核不拡散ニュース No.0011 2006.03.09
<イランの核開発問題、安保理付託へ>
イランの核開発問題が国連安保理に付託されることが決定的となった。これまでロシアの提案に対し、イランは濃縮作業の場所や短期間とすることに抵抗し合意に至らなかった。3月6日に開催されたIAEA定例理事会では、研究開発目的の小規模な濃縮活動を認める代わりに商業規模の濃縮活動の長期凍結、IAEAの査察への協力を求める構想も浮上した。エルバラダイ事務局長やロシアはこの妥協案を支持しているが、欧米は小規模であっても核兵器製造の技術をイランが獲得することにつながると強く反発した。妥協案の可能性も消え、安保理付託は避けられない状況となった。
(情報ソース)
- 産経新聞3月2日、読売新聞3月7、9日
<米印の民生原子力協力が合意>
3月2日、訪印したブッシュ大統領はシン大統領と会談し、米印原子力協力に合意した。原子力施設の軍民分離問題では、22ヵ所の施設中14ヵ所を民生用に分類し、2014年までにIAEAの査察を適用することで合意した。また、今後建設される民生用原子力施設や高速増殖炉の全てに適用することが合意に盛り込まれた。
IAEAエルバラダイ事務局長は、インドが核不拡散レジームに加わることに期待を示し歓迎の意を表した。一方、インドからウラン供給を要請されたオーストラリアは米印協力を歓迎するものの、NPTに加盟しないインドにウランを輸出しない従来の方針を維持する旨表明した。
(情報ソース)
- AP, March 2, 2006, Reuters, March 2, 2006, 読売新聞並びに日経新聞、3月3日
民生用と申告される施設には永続的に保障措置が適用されることが合意されたようであり、その面ではインドの原子力活動の透明性は高まると言える。ただし、どの様な保障措置が適用されるかが重要だが、インドは、核兵器保有を前提として非核兵器国とは異なる形態を要求している様子。また、高速増殖炉の軍民分離に関して、米国は、今後建設されるもの全てが民生用に分類され保障措置が適用される(既存の高速増殖原型炉には適用されない)と認識しているが、インド側の認識は軍民どちらに分類するかは独自に決定するとしている。
具体的な施設の軍民分類は明らかになっていないが、従来からインドは核兵器計画に影響を及ぼさない施設を民生用に分離すると述べており、既存の重水炉、高速増殖原型炉(確定)、再処理施設などは軍事施設として残ると考えられ、今後も自国の天然ウランや既に貯蔵されている使用済燃料を基に核兵器用プルトニウムの製造を続けることができる。また、より多くの施設が民生用に分類されれば良いというものでもなく、民生用施設の燃料は海外から調達できるようになることから、それが多い程、これまでそれに充てていた自国天然ウランを核兵器製造用に利用することができることになる。そのため、米国内でも、兵器用核分裂性物質製造に制限をかけるべきとの議論も強く、今回の軍民分離によって米印協力が実現に向かうかは不明である。
さらに、原子力供給国グループ(NSG)においてインドを特別扱いするかについても、イラン、パキスタン、北朝鮮等も同様の扱いを求めてくる可能性があることなどから懸念を示している国もあり、今後の議論が注目される。なお、米国はパキスタン等に対し核不拡散の観点からリスクが高く同様の協力の可能性を否定している。また、2月にIAEAと意見交換を行った際に、米国中心に検討が進んでいる燃料供給保証に関して、現時点での米国案では、供給保証の条件から濃縮・再処理の放棄が削除されてしまっている旨の情報を聞いたが、インドに燃料供給保証をするための布石の可能性がある。
【報告:政策調査室 倉崎】
<仏AREVA社がリビアと民生原子力協力>
フランス国民議会の経済委員会(French National Assembly's economic affairs committee)委員長であるオリエ議員(与党UMP)はリビアから帰国し、リビアへの民生用原子力協力が2、3週間以内に調印されると発言した。内容は明らかにされていない。フランスは、昨年5月にリビアへの平和利用目的の原子力開発支援について関心を示していた。
(情報ソース)
- JAEAパリ情報、3月7日、Reuters, March 5
リビアはかつて秘密裏に進めていた化学兵器や核兵器の開発を2003年に廃棄し、2004年には化学兵器禁止条約(CWC)に加盟、包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准、IAEA追加議定書にも署名している。
フランスがリビアに民生原子力で協力することは、核廃棄を決断した国に対して積極的に原子力計画を支援するというメッセージを国際社会に発信することになる。ただし、米印原子力協力ではインドの核兵器保有を黙認することから、リビアのケースとは逆のメッセージを送ることになる懸念がある。
【報告:政策調査室 大塚】
<GNEP、今春に具体的協議>
2月6日に発表された「国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)」は、今春にも主要6カ国(日、米、英、仏、露、中)がワシントンで会合を開き、具体的内容が論議される予定である。
(情報ソース)
- 電気新聞、3月2日
GNEPはこれまで各国から総論として支持を得ている。特に日本もどのような貢献ができるか検討を行っていく旨表明している。今後は具体的な技術開発、特に保障措置技術の開発においてNPSTCの役割が期待される。
イランは、濃縮技術の獲得を強く望んでいる。これまでも濃縮工程をイラン国内でも行うことや、ロシアとウラン濃縮合弁事業をロシア国内で設立する案に対してもイランの技術者を関与させることを強く要求していた。しかし、疑惑国に小規模の濃縮活動であっても認めることは、核兵器製造の可能性や核技術の流出など核不拡散上大きな懸念がある。
国連安保理での協議では、経済制裁の論議が注目される。ロシアや中国は制裁を回避したい意向で、途上国中心の非同盟諸国グループもイランに近い姿勢を示していると伝えられ、また、経済制裁が資源大国のイランに効力があるのか疑問視されている。
【報告:政策調査室 大塚】