核不拡散ニュース No.0022 2006.07.21
<G8サミットでの不拡散に関する声明について>
7月15日-17日にロシアのサンクトペテルブルグで開催された先進国首脳会議(G8)の不拡散に関する共同声明、核テロ関連の声明等の概要は以下のとおり。
◆不拡散に関する共同声明の概要◆
(総論)
大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散は国際平和の安全に対する顕著な脅威と認識し、拡散に立ち向かう我々の努力の不可欠な要素として、軍備管理、軍縮及び不拡散の義務とコミットメントを果たす。核兵器不拡散条約等に未加入のすべての国に対し遅滞なくそれらに加入することを求める。
(NPT)
NPTの軍縮、不拡散、原子力の平和的利用の三本柱へのコミットメントを再確認し、IAEA追加議定書の普遍化の呼びかけ。
(原子力平和利用)
露の核燃料サイクルセンター構想、米国のGNEP構想、核燃料供給保証に関する6カ国提案を評価、シーアイランドサミットから続くウラン濃縮、再処理のモラトリアムの1年延長。
(インド)
不拡散体制を強化する形で、インドへの原子力協力に向けた更に前向きなアプローチを円滑にするためにも、インドが不拡散体制の強化に向けた更なるステップをとることを慫慂。
(イラン)
イランの核計画が進展したことによる拡散上の影響を引き続き深刻に懸念。包括提案にイランが前向きに対応するよう求める7月12日のパリにおける声明をG8も支持。
(北朝鮮)
全会一致で採択された国際社会全体の明確かつ力強い意志を示す国連安保理決議(1695)を歓迎。北朝鮮のミサイル発射は北朝鮮の核兵器計画に対する深い懸念を強める。北朝鮮にすべての核兵器及び既存の核計画を廃棄し、第4回六者会合共同声明に基づき、懸案事項の解決に協力することを求める。
(情報ソース)
- 外務省HP
◆G8における核テロ関連の声明等の概要◆
○G8議長総括
大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散は、国際的なテロと並んで、引き続き、国際の平和と安全に対する顕著な脅威である。したがって、国際社会は、この挑戦に大胆に立ち向かい、この脅威に対処するために断固として行動しなければならない。我々は、大量破壊兵器がテロリストの手中に落ちることを防ぐことを含め、大量破壊兵器の拡散と闘う上で、他の国々や機関と共に協力する決意とコミットメントを再確認。
我々は、核によるテロリズムと断固として組織的に戦うためのパートナーとしての能力を構築取組みを拡大、加速するために、他の志を同じくする国々及びIAEAと協働することへの期待を表明。
共通の目標を共有するすべての国は、自主的に、また各国内での措置についての独立した責任の上に、国際法及び国内法令に従って、この脅威との戦いにおける国際協力を増進する共同の取組みを強化するものと確信。
○世界のエネルギー安全保障の共同声明での言及
- エネルギー・インフラの保全における多くの課題に対処することについての検討及び勧告を行うために必要に応じて会合を開催し、次のことに関する包括的な報告書を本年末に議長国ロシアに提出するよう指示。
- エネルギー・インフラ施設の中で最も重要な脆弱性を決定し及び順位付けをし、また、脆弱性を評価し及び緩和するための方法論を共有すること。
- テロリストによる攻撃についての潜在的なリスクを評価すること。
- 我々の国内のすべてのエネルギー分野にわたる効果的な安全上の対応についてのベスト・プラクティスの概要を作成すること。
- 重要なエネルギー・インフラの物理的な保全のためのチェック・リストを作成し、実施し及び他の国に提供すること。
- 重要なインフラの防御を強化する技術のための研究開発に関する国際協力を奨励すること
- この分野における技術支援を調整するための担当連絡先を確定すること。
- 放射線源の輸出管理及びテロリストによる放射線源の入手を防ぐための新たなイニシアティブの導入を引き続き提唱すること。
(情報ソース)
- 外務省HP
議長総括には、今後の取組みに関する具体的な記述はないものの、米露で合意した「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」に含まれる以下の活動が、今後の検討の基調になると考えられる。
- 核物質を含む放射性物質の計量管理、防護措置の改善、及び原子力施設のセキュリティ改善
