した。22日の最終日に出された議長声明では、2005年9月の共同声明に明記された平和的方法による朝鮮半島の非核化を含む目標を再確認し、その目標を速やかに段階的に実施するための措置を取ることでの合意が表明されたが、中国が提案したエネルギー・経済支援など5つの作業部会の設置案は盛り込まれず、また次回会合の日程も示されず、早期の再開を目指すとしながらも、具体的内容に欠けるものとなった。
実質的な進展が図られなかった背景として、米朝の六者会合の全体会合での主張と二国間協議などで提示された具体的措置の提案を次の通り整理する。まず、会合のトーンを最初に決定したのが18日に開かれた全体会合初日における米朝の基調演説であった。米国は、IAEA査察の受入れ、寧辺(ニョンビョン)にある核関連施設の稼動停止を北朝鮮に求め、核放棄に向けた具体的な措置を取ることを要求した。これに対し北朝鮮は、核保有国であるという事実に他国の認知は必要ないとの立場を示した上で、「あらゆる制裁」(米国による金融制裁、安保理決議に基づく措置を含む)の解除が核放棄に向けた議論開始の前提条件であるとし、さらに、米国の敵視政策の撤回、軽水炉の提供、そして軽水炉完成までのエネルギー供与を核開発計画放棄の条件として挙げた。米朝の見解の隔たりを浮き彫りにした形での六者会合の再開となった。
全体会合と並行して行われた米朝二国間協議では、より具体的な措置が提案されたと報道されている。米国は、北朝鮮の核放棄に向けたプロセスを凍結、申告、検証、廃棄の4段階に分け、それぞれに対する米国側の対応措置を説明した。具体的には、凍結に対しては北朝鮮の国家体制に対する書面による安全の保証や朝鮮戦争の終戦協定への署名、申告に対しては経済的支援や人道的支援の提供などが提案された模様。それに対し、北朝鮮は、自らも非核化の意思があると主張した上で、「保有している核兵器を除く他の核計画を放棄する用意がある」と言明し、金融制裁解除という前提条件付で5,000キロワットの黒鉛減速炉の稼動停止やIAEAの査察受入れなどの議論に応じる考えを示した。米朝二国間協議での双方の提案に加えて、米国が金融制裁を解除すれば寧辺の核施設を廃棄してもいいと北朝鮮が発言したことを、訪中している河野洋平衆議院議長との会談で唐国務委員が明らかにしたと報道されている。
結果として、金融制裁と核問題を切り離し、核放棄に向けた具体的な措置を取るよう北朝鮮に求める米国と、米国の制裁解除が核問題の議論開始の前提条件だとの主張に固執する北朝鮮との間で、核問題協議に向けた進展は見られなかった。
(情報ソース)
- 聯合ニュース(電子版)12月20日、日本経済新聞 10月27日、12月19日、26日
今回の六者会合が不成功に終わることは、再開前から予想された懸念であった。しかし、これまでは北朝鮮の「行動」に対して米国の「見返り」を求めるという北朝鮮の主張が、今会合では米国の「行動」に対して北朝鮮が「見返り」を与えるというように、米朝の立場が逆転した形で主張されたことが注目される。これまでの六者会合では、まず北朝鮮が核施設の凍結を提案し、それに対しての「見返り」を要求するという構図があり、それに対して米国は「完全で検証可能かつ不可逆的な形での核の放棄」を主張し段階的な「見返り」の提供は拒否するというのが通例であった。しかし、今回は、まず北朝鮮が米国に金融制裁の解除を要求し、それに対して核施設の凍結で応えると主張しており、片や米国は、これまで拒否してきた段階的な見返り提供の用意があることを示唆している。核施設の凍結にも事前条件が付加されたという点で、状況が後退したかのような印象を受けた六者会合となった。
北朝鮮が今回、六者会合への復帰を表明した背景には、金融制裁をめぐって米国との直接対話を実現し、さらに六者会合に復帰する意思を表明することで中国を宥め、又韓国にも支援再開を促すことが目的であるという見解が専門家の間で優勢である。中国が問題解決よりも協議の続行により多くの重点を置いていることを北朝鮮は理解しており、六者会合への復帰を表明し、話し合い継続に対するコミットメントさえ示せば、中国の締め付けを回避できると考えているとの指摘もある。実際に、10月9日の北朝鮮の核実験強行以後、中朝国境付近の都市、丹東に支店を置く殆どの中国主要銀行は北朝鮮への送金業務を停止したが、北朝鮮が六者会合への復帰を表明した10月31日以後、大手銀行の一つ、中国建設銀行は(送金者が)企業に限った北朝鮮への送金業務を再開したという経緯もある。今後、北朝鮮が挑発行動を取らずに、六者会合へのコミットメントを示し続ける限り、中国や韓国が制裁措置を巡って米国と完全に歩調をあわせる見込みは低いと思われ、その一方で、米国は「交渉による解決の扉は開いている」としながらも、交渉路線に意味があるとは考えておらず、一層の北朝鮮締め上げを図るであろうと、中国・東アジア問題の専門家、Alan D. Rombergは解説する注1。
北朝鮮はこうした状況をよく理解していると思われ、今回の姿勢からも、まともに交渉に応じることにさほど利益を見出していないと思われる。北朝鮮が、金融制裁の解除か、あるいは制裁を巡る対応から米国の真意を探ることのどちらに重点を置いているかは不透明だが、いずれにせよ、北朝鮮の核問題の展望は開けておらず、行き詰まり状態は今後もしばらく継続されそうである。
【報告:政策調査室 濱田】
<米印原子力平和協力法」がブッシュ大統領の署名により発効>
「米印原子力平和協力法」がブッシュ大統領の署名により発効
(注1)Mandatoryではないことを意味するものと解釈される。
「米印原子力平和協力法」の概要、大統領の声明、日本の対応に対する解説は添付2を参照。
(情報ソース)
- ホワイトハウスによるプレスリリースhttp://www.whitehouse.gov/news/releases/2006/12/20061218-1.html
- ホワイトハウスによるプレスリリースhttp://www.whitehouse.gov/news/releases/2006/12/20061218-12.html
1948年に建国したイスラエルは、アラブ諸国との敵対関係から、核抑止力が必要との認識のもと、米国に核の傘を提供してくれるよう要求したが、米国は全アラブ諸国を敵に回すことを恐れ、これを断り、イスラエルは1950年代半ばから核武装計画を志すようになった。1957年にはフランスとの間に原子力協定を結び、協力を得てディモナに原子炉と再処理を建設、66年にプルトニウム生産を開始、68年には核弾頭4−5発分を保有していたとされる。現在、専門家によれば200発近くの核弾頭を保有していると言われる。
【報告:政策調査室】