核不拡散ニュース No.0039 2006.12.01
<イランとIAEA>
IAEAは11月23日に開かれた定例理事会において、イランから要請のあったアラクに建設中の重水型研究炉(IR-40)の安全面での技術支援の承認には至らなかった。IAEAが加盟国の技術支援要請に応じない初めての事例となった。イランの支援要請は、07年から2年間に実施する約830件の技術支援事業からは除外されたが、2年後にイランが再度支援要請する権利は残されている。
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<中印間の原子力協力について>
中国の胡錦濤主席は、11月20-23日、インドを公式訪問し、シン首相他、インド政府首脳と会談を行ったが、21日に発表された共同声明の中で、首脳級協議の定期開催や、貿易、投資の促進などとともに、「両国それぞれの国際約束に従い、原子力分野で協力を促進することに合意」した。また、共同声明の中では、国際的な核不拡散の原則の有効性を守りつつ、民生原子力分野の国際協力を進めるべきとされている。
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今回の合意は、両国が今後、民生原子力分野での協力を進めていく意図を表明したものであり、具体的な協力の内容は、今後、原子力協力協定の交渉の中で議論されるものと考えられる。
一方、インドにとっては、12月に予定される、米国議会の両院協議会での米印協力関連法案の文言の調整の過程で、昨年7月の米印首脳による合意の内容を超えた条件が付けられることへの懸念があり、今回の中国との合意は、米国議会の動きに対する牽制との見方もできる。
既に、英仏露の3国は米印合意に賛成の立場を明確にしており、中国も今後、賛成に回ることが予想される。インドとの原子力協力を進めるためには、原子力関連輸出の要件としてNSGガイドラインに規定されている、受領国による包括的保障措置の受け入れに関し、インドを例外扱いにすることを認める決定がNSG参加国のコンセンサスによりなされる必要があるが、中印間の原子力合意は、これまでNSGの場で懸念を表明してきた国、態度を留保してきた国に対し、従来の立場を変える圧力として働くことが考えられる。
【報告:政策調査室 山村】
<豪州首相の諮問機関が原子力発電導入を勧告>
豪州ハワード首相が2006年6月に設置したタスクフォース、「the Uranium Mining, Processing and Nuclear Energy Review(UMPNER) Taskforce」(Chairmanは豪州の通信会社テルストラの前CEOスウィトコウスキー氏)が原子力に関する報告書の草案を作成した。タスクフォースは、豪州におけるウラン探鉱、加工による付加価値、原子力エネルギーの貢献度合い等について、長期的な視点で検討することを任務としている。
草案の主な内容は、以下のとおり。
- 豪州国内の全ウランを転換、濃縮、燃料製造すれば更に年間18億ドルの収入が見込まれるが、商業上・技術上の壁があり、市場参入は困難だろう。
- 原子力は火力発電に比べ20〜50%割高で初期の原子炉には政府の援助を必要とする可能性がある。
- 原子力導入まで最短でも10年だが、可能性が高いのは15年後。熟練スタッフの組織によってサポートされる国の規制当局を創設する必要がある。
- 2020年に原子力エネルギーの供給が始まれば、2050年には国内電力の3分の1以上を生産する25基の原子炉が稼動する可能性があるとのシナリオもある。
- 安全性については、将来、技術革新が見込まれる。
- 原子力を導入することで、2050年には国内の二酸化炭素排出量の8〜18%が低減される。
- 豪州には高レベル放射性廃棄物を貯蔵するのに適した土地がある。ただし、原子力が導入されても2050年ごろまで必要ない。
- 豪州が核燃料サイクルへ関与を増大させたとしても核拡散リスクは変わらず、テロ攻撃にも脆弱とならない。
