核不拡散ニュース No.0029 2006.09.27
<IAEA特別イベント報告>
9月18日から22日のIAEA第50回総会のサイドイベントとして、19日〜21日の日程で「供給の保証と不拡散の担保(Assurances of Supply and Non-Proliferation)」と題する会合が、 オーストリアのウイーン (オーストリアセンター)で開催された。
今回の会合は、原油の高騰や地球温暖化などの理由による、原子力利用の見直しに伴う燃料需要の増大が機微な核技術の拡散に繋がるのでは、との懸念に対応する為の「供給保証」というアプローチについて検討し、当面の作業予定(ロードマップ)を作成するのが目的であった。
供給保証については、 会合前に、 幾つかの案が各国や団体から提案されていたが、 直前になり日本を含めて更に数件の提案が為されるなど、 各国の関心も高く300名を越える参加者をみた。
会議はエルバラダイIAEA事務局長によるスピーチに引き続き、キーノートスピーチが数件行われた。ロシアの核燃料センター構想、米国のGNEP構想などのスピーチに混ざって、IAEA50周年を記念してか、 Atoms for Peaceの提唱者でもある故アイゼンハワー大統領の孫娘による 「平和の為の原子力を再想像する(Re-envisioningAtoms for Peace)」とのスピーチも行われた。
その後、2日半にわたり、
- 核エネルギー保障の為の現行提案
- 供給保証の枠組み
- 結果、結論と今後の方向
という3つのセッションでパネラーによる説明と質疑応答が行われた。
議論の全体を記すのは別の場を借りることとするが、以下の主張が多くの参加者から為されたことを報告したい。
- 核燃料供給の現状は、非常に安定しており、市場は十分に信頼できる。
- 燃料銀行として蓄えるのに、核燃料集合体は不適。
- 供給保証と引き換えに、平和利用の権利を制限してはならない。
また、今回議論の本筋ではないが、
供給を保証して原子力を進めるだけではだめで、バックエンドも議論すべし。という意見もあったことも見逃せない。
議長総括(http://www.iaea.org 参照)にもあるように、今回は、これ、という具体的な結果や作業予定を出すことは出来なかった。しかし、会議自体は失敗ではなく、今後の議論に弾みをつける活気のある会合であった様に感じている。「核不拡散の担保」という部分の議論が相対的に少なかった事が、報告者の唯一の心残りである。
<解体核の最近の動向>
DOEのニュースリリースによると、 懸案となってきた賠償責任免除(米国の国際協力に関係する事業で、ロシア国内で事故・トラブルが発生した場合、ロシアが米国に対して行う賠償責任の免除)の規定に2006年9月15日サインされた。
これにより米露がそれぞれ34トンの核兵器解体プルトニウムを処分する計画(2000年協定)について、両国が計画を遂行する意志を継続していることを示すことになり、処分遂行に弾みがつくと報道されている。本件は、2005年に交渉は完了していたもののロシア側の国内手続きに時間を要していたものとされている。報道では続いて、解体プルトニウム処分を進める国家核安全保障庁(NNSA)の状況として、現在米国の解体プルトニウム処分のためのMOX燃料製造施設 (MFFF)の整地を終了しようとしており、本格建設開始のための予算措置を待っている状況に言及している。
(情報ソース)
賠償責任免除の問題はこの2年来、解体プルトニウム処分進展の障害となっていたもののひとつである。今回の合意は、ロシア解体プルトニウム処分にとっては、米国の支援を受けるための前提をクリアしたことで大きな意義がある。これによって現在米国が進めようとしているBN600のブランケット削除、 ハイブリッド化による先行処分に追い風になることが期待できる。
一方米国の解体プルトニウム処分については、ロシアが依然として解体プルトニウム処分を遂行する意志を明示したことにより、自国のプルトニウム処分を進める予算措置等の根拠を得ることになり、進展が予想される。
処分の次なる障害は、処分するプルトニウムが本当に核兵器からのプルトニウムかを検認(M&I)するシステムの構築であり、別途米露間で協議が進められている。また、最後の最大の障害は、解体プルトニウム処分費用の国際調達の問題で、処分シナリオの抜本的な見直し等が考えられている。
【解説:技術開発支援室 川太】
<インド・ブラジル・南アフリカ 3カ国共同宣言>
9月13日、ブラジリア(ブラジル)においてインド、ブラジル、南アフリカ共和国の三カ国首脳会議が開かれ、発展途上世界の代弁者として三カ国協力の強化を誓った共同声明が発出された。
三カ国は、声明を通して、世界の平和、安全保障、持続可能な開発、社会発展の推進の担い手として国連に主導的役割を求め、国連改革と多国主義の重要性を強調した。
また、貿易、IT、エネルギー分野において三カ国が協力することと、農業分野の貿易交渉で先進国に譲歩を求めるなど、発展途上国の利益擁護のために南南協力を推進することを誓った。
さらに、原子力協力に関しては、将来を視野に入れたアプローチを提唱することで、「適切な保障措置」を伴う原子力の民生利用における国際協力を推進することが可能だとして、間接的に対インド国際原子力協力を支持した。今回の三カ国首脳会談は、 新興市場の利益拡大を目的として インド、 ブラジル、 南アフリカ対話フォーラム(IBSA)が2003年に創設されて以来、初めての首脳会談となる。
