核不拡散ニュース No.0014 2006.04.28
<イランが低濃縮ウランの生産に成功>
2006年4月11日(火)、イランのアフマディネジャド大統領等は、ナタンツで3.5%の低濃縮ウランの生産に成功したと発表した。3.5%の濃縮ウランは、原子力発電には可能だが核兵器にはならない。欧米だけでなくロシアも国連安保理のイランへの施設閉鎖要求に逆行する行為として強く反発している。
また、164基の遠心分離機からなるカスケードを約330連ねる(全体で54,000基)計画があることが発表された。イランは来年3月までに遠心分離機を3,000基に増やすことをIAEAに報告している。
米国ライス国務長官は翌日12日、これに対して、この行動はイランの更なる国際社会からの孤立を導くものであり、国連安保理が強い対策を採るように要求した。ボルトン国連大使は、もしイランが3月28日に採択された安保理議長声明を無視するなら、国連憲章七章の決議によりイランに対して拘束力を持つ対応を考える姿勢を表した。ウラン濃縮は、核兵器製造にも使える技術であり、高濃縮ウランを製造し、核兵器保有を意図したものかが問題となる。
一方、4月13日にイランのアフマディネジャド大統領は、核兵器保有の意図はないとして開発を継続する姿勢を強調。また、イランのアガザデ原子力庁長官と最高安全保障委員会のラリジャニ事務局長はIAEAエルバラダイ事務局長の訪問を受け、ウラン濃縮停止などの信頼醸成措置をとるよう要請されたが、拒否する一方で、IAEAへの協力姿勢を強調した。
(情報ソース)
- The New York Times、April 12、 CNN、Reuter及び米国務省HP、4月12日、日経新聞、読売新聞、4月13日、14日
<イラン、ナタンツの濃縮とは別の濃縮計画疑惑が浮上>
2003年、イラン政府は改良型の高性能遠心分離機P2の開発を断念、闇市場からのP2入手疑惑を否定した。しかし、2006年4月12日、アフマディネジャド大統領はP2の研究を進めている旨発言したことで、イランが核の闇市場を通じてP2を入手し、P1型のナタンツの濃縮施設とは別の濃縮計画を進めているのではないかと懸念されている。P2型の遠心分離機は、P1型よりも4倍早く濃縮ウランを製造できるとされる。
21日にはIAEAのハイノネン事務次長率いる査察団がイランを訪問する。その目的は、イランが発表した改良型遠心分離機の研究をめぐる経緯や現状を検証し、核開発疑惑を解明することと見られている。(注:結局イラン訪問を見送り)
(情報ソース)
- New York Times電子版, April 17, 2006、産経新聞2006年4月18日、読売新聞及び日経新聞2006年4月19日
イランのウラン濃縮計画に関連する遠心分離機は2種類(P1型とP2型)あり、いずれもURENCO社の初期段階の設計のもの。P1型は、1987年に秘密ネットワークから設計図を入手し、2001年から建設が開始されたナタンツの小規模のパイロット燃料濃縮工場(PFEP)と大規模商業用の燃料濃縮工場(FEP)に使用されている。
4月11日に濃縮成功と発表されたのはこのPFEPに設置された164基の遠心分離機によるもの。一方、P2型に関しては、イランがこれまでIAEAに報告していた内容によると、1994年に設計図を入手したが、当時はP1型の開発が優先されたため、2002年初め〜2003年3月の間に民間企業に委託して少数の改良P2型回転胴(短くした回転胴)の製造、核物質を使わない試験のみ実施して終了。P2型遠心分離機の開発は2002年以前や2003年以降は実施していないとしていた。また、海外からP2型遠心分離機は入手しておらず、ベアリング、磁石など一部の部品を除いて国内で製造したとしている。しかし、今回の大統領発言が事実だとすると、IAEAに対してその事実を隠し、虚偽の報告をしていたことになる。
なお、P1型についても、2003年2月に初めて認めて以降、IAEAからの厳しい追及によって何度も報告内容を覆して修正したり、アクセス拒否や、設備分解による証拠隠滅を図ったりしていた事実がある。
【報告:政策調査室 倉崎】
<米は制裁案提起に露、中は慎重、21日にIAEAがイランを査察>
2006年4月18日(火)、イラン核問題をめぐって国連安保理常任理事国の五カ国とドイツを合わせた六カ国外務次官級協議がモスクワにて行われ、制裁を主張する米国と慎重な中露の対立が解けないまま閉幕した。EUのハビエル・ソラナ共通外交・安全保障上級代表は、制裁に消極的なロシア、中国に対して「説得を続ける」として交渉を進める考えを示した。武力行使については、「EUが参加することはありえない」と否定した。
ロシアはイランに対してブシャール原子力発電所を建設支援中、中国は石油の輸出入関係からも、制裁に踏み切れない立場があると言われている。アメリカの制裁には一歩距離を置くEUも政治的な圧力をかけることには賛成だが、武力行使については反対するという姿勢。このようにすでに安保理常任理事国の中で意見が一致していない状況において、今月末のエルバラダイ事務局長の報告を受けた、安保理常任理事国を含む国際社会が意見統一に向けて歩み寄ることができるかが課題だと言える。