- 核物質等の不法移転又は他の不法な活動の探知と防止、特にテロリストによる取得と使用の防止措置。
- 核テロリズムに対する対応と発生後の緩和措置。
- 核テロリズムに対抗するための技術的手段の開発のための協力。
- 核物質の取得及び使用を追求するテロリストに安住の地を与えないための法的措置の整備。
- テロリスト及びテロ活動を助長する者を訴追し、確実に処罰を実施するための国内法の強化
- 核テロリズム防止条約、改正核物質防護条約、海洋航行不法行為防止条約、安保理決議1373及び1540の実施。
- 多国間共同訓練、専門家会合の実施及び支援の提供。
これに対し、、外務省も以下の報道官談話を出している(7/15)
・我が国としては、核テロ対策の強化に向けて国際社会が一致団結して取り組むとの姿勢を示す上で本イニシアティブを有意義なものと評価し、イニシアティブに如何に貢献できるかという観点から、今後積極的に議論に参加していく考え。
安保理決議1373 テロ行為への資金供与防止等に関する決議 (2001/09/28)
安保理決議1540 大量破壊兵器等の不拡散に関する決議 (2004/4/28)
【報告:政策調査室 栗林】
<米露、原子力協力を共同声明>
7月15日、サンクトペテルブルグでの米露首脳会談において、米国とロシアは原子力協力の交渉開始に向けた共同声明を発表。これは、ロシアがイランに原子力協力していることから原子力分野での協力を拒んでいた米国の政策転換を意味する。声明では、ロシアの濃縮を含む核燃料サイクルセンター構想(IAEA保障措置下)、米国のGNEPを含む国際的な核燃料供給体制の重要性について触れられた。米国籍の核燃料をロシアに移転することが合意されれば、ロシアが使用済燃料の貯蔵を請け負うことも可能になる。
(情報ソース)
- Los Angeles Times 7月9日、読売新聞 7月9・12日、ホワイトハウスHP
米国が他国と締結している原子力協定には、米国籍の核燃料の再移転には米国の同意が必要である旨定められている。米露間の本格的な交渉はこれからだが、ロシアの使用済燃料の国内貯蔵の実現は、イラン核開発問題、露の核燃料サイクルセンター構想、米国のGNEPにおいて大きな意義を持っている。米露原子力協定が合意されれば、米国は国外にある米国籍の使用済燃料のロシアへの再移転に同意した上でロシアに移送・中間貯蔵することが可能となる(米国としても、ユッカマウンテン処分場の打開策として、ロシアに貯蔵するオプションの道が拓ける)。
米露首脳会談では、米露原子力協力の交渉開始以外にも、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」も合意された。これらの動きは、米国が、国際的な燃料供給体制の展開、核テロ防止等を視野に入れて、ロシア国内をはじめとし核物質管理の強化に本格的に取り組む姿勢にあることを示すものである。(記:7/19)
【報告:政策調査室 大塚】
<ロシア解体プルトニウム処分に関して米露エネルギー長官が共同声明>
7月13日、ボドマン米DOE長官とキリエンコ露ROSATOM長官がロシア解体プルトニウム処分プログラムに関して共同声明を出した。これによると、両長官は両国の34トンの解体プルトニウム処分を定めた米露2000年協定遂行の再確認を行うとともに、原子炉による燃焼処分を優先することを確認した。
2000年協定遂行のための両国の決定に供する検討を行い、ロシア解体プルトニウムの具体的な処分方法としては、ロシアの高速炉BN600のハイブリッド炉心(部分MOX炉心)を用いた燃焼処分を先行処分 (early disposition) として2010-2012年に開始できるよう協力して行くことを明らかにした。同時に、解体プルトニウムが確かに処分されていることを検認する仕組みに対する合意を行う。なお、詳細な実施スケジュールやコストについては、専門家による検討を行って、本年12月25日までに両長官に報告される予定。
また、BN600ハイブリッド炉心のみでは処分能力が小さいために2000年協定の34トンには到達しないので、34トン全体をどう処分するかについても、専門家による検討を同時期までに進めることに合意がなされている。プレス発表の席では、処分に対する両国の意思が継続していることが強調され、両国で処分が前進することが期待されるとボドマンDOE長官から述べられた。声明ではロシアの先行処分が述べられているが、米国側では今秋からサバンナリバーサイトでMOX燃料製造施設の建設を始めることを計画している。本声明によって、ロシアは2000年協定の履行する意思を依然として有していることを示し、DOEはロシアの処分計画の残された技術課題を検討し、ロシアとともにこの重要な核不拡散プロジェクトを両国で推進することがブルックスDOE次官(国家核安全保障庁(NNSA)長官から述べられた。