(情報ソース)
原子力供給グループ(NSG)現議長国のブラジルと同じくNSGメンバー国で核資機材の主要な供給国として影響力を持つ南アフリカが、共に対インド原子力協力支持を表明したことは重要な意味を持つ。
NSGは、非核兵器国へ核関連資機材を移転する場合、 IAEA包括的保障措置協定の発効を移転の条件としており、対インド原子力協力の実現にはこの条件に例外を設けることでNSG全メンバー国から同意を得なければならない。
過去2回のNSG会合ではインド特例に対し賛否両論あり、時期尚早であるとして判断は見送られた。しかし、ブラジルと南アフリカが対インド原子力協力に対する支持を表明したことで、NSG内の動きにも少なからず影響を与えると思われる。
これらの三カ国は、いずれも独自にウラン濃縮活動に従事してきた経緯がある。インドは軍事用・民生用の両方にウラン濃縮を活用しており、南アフリカは核兵器開発を放棄する以前はウラン濃縮を軍事用に活用し、現在は民生用核利用の拡大を見越しウラン濃縮の実効性を検討中である。
ブラジルも、現在は外国に依存しているウラン濃縮を「自給」でまかなうことを目的として、2006年5月、国内の濃縮プラントの運転を開始した。したがって、ウラン濃縮の権利に対する差別や制限に対しては三カ国共に強く反発しており、権利擁護のためには一致団結することが予想される。燃料供給保証イニシアティブが議論される中、今後のインド・ブラジル・南アフリカ三カ国の動向が注目される。
【解説:政策調査室 濱田】
<我が国の輸送規制に対するIAEAの評価について>
IAEAは我が国の依頼を受けて、昨年12月、「輸送安全評価サービス (TranSAS:Transport Safety Appraisal Service)」を実施し、今月、評価結果を「放射性物質安全輸送に関する対日評価」として公表した。
TranSASは、 1998年のIAEA総会において、放射性物質輸送の安全性を確保するには加盟国がIAEA放射性物質安全輸送規則(TS-R-1)を遵守することが有効であるとの認識の下、加盟国の安全規制の実施状況を評価するプログラムとして創設が決議されたものである。
同規則に基づく各国の規制の実施状況を、IAEAが招聘した専門家が規制担当局との10日間にわたる質疑応答を経て評価し、必要に応じ勧告等を行うことにより、当該国における放射性物質の輸送安全の施策向上を支援することを目的としたものである。
今般の評価は、 我が国の規制当局が IAEAによる国際的な評価を受けた初めてのケースであり、関係省庁(経済産業省、文部科学省、国土交通省、厚生労働省、総務省、海上保安庁、警察庁、消防庁、原子力安全委員会)が主体となり、原子力緊急時支援・研修センター、原子力事業者及び輸送事業者が協力し、約1年間の準備期間を経て実施された。
報告書では、日本の輸送規制の枠組みは責任と権限に係る明確な方針があり、また輸送に係る法令がIAEAの技術要件に沿って執行されている旨が評価されている。一方、法令の数の低減、品質マネジメント、教育訓練、適合保証(当局が本規則の適合を保証する責任)に関しては改善の余地があるとの指摘もなされている。
指摘件数は、良好事項(good practice)14件、助言(suggestion)8件及び勧告(recommendation)2件である。勧告は、規制機関の組織について
- 品質マネジメントを必要に応じ改善すること
- 職員の訓練プログラムを確実に実施すること
の2点である。指摘事項数の比較で見ると、過去に評価を受け報告書が公表されている6カ国(英、仏等)の中で最も良い評価結果となっている。なお、報告書については、経済産業省のホームページにて公表されている。
(情報ソース)
【報告:核物質管理室 吉田】
<21世紀におけるグローバルな安全保障 テロリズムと危機管理シンポジウム概要報告>
9月15日に「21世紀におけるグローバルな安全保障 テロリズムと危機管理 9.11以降の世界の世界」 と題したシンポジウムが東京で開催された。その中で、 前ニューヨーク市長 ルドルフ・W・ジュリアーニ氏が特別講演を行ったので概要を以下に報告する。
<第三部 特別講演概要>
テロが始まったのは、2001年の9月11日と思っているかもしれないが、実際には60年代、70年代にすでに起こっていた。私は94年ニューヨーク市長に就任し、「緊急危機管理室」を立ち上げた。その際、自爆テロや生物化学兵器使用を含む、最悪の災害シナリオを想定し20〜30種類の非常事態計画を作成して備えていた。それが9.11テロの際役立ち、自然災害の対応と同じように災害場所からの避難、電源の確保及び災害時に緊急度に応じて治療を行うトリアージュ等を行って対応することができた。
今後、ビジネスの世界においても予算の無駄と言わず非常事態に備えておくべきことが大切である。テロと自然災害で異なるのは、予測の方法である。自然災害は科学的な方法を用いて予測可能だが、テロは情報機関によって予測するしかない。ビジネスの世界においても、有事の際ビジネスを継続するための計画を準備する必要がある。
情報の安全確保について、企業の機微情報など大切なものは、サイバースペースに保存されているため、情報の漏洩や悪用に対処できるよう対応する必要がある。どんな場合においても、あらゆる非常事態を想定し備えておくことは、決して無駄ではない。例え想定外のことが起こっても、備えていた対応策の組み合わせをして対応することができるので大変有効である。
【報告:政策調査室 栗林】