日本のイランに対する2003年度の有償資金協力は18.08億円、技術協力は16.72億円行っている。また、2000年、2001年には日本とイランの二国間共同声明において、イランのアザデガン油田などにおける二国間での協力について表明した。2002年12月の地震時にも緊急無償の供与などを行っている。これらを踏まえて日本がイランに対して国際社会との関係の中でどういう対応をとっていくか今後注目される。
(情報ソース)
- 日経新聞、読売新聞、朝日新聞、Japan Times、毎日新聞、2006年4月20日付
【報告:核不拡散科学技術センター兼務 小鍛冶】
<サウジアラビアも原子力開発計画を検討か>
クウェートの研究者Abdullah al-Nufaisi氏は、サウジアラビアが原子力計画を準備している、と中東のメディアに語った。情報筋によれば、サウジアラビアの科学者が政府に原子力計画の立ち上げを要請し、政府高官は論議しているという。同計画ではパキスタン及びその他サウジアラビアの同盟国から援助を受けるだろうとも伝えられる。
(情報ソース)
- United Press International, April 9
この計画が平和利用目的の原子力開発なのか、核兵器開発を意図したものなのか詳細は定かでないが、サウジアラビアはイランに次ぐ世界2位の石油確認埋蔵量を誇るだけに、仮に平和利用を目的とした計画だとしても説得力に欠ける感がある。
サウジアラビアなどスンニ派アラブ諸国は、強硬右派のシーア派政権であるイランが3月31日に海上軍事演習で新型兵器を実験していることなどに対して警戒を強めている。サウジアラビアの原子力計画に影響している可能性もある。サウジアラビアの動向にも注視する必要がある。
【報告:政策調査室 大塚】
<ロシアが大量破壊兵器拡散(WMD)企業をリストアップ>
ロシアは、WMDの拡散に関与の疑いがある企業を初めてリストアップした。51カ国1,125の組織がリストに掲載されている。今年7月の主要国首脳会議(G8)で報告、公表する予定となっている。
(情報ソース)
- 毎日新聞、4月13日
ロシアが初めてWMDの拡散関与疑惑のある企業をリストアップした点で注目される。詳細は不明だが、欧米諸国によるリストアップだけでなく、ロシアが行うことでより包括的な企業への取り締まりも期待できる。現在、原子力供給国グループ(NSG)ガイドラインの強化に向けて、「1カ国以上の国によって輸出拒否の通報がなされた企業を持つ国に対して濃縮・再処理施設・機器・技術を輸出しようとする場合は、全加盟国に協議する」旨の規定を盛り込むことが検討されているが、これに対して、ロシアは、問題なのは国ではなく企業であること、ある国の主体的な判断で拒否した事実を他国に強要するのは問題であるとして、強く修正を求めていた。
今回、51カ国にも及ぶ要注意企業をリストアップしていることから考えると、ほとんどの国への輸出に関して協議する必要が生じるおそれがあることから、ロシアの上記言い分はよく理解できる。現在、より現実的な修文が協議されているが、今回のようなロシアの貢献も含め、今後、より効果的で効率的な輸出管理が実施されることを期待する。
IAEA事務局長は、ウラン濃縮を含む核関連活動の停止を求めた3月29日の国連安全保障理事会議長声明に基づき、4月28日までに安保理にイランの核活動に関し報告する義務がある。今回のイランの発表は議長声明が出されてから2週間も経たないうちに出された。ボルトン国連大使が言及した国連憲章7章における決定には拘束力を持たせることが可能。具体的には憲章39条において安保理で平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為が存在するか否かを決定した後、41条において、非軍事的な強制措置について、42条においては武力による強制措置について規定されている。中露は制裁措置には慎重だが、4月28日のIAEAからの報告を踏まえて、安保理がどう判断するかが焦点となる。
今回イランが低濃縮ウランの製造に使用した遠心分離機は、URENCOの初期型でパキスタンより技術を導入したものである(P1型)。164基の遠心分離機を連結からなるカスケードの能力については、90%以上の高濃縮ウランを25kg(核爆弾一つを生産するのに大体必要とされるウランの量)生産するには16年程度かかる。これが3,000基になると、約1ヶ月でこの量の生産が可能で、54,000基になると約20日で可能になる。イランの遠心分離機の製造能力について、2007年までに3,000台に増やすことが可能であると推測すると、月200〜300台の製造能力があると考えられる。
イランは、54,000基の遠心分離器によって、ブシェールで建設している100万キロワット出力の原発に必要な核燃料の供給が可能としている。
【報告:核不拡散科学技術センター 堀、小鍛冶】