(情報ソース)
- 7月13日 DOEプレスリリース
今回の声明は、ロシア解体プルトニウム処分に関して米露両国の担当官庁のトップから、このプロジェクトを推進すると発表されたものとしては異例である。また、本年2月ごろから、米露間で協議され、その方向性が合意されていた先行処分としてのBN600バイパック燃料オプション(バイパック燃料を用いたBN600ハイブリッド炉心による燃焼処分)が両国の具体的な目標として設定されたこともこれをロシアとの共同研究を通して協力を続けてきたJAEAとしては意義深いものである。ロシア解体プルトニウム処分プログラムとしては、これまで、ロシア軽水炉VVER1000による処分を中心に据えて検討されてきたが、これまでのところ、燃料製造施設の建設コストが高く、G8各国が支援表明してきた額では賄えないため、プログラムの成立が危ぶまれていた。G8諸国は、ロシアに対し応分の資金提供を含めた対応を求めていたが、ロシアは解体プルトニウム処分のための資金拠出はないとして処分計画の推進は難しい状態が続いている。ロシアは、自国の原子力開発に役立つもの(高速炉サイクル等)には自国の資金も含め協力する姿勢を示しているが、軽水炉でのプルサーマルに対してはG8がすべての資金を用意すべきとしている。米露間の協議では、軽水炉オプションは難しいと判断されるに至ったようである。
今回の米露の声明は、G8の枠ではなく、米露の2国間で、先行処分を進め、さらに全体処分についても検討しようとするものであり、これが今後G8の中でどのように扱われるかについては明らかではない。全体計画の検討が妥当なものであることが米露間で確認されてからG8の検討の場に示されることになると考えられる。一方、米国の国内事情からは、米露両国の解体プルトニウムを同様のペースで処分すべしという双務性の観点から、ロシアの処分開始が遅れると、現在、米国解体プルトニウム処分用に建設予定であるサバンナリバーのMOX工場にも影響が出ることが懸念されていた。さらに現在米国議会で2007年予算審議が行われているが、ここではロシアが自国の解体プルトニウム処分に消極的であり、処分の遂行に対し米国議会は強い不信感・苛立ちを有している状況であり、これに対する配慮もあるものと考えられる。
BN600バイパック燃料オプションについては、日本(JAEA)がこれまで、解体プルトニウム処分協力の現実的な処分方法として技術支援を行ってきたものであり、今回の米露の先行処分はこの方法を現実の処分方法として米国が支援するということになる。また34トン全体の処分に関してもロシアの協力が得られる方向で議論されていくことになると思われる。(記:7/19)
【報告:技術開発支援室 川太】
<北朝鮮2−安保理決議をめぐる動向−>
7月15日、国連安保理は、北朝鮮のミサイル発射(7月5日)を非難する安保理決議(1695)を全会一致で採択した。この決議は、
- 北朝鮮のミサイル発射の凍結を求め、
- 国連加盟国に北朝鮮のミサイル関連資機材・技術の移転を阻止するよう要求し、
- 北朝鮮の核問題を協議する六者会合への即時無条件復帰を北朝鮮に求めた。
15日の安保理決議1695が全会一致で採択されたことにより、国際社会が一丸となって、(1)北朝鮮のミサイル発射を非難し、(2)国連加盟国(北朝鮮を含む)が取るべき措置を示した、メッセージを北朝鮮に伝えたことに今回の決議の意味がある。特に、中国・ロシアが否決せず棄権もせずに決議が全会一致で採択されたことで、「北朝鮮は国際社会の中で孤立している。孤立から脱するためには北朝鮮が態度を改めなければならない」というメッセージを北朝鮮に送ったことは重要だ。
しかし、これまでの北朝鮮の行動を見る限り、北朝鮮は安保理決議に強く反発している。この決議採択は北朝鮮のミサイル発射凍結を保証するものではない。また、北朝鮮の核問題を協議する六者会合が再開され、核問題解決に向けて前進する見通しは立っていない。中国の北朝鮮説得に、六者会合枠組みを超えて国際社会から期待が注がれていたが、今次経過をみると、中国の影響力に限界があることも明らかとなっている。今後、北朝鮮の態度の変化を誘い、北朝鮮を国際社会との対話へとつなぐ橋渡しを、どの国が務めていくのか?引き続き中国が務めていく場合であっても、一定の冷却期間が必要かも知れない。何れにせよ対話による事態打開は当面期待できないとみられる。
