核不拡散ニュース No.0017 2006.06.15
<IAEA理事会が開幕>
6月12日、IAEA理事会が開幕した。エルバラダイ事務局長は冒頭演説で、北朝鮮やイランの核開発問題等に触れた。また、燃料供給保証についても言及し、多くの国や機関が燃料供給保証を支持していることや、2006〜2011年のIAEA中期戦略では供給保証、フロント及びバックエンドの核燃料サイクルの多国間管理構想への各国の関心を強調している、と述べた。同事務局長は、供給保証は政策、法制、技術、安全、セキュリティ、核拡散等が絡む複雑な問題であるが、事務局は課題や選択肢の特定・調査に取り組み、適切に理事会へ報告する旨発言した。
(情報ソース)
<イラン核問題への安保理の動きなど>
イランに対する制裁に関して、米国財務省は5月29日、イラン政府関係者・機関の海外口座・資金凍結を中心とした制裁案を作成し、イランと強い貿易関係にある日本、イタリアなど各国に検討を要請したが、制裁による石油価格高騰などを懸念し同意に至っていない。
一方、ロシアのナザロフ安保会議書記補佐官は5月26日、「平和的手段による解決」を優先するとしながら「対イラン国連制裁発動を支持する可能性は排除できない」とも述べたとされるが、イワノフ安保会議書記は5月28日、訪問中のイランで「強硬な措置は事態をより複雑にし、中東地域の緊張を高めるだけ」と述べている。
また、米国がイランと直接対話することに関して、ライス国務長官は多くの譲歩を迫られる恐れがあると難色を示していたとされるが、5月31日同長官は、イランが濃縮・再処理活動を検証可能な形で完全停止することを条件に、英仏独とともに米国が直接交渉に参加する用意があると発表。その旨を米国国連大使からイラン国連大使に直接伝えた。本件についてブッシュ大統領は「米国はこの問題の解決で指導的な役割を果たす」と述べ、外交解決には「団結した国際戦略が必要」と指摘。イランのマタキ外相は5月31日、ウラン濃縮活動は停止しないとし、米国の直接交渉提案を拒否する立場を表明。
平成18年6月1日、国連安保理の5常任理事国とドイツの外相会合で、イラン問題に関する包括的見返り案が合意された。米国政府高官は、イランが濃縮停止を拒否した場合国連安保理決議を求めることで中露も一致しているとしたが、制裁への道を開く国連憲章第7章の言及削除を要求していたロシアの外相は「合意はいかなる武力行使も排除したもの」と述べるとともに、イランのウラン濃縮をロシアで行う合弁事業が協議対象として残っていることも強調した。中露が「制裁への参加を見合わせても良いが、「ノー」とも言わない」との約束で妥協が図られたという。
一方、IAEAエルバラダイ事務局長は「米国を含めた協議再開に必要な条件を整えることを強く望む」とイランにウラン濃縮活動の停止を強く促した。アフマディネジャド大統領は、6月3日の演説やアナン国連事務総長との電話会談の中で、包括案を評価検討し時間をかけて最終決断するとしたが、ウラン濃縮は「絶対的権利で、妥協はしない」と停止の考えはないとした。また、イラン政府はこれまで核問題で「石油カード」は使用しない方針だったが、6月4日、イランの最高指導者ハメネイ師は「誤った動きをすればエネルギー輸送は深刻な危機に直面する」と、石油輸送の要所ホルムズ海峡を封鎖する可能性を示唆。
6月6日、EUのソラナ共通外交・安全保障上級代表が「包括見返り案」をイランに提示。提案そのものは公開されていないが、米国ABCテレビが入手した包括提案草案によると、濃縮活動停止の場合の「見返り」は、(1)軽水炉建設支援、(2)核燃料提供保証、5年分の燃料保管施設建設、(3)領土保全を含むペルシャ湾岸地域の安全保障確立支援、(4)欧米の民間航空機購入許可、など。さらに、安保理がIAEAとともに、イランの核開発が平和目的に限定されていると認定すれば、濃縮再開を将来容認することもありうるとされ、米国当局者は「イランが信頼を取り戻せば、いずれ濃縮を行える」とした。一方、拒否した場合の制裁は、(1)核開発関連組織・個人の海外資産凍結と金融取引禁止、(2)外交関係縮小・凍結、(4)政府高官らの渡航禁止など。なお、制裁が国連安保理決議に基づくものかどうかはあいまいにされている。
