核不拡散ニュース No.0008 2006.02.16
<米国原子力新政策GNEPについて>
2006年2月6日、米国エネルギー省(DOE)は、新しい原子力イニシアチブを発表。国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)は、世界中に安全な、クリーンな、信頼性のある豊かな原子力エネルギーを広げる。ボドマン長官が述べたGNEP構想には以下の7点が含まれる。
- 米国における新しい世代の原子力発電所の建設
- 新しい核燃料リサイクル技術の開発
- 米国内での使用済み燃料の効果的な管理とその最終的な保管に関する作業
- リサイクルされた核燃料からのエネルギー生産が可能な先進的燃焼炉の設計
- 核不拡散リスクを最小にする一方で、経済的な原子力エネルギーの取得及び使用の開発途上国に許すための燃料サービス・プログラムの確立
- 開発途上国の需要を満たす小型炉の開発及び建設
- 拡大する原子力の安全性及び核拡散抵抗性を強化するために原子力保障措置の改良
上記7項目の内、(5)、(7)についての詳細な説明は以下のとおり。
(5)核不拡散リスクを最小にする一方で、経済的な原子力エネルギーの取得及び使用の開発途上国に許すための燃料サービス・プログラムの確立
- GNEPにより、ただ原子力発電所のみを運転することだけを選択することに決める「ユーザー国」に対して信頼性が高い燃料サービスを提供して、原子力発電所と燃料生産施設の両方を運営する「燃料供給国」が信頼できる国際燃料サービス・コンソーシアムを築いて、そして強くするであろう。
- この国際コンソーシアムは、すべての参加国のために、エネルギーセキュリティを増やしながら、使用済燃料をリサイクルする改善された、いっそう核拡散に対する抵抗力が強い原子力燃料サイクルを作る GNEPイニシアチブの重要なコンポーネントである。
可能な信頼性が高い燃料サービスの取り決め
- 信頼性が高い供給により、ウラン濃縮あるいは再処理技術を広める誘因を減らす。
- 挑戦とは原子力燃料を作り出すか、あるいは使用済燃料からプルトニウムを分離するために使われる、ある特定の技術が核兵器のために材料を作り出すために使われることができるという事実から生じる。
- 例えば、原子力発電所の燃料のために必要とされたレベルを超えるようウランを濃縮することによって、高濃縮ウランを作ることができる。(動力用原子炉のための新ウラン燃料は核兵器に有用であるようには十分濃縮されていない。)
- 別の核兵器に有用な材料の生産は、使用済燃料インベントリーからのプルトニウムの抽出から生じる。
- 原子力を求めている国がウラン濃縮あるいは燃料リサイクリング能力を得る動機づけを減らすことによって、現在の国際拡散防止アプローチは改善されることができ得る。
- ウラン濃縮、リサイクリング及び処分施設を作るために必要な重要なインフラストラクチュアなしで済むことで、これらの国は原子炉燃料の信頼性が高い供給を持つことから利益を受け取ることができる。
- 燃料取り扱いインフラストラクチュアを築くことについての資本投資を避けることに加えて、包括的な燃料サービスのパッケージの利益が、革新的リサイクル技術が証明されて、そして運用させられれば、「使用済燃料テークバック」を含む「揺りかごから墓場への」燃料リースを含み得る。
- このパッケージは適切な条件の元で、適切な保障措置を含め、そしてウラン濃縮と再処理活動をあきらめるユーザー国に提供されることができる。
システムが如何に働くか
- 揺りかごから墓場への燃料リース・アプローチの下で、燃料供給元国がユーザー国に位置している通常型の原子力発電所に、典型的には濃縮ウランの新燃料を提供するであろう。
- これらの通常型の原子力発電所は既存型炉か、あるいは次世代の動力原子炉あるいは GNEP の下で発展させられる新しい、小規模の原子炉であり得る。使用済燃料は燃料サイクル国に返されて、そして分離されたプルトニウムをもたらさないプロセスを使ってリサイクルされるであろう。
- リサイクルされた燃料はそれから燃料供給元国の革新バーナー原子炉で使われるであろう。
- このような燃料リースアプローチはウラン濃縮と再処理技術をあきらめる諸国への誘因を提供するであろう。
- 新しい燃料保証アプローチが提供する方法:
- 新燃料の信頼性が高い供給を提供するための政治的な確定性。
- 必要とされるとき、新燃料が利用可能であるであろうというリソースの確定性。
- 供給する新燃料の価格が競争的であるとの財政的な確定性
- そしてリサイクルすることが証明されたときに、使用済燃料が合意を受け得る合理的な条件で取り戻されることの確定性
進行中のステップ
- 合衆国はすでに17.4トンの高濃縮ウランを、低濃縮のウランまで希釈混合して、そして燃料保証をバックアップするために設立される燃料リザーブの確立に使用することに既にコミットしている。
- 他の国が「燃料銀行」に寄与することに対しての興味を表明した。
- GNEP の下で想定される「揺りかごから墓場までの」燃料リース・アプローチを支持するのに必要な技術を開発するには時間を要するであろうから、合衆国は GNEP の目的と合致する信頼性が高い暫定・燃料サービスアプローチを確立するために国際パートナーと連絡を取っている。
(7)拡大する原子力の安全性及び核拡散抵抗性を強化するために原子力保障措置の改良
- GNEP はプログラムと技術を開発して、強化された保障措置を開発することによって、平和目的のための民間の原子力施設の目的以外への転用を妨げるのに役立つであろう。
- 国際的な原子力保障措置は原子力エネルギーのいっそう核拡散に対する抵抗力が強い燃料サイクル技術のデモンストレーション及び原子力エネルギーの拡大のための GNEP のビジョンを実行するのに不可欠である。
保障措置とは何であるのか?