では、何が変わるのか?一つ明らかなことは、国際社会が、北朝鮮へのミサイル関連資機材・技術の移転、そして北朝鮮のミサイル関連輸出(これに伴う北朝鮮へ資金移転)を阻止する意思を示したことである。北朝鮮は、これまで、パキスタン、イラン、エジプト、リビア、シリア、べトナムなどとミサイルおよびミサイル技術の取引があったとされるが、これを阻止することはできなかった。2002年12月には、北朝鮮からのスカッドミサイル15基をイエメンに向けて運搬中の船舶がアラビア海で拿捕されたにもかかわらず、そのミサイル輸出を禁止する国際法上の根拠がなかったため、アメリカ政府は北朝鮮ミサイルのイエメンへの引渡しを認めざるをえなかった。当時も現在も、北朝鮮は「ミサイル技術管理レジーム(MTCR)」の参加国でないため、北朝鮮と、同じくMTCR非参加国との間のミサイルおよびミサイル関連物資・技術の輸出入を阻止する手段は何もない。また、2003年に活動が始まった拡散に対する安全保障構想(PSI)も有志連合による活動であり、このような積荷を載せた船舶が国際法に違反していない限り、或いはこのような物資・技術の移転を阻止する国内法体制を有する国の領域内に入らない限り、取り締まることはできなかった。
しかし、今回の決議は、国連加盟国に北朝鮮のミサイル関連取引を「監視」し、それを発見した際には「阻止する」ことを「要求」しているという点で重要な意味を持つ。勿論、国連加盟国が「監視」「阻止」 については、各国の法令と国際法にしたがって対応することとされており、各国に求められるレベルについては議論の余地は残る。しかし、国連加盟国が、北朝鮮のミサイル関連の取引阻止に向けて、各国国内措置の強化および加盟国間の連携強化を図り、効果的対応を可能とする道を開くものである。つまり、今回の決議採択は、北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる行き詰まり状態を打破するものとはならない。但し、北朝鮮が国際社会との対話に戻らない限り、国連加盟国の側で対応強化が図られていけば、北朝鮮のミサイル開発の推進に影響を及ぼし、ミサイル輸出による外貨獲得を困難にし、ミサイルのみならず大量破壊兵器の開発を困難にするだろう。さらに、日本政府は外国為替および外国貿易法に基づいたミサイルおよび大量破壊兵器開発に対する金融的締め付けを検討しており、米国や欧州諸国との連携も模索している。このような措置を実現させることで、日本政府は国連安保理決議を実体のあるものとすることを通じ、北朝鮮政権に対する圧力を強めていくのであろう。(記:7/19)
NPT体制の維持が再確認されたこと、また核不拡散体制を強化する新たな原子力平和利用のイニシアティブ、すなわち、露の核燃料サイクルセンター構想(濃縮含む)、米国のGNEP、核燃料供給保証に関する6カ国提案を評価し、G8として更なる検討を進めるとした点は、ポイントと言える。
原油高、エネルギー安全保障、地球温暖化などを背景に、原子力エネルギーを見直す動きが大勢の中、如何に核不拡散を担保した上で平和利用を進めるかということが国際社会の課題になっているためと考えられる。
露の核燃料サイクルセンター構想については、15日の米露首脳会議で、米露が原子力協力について交渉の開始に合意したことは実現に向けてのステップになるものと考えられる。
核燃料供給保証については、核不拡散体制強化と平和利用推進に如何に資するかを見極めつつ、わが国としても議論に積極的に参画する方針。原子力機構としても、技術的な知見・経験にもとづき、日本としてどういった貢献ができるか検討をしており、検討結果をもとに政府を支援していく。
インドへの原子力協力の問題については、米印協力が前向きに動き始めていること、インドとIAEAの交渉が進んでいることが、ステートメントに盛り込まれた一つの要因と考えられる。原子力産業のグローバル化で我が国としても関係が出てくるところであり、国内において議論を積み重ねることが必要。
イラン、北朝鮮については、外交的な手段での早期解決を図る以外にない。
【報告:政策調査室 太田】