これに対して、6月7日、イランの核交渉責任者ラリジャニ国家安全保障最高会議書記は包括案を評価する一方、「曖昧な部分」があるとした。またイラン国営通信は「米国が敵視政策を見直した」と評価するとともに、包括案に米国による「安全保障」が含まれることに好意的な見方を示したが、「研究目的のウラン濃縮活動は停止できない」と従来の立場を強調。なお、テヘラン外交筋は、草案に「安全保障」が入っているとは思えないとの見解を示している。
(情報ソース)
- 産経新聞 平成18年5月27、28、30日、6月2、6、8日
- 日経新聞 5月27、31日、6月2、6、8日
- 読売新聞 5月27、29、31日、6月3、8日
- 毎日新聞 5月27、31日、6月1、7、8日
- 朝日新聞 6月1、5日
- BBCニュース 6月1日
仏英独との交渉が行き詰まる中で、イラン大統領が5月8日に米国ブッシュ大統領に書簡を送って直接交渉を呼びかけていたが、1980年以来イランと断交を続けてきた米国が直接交渉に参加する意向を示したことは大きな政策転換であり、今後進展が見られる可能性がある。特に、イランにとって米国による敵視政策が最も脅威であり、米国による安全保障の可能性が示されたことは、更に大きな転換と言える。ただし、「領土保全を含むペルシャ湾岸地域の安全保障の確立を支援する」の旨の表現は、イランが言うように曖昧であり、「米国による安全保障」を意味するか否かは不明である。
また、安保理が平和目的であることを認定すればイランの濃縮再開を容認する可能性があるとしたことも、これまで一切の濃縮を認めないとしてきた欧米にとって大きな譲歩である。これは、先日の「核不拡散科学技術国際フォーラム」でも、「客観的で公平な基準などにより国際的に信頼できると認められれば、新たに核燃料サイクル国になれる可能性を残すべき」旨の議論と共通する点があり、一切の可能性を否定するのではなく、国際的信頼醸成に積極的に取り組むインセンティブとしていくべきである。
ただし、この「安保理が認定すれば」という点も曲者であり、安保理で拒否権を有する米国の意向に大きく影響される可能性があり、その点をイランがどの様に評価するかがポイントになるものと思われる。
【報告:政策調査室 濱田】
<イラン、濃縮度10%以下の妥協案を提示>
イランのザリフ国連大使は5月26日、「各国と核施設を共有し、共同運営する構想を受け入れる用意がある」と述べたほか、ウラン濃縮の濃縮度を核兵器に転用できない10%以下に制限するとの妥協案を示したが、欧米諸国は国内での濃縮を認めない立場を維持した。
(情報ソース)
- 産経新聞 平成18年5月28日、6月2日、毎日新聞 5月27日
本年5月2日にイラン原子力庁アガサデ長官が4.8%の低濃縮ウラン製造成功を発表した際に、5%以上のウラン濃縮は計画していないと述べていた。しかし今回のザリフ国連大使の発言は、裏を返せば10%以上の濃縮もあり得るということであり、原子力庁長官の発言と矛盾している。同大使が自国の濃縮計画を十分に把握していなかったのか、又はそもそも「5%以上の濃縮の計画はない」という計画自体が存在しないのかは不明であるが、いずれにせよ国際的に大きな関心事となっている濃縮活動について、その様なあいまいなことを「計画」や「妥協案」として明言すること自体が問題である。国際的な信頼を得たいのであれば、少なくともきちんとした計画を示すべきである。
【報告:政策調査室 倉崎】
<イラン、核融合開発>
5月29日、イランの核技術者が核融合の研究に着手したと表明。水爆に応用できる技術だが内容は不明。テヘランのアザド大学が研究とされる。
(情報ソース)
- 平成18年5月30日 日経新聞、読売新聞
イランは、核融合研究を5年前から開始し先進国と競っていると主張したが、どのレベルまで研究が進んでいるのか不明である。一般に基礎レベルの研究段階だろうという見方が多い。問題視されているウラン濃縮活動をカモフラージュする発言とも考えられる。
(参考)
核融合研究施設としては、保障措置の適用対象にはならないが、JAEAの核融合研究施設(那珂市)では、核物質を保有しているため保障措置が適用されている。このため計量管理報告及び追加議定書に基づくサイト報告も義務付けられている。
【報告:政策調査室 大塚/核物質管理室 沼田】