草案では、豪州は2050年には現在の2倍以上のエネルギー需要が見込まれ、既存電力施設の3分の2以上は更新、代替、容量の増加が必須で、容量の増加分は二酸化炭素を排出しない技術が必要だと説いている。また、原子力が他電源と比して相対的にコスト面で競争力があること、エネルギーセキュリティが確保されること、国内エネルギー源が多様化すること、二酸化炭素を排出しないこと、といった理由により多くの国が原子力を検討している、と述べている。
本草案は、市民社会において活発な議論をしてもらうために情報を提供することを目的とし、現在、来月12日まで一般からの意見を募集中である。最終報告書は年内に首相に提出される。豪州のハワード首相は、原子力導入に前向きと囁かれるが、今回の草案については賛否について明言せず、来年の次期総選挙までに意向を示さないことも示唆しているという。
(情報ソース)
【報告:政策調査室 大塚】
<中国とパキスタンが協力強化で合意>
11月24日、パキスタンを訪問中の中国の胡錦濤・国家主席が、ムシャラフッ大統領と会談し、経済協力拡大や軍事協力などで合意した。中国はこれまで、30万kWの原子力発電所2基をパキスタンに供与し、パキスタンも2030年までに国内原子力発電所の総設備容量を880万kWに拡大する計画があるため、パキスタンは6基の原子力発電所新規供与契約を期待していたが見送られた。現在中国が供与している2基のうち、建設中のチャシュマ原子力発電所の支援継続はなされた。
(情報ソース)
- 日経新聞、読売新聞、朝日新聞、産経新聞 いずれも平成18年11月25日
中国の胡錦濤主席は、パキスタンに訪問する前の11月20-23日に訪印し、両国は原子力分野で協力を促進することに合意したばかりである。このことから、中国がパキスタンとの原子力分野における協力で「支援継続」に留めたのは、米印を配慮したという見方が一般的である。南アジアを巡っては各国が激しい原子力商戦を繰り広げているが、印パ両国とも核兵器保有国であること、そして、各国の戦略的思惑が、同地域における核拡散を誘発する可能性が全くないわけではないことも忘れてはならない。
重水炉建設自体はNPT違反にはあたらないため、20日に始まったIAEA技術協力委員会では、イランの重水型研究炉建設に対する安全面での技術支援は「法律的には問題ない」と判断された。それに対し、「プルトニウムを生産しやすい重水炉は核兵器開発につながるリスクが高い」として米欧日などはイランに対する技術支援に強く反対していた。この問題では、イランの意図が核兵器開発にあるのか、それとも平和目的に限定したものなのか結論が出ていない状態の中で、核不拡散の担保と原子力の平和利用推進のための技術支援という表裏一体の役割を担うIAEAがどのようなバランスで判断するかが注目された。結果として、IAEAが支援要請に対しての判断を「未決定」とし事実上承認しなかったことは大きな意味を持つと言えそうである。この異例の措置によって、イランが核開発計画の不透明さを払拭しない限り、IAEAメンバー国としての権利に制限が課せられる可能性があることを実証した点において意義深いと思われる。
イランがIAEAメンバー国としての恩恵を享受するためには、まず、自国の原子力計画に関連する数多くの「未解決の問題(outstanding issues)」を解決することが求められている。イランは、サンプルで採取された低・高濃縮ウラン粒子の出所、P-1およびP-2遠心分離機取得に関する情報、過去に行ったプルトニウム抽出実験についての情報などの「未解決の問題」などについて、これまでは部分的な解答をするに留まっていたが、最近になってIAEAの査察の拡大を受け入れると打診してきたことが、エルバラダイ事務局長の23日の声明で明らかになった。声明によると、イランはIAEAに対して、信頼醸成措置として既にサンプルを採取されている装置からの新たな環境サンプル採取を認め、試験的燃料濃縮施設(ナタンズ)の運転記録を提示することに同意した。しかし、このようなイランの反応は制裁を回避するための揺さぶりに過ぎないとの見方があることも事実で、解決に向けた前進と判断するには時期尚早であろう。今後の進展を注意深く見ていく必要がある。
【報告:政策調査室 濱田】