<NSG総会:米印民生原子力協力承認見送り>
6月1、2日にブラジルで開かれた原子力供給国グループ(NSG)の年次総会は、今年3月に米国とインドが合意した米印原子力協定の承認につき、米英仏露などの推進派と、日本やスウェーデン、ニュージーランドなどの慎重派との溝が埋まらず、先送りした。
(情報ソース)
- 朝日新聞 平成18年6月3日、日経新聞 6月4日
米印民生原子力協力を実施に移す為には、原子力供給国グループ(NSG)の輸出管理ガイドラインにある様々な条件のうち、特に「受領国においてIAEAの包括的保障措置が適用されていること。」等をクリアする必要がある。ところが、米印協力では、民生用施設しか保障措置下に置かず、その保障措置の内容も具体的になっていないことから、それをクリアするのは難しいとして、米国は、本協力下での輸出を例外扱いするようガイドラインを修正することをNSGに求めている。
新聞報道では「米印原子力協定の承認」と書かれているが、NSGは輸出管理ガイドラインを定めるのであり、協定の承認を行なう組織ではない。そもそも米印原子力協定案自体が未だ存在していない段階であり、報道は不正確である。
米印協力については、米国議会にて議論が為されている段階であるが、NSGの様子見状態であり、一方のNSGも、今回合意が得られなかった背景として、米国議会の方向が定まっていないことから様子を見た、という感じもあり、互いにお見合い状態となっている。
大局的な見地から、米印協力が実質的な核不拡散に貢献する、として例外を認める向きもあるが、そもそもNSGがインドの1974年の「平和的核爆発」を契機に創設されたという歴史的経緯があり、核兵器開発や保有を阻止するための輸出管理ガイドラインであるという点を考えると、簡単に各国の合意が取れるものではないであろう。
【報告:政策調査室 栗林】
<kedo事業廃止、北朝鮮に融資返済要請へ>
北朝鮮の軽水炉建設を担っていたKEDOは5月31日の理事会で、軽水炉事業の廃止を正式に決め、今後、北朝鮮に対し、融資した事業費などの返済を求めていく。KEDOは94年の米朝枠組み合意を受けて、北朝鮮の軽水炉建設に取り組み、日本は国際協力銀行を通じて約4億ドルを融資した。KEDO事業の廃止は枠組み合意を破った北朝鮮の責任として、政府は、この融資分を中心に北朝鮮に返済を求める。ただ、北朝鮮は事業廃止の原因は米国にあるとして、米国に対して補償を要求しており返済に応じる可能性は極めて低い。
(情報ソース)
- 朝日新聞 平成18年6月1日 日経新聞 6月2日
KEDO理事会は北朝鮮に2基の100万kW軽水炉(原子力発電炉)を建設する計画を終了することを決定した。1994年の米朝合意に基づくプロジェクト(総費用46億ドルのうち既に15.6億ドル を支出)として1997年8月より発電所の建設が開始されたが、2002年10月の北朝鮮のウラン濃縮問題を契機として停滞をよぎなくされ、このほど最終的に断念となった。韓国は最大の投資国でもあり、また北朝鮮との友好関係を保つためにプロジェクト終了には反対したが、現在の中断状態を継続することは実質的に無理であり断念に合意したと思われる。日本政府がKEDOプロジェクトに既に拠出した4億ドルの回収は、今後の北朝鮮との交渉でもポイントの1つとなろう。
なお、現在進行中の北朝鮮に関する6者協議のなかでは、2005年9月の共同声明において、将来的には、再び北朝鮮に軽水炉原子力発電所を提供する可能性も残されている。
供給保証体制の構築は、エルバラダイ事務局長が『エコノミスト』誌(2003年10月18日)に寄稿した核燃料施設の多国間管理構想案の1つである。同案は4段階に分類され、供給保証体制はその第1段階にあたる。他にも、米国が国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)の中で供給保証体制の構築を提案し、世界原子力協会(WNA)も供給保証体制の枠組みについて検討している。
出来るだけ政治的に利用されない信頼ある供給保証体制の構築が重要であり、燃料受領国にとっても受け入れ易いものにする必要がある。本年9月19−20日に開催される供給保証と核不拡散に関するIAEAの特別イベントに日本も積極的に貢献していく必要がある。
【報告:政策調査室 大塚】