- 保障措置は国際核拡散防止プログラムの基本的なビルディング・ブロックである;核物質計量、技術のコントロール、平和利用目的の使用を検認するための技術及び資材の使用での透明性、国際協定と義務の遵守を査察してそして確かめる能力。
- 国際保障措置が原子力科学技術と核物質の拡散に対して今まで効果的な抑止力であった。
更に良くなる機会
- GNEPにおいては、新しい原子力エネルギーシステムと燃料サイクル施設のプラン及び構築に直接に近代的な保障措置を設計する機会を提供する。
- 新しい施設のデザイン段階に保障措置を取り入れることは IAEA にいっそう効果的に、そして効率的に核物質をモニターして、そして検証することを許すであろう。
- 原子力技術供給者は同じくこれらの強化された保障措置のデザイン要素の実行を必要とすることが可能となり、そしてそれらが包括的な方法で応用であることを保証するために IAEA と共に働くであろう。
- GNEP の基本的なゴールは核物質の転用が、即刻の発見なしで行われることを不可能にすることである。
- 可能な国際的な共同作業には以下のものを含む;
- リサイクル施設、バーナー原子炉そして関連の核物質貯蔵及び輸送においてそれらを核拡散抵抗性を持たすために、デザインの中に保障措置を取り入れる。
- 高い信頼性、リモートの、そして無人のモニタリング技術の開発;先進的な封じ込め監視;スマートな保障措置情報収集、マネージメント及び分析システム;原子力施設「使用コントロール(use control)」システム;そして次世代の非破壊分析とプロセスモニタリングセンサーの開発。
- 先進の物質追跡メソドロジーの開発、プロセス・コントロール技術及びプラントエンジニアリングに関する研究開発。
- リモート・センシング、環境サンプリング及び法医学的(forensic)検証方法。
- テストとデモンストレーションを行うための国際施設
- 核物質のセキュリティと計量のために世界的な「最善の試み(best practices)」を奨励し続ける。
国際原子力機関と GNEP パートナーと共に働く
- 統合化されたシステム・アプローチと先進的な保障措置を実行することにおいて、合衆国はしっかりと IAEA と GNEP 国際パートナーと共に働き続けるであろう。
- 合衆国はすでに保障措置技術の主要な供給元であって、そして核物質の追跡ためにすべての IAEA 査察官に保障措置について訓練している。
- GNEP は、GNEP国際なパートナーによる保障措置及び統合システム・アプローチに関する同様の投資を奨励して、IAEAがこれらの技術を使用するのをサポートするであろう。GNEP の下では、国際保障措置は、未来の拡散に対する抵抗力が強い燃料サイクル及び原子炉技術の開発を含めて、原子力の世界的な拡大における不可欠な部分である。
(情報ソース)
- DOE GNEPホームページ
<ロシアの国際核燃料サイクルサービスセンター構想>
プーチン大統領は、ウラン濃縮及び放射性廃棄物の処分(Disposal)をロシアが引き受けることを各国に拡大していく用意がある旨述べた。現在、平等なアクセスについて論議しており、ロシアはこの種の問題を解決するのに適切な国だとプーチン大統領は述べた。キリエンコ原子力庁長官も、ロシアが4種類の国際核燃料サイクルサービスセンター(ウラン濃縮センター、照射済み燃料の再処理と貯蔵センター、職員の訓練と認証のためのセンター、新しい科学成果を統合するセンター)を設立する準備がある旨述べている。一方で、ロシアの国際センター構想は必要以上に拡大している面もあると評価されている。
(情報ソース)
- NTI, February 8, 2006並びにNuclear Ru, February 9, 2006他多数
ロシアが提案する処分(Disposal)が何を意味するのか不明だが、仮に最終処分を意味するとすれば、米国のGlobal Nuclear Energy Partnership(GNEP)で発表された燃料供給国への使用済燃料の返却・処分に対する有力なアプローチとなるであろう。また、2006年7月にはG8初のロシア・モスクワサミットが開催されるため、米国のGNEPやロシアの国際センター構想が取り上げられる可能性もあり、サミットの動向が注目される。
【報告:政策調査室 堀】
<イランへの経済制裁、3月まで保留>
2月4日、IAEA緊急理事会でイラン核問題を安保理に報告する決議が採択され、経済制裁に関しては3月のIAEA定例理事会まで審議しないことも決定された。イランには1ヶ月間の猶予期間が与えられたことになる。安保理付託に反発したイランは、同国内法に基づきウラン濃縮を再開するとIAEAに書簡で伝えた。更にイランは追加議定書に基づく情報提供や補完的アクセスには応じず、通常の査察のみに制限することや監視カメラの撤去なども要求した。11日にはアフマディネシャド大統領がNPT脱退の可能性を示唆した。12日にイラン外務省はNPT脱退の可能性を否定する発言し、大統領発言を修正した。
(情報ソース)
- 国内新聞、外信等、2月5日〜13日付
2003年12月にイランは追加議定書に署名し、未批准ではあるが自発的に同議定書を遵守するように行動する旨IAEAに約束していた。しかし濃縮関連活動の停止を求めるIAEA理事会決議に反して、昨年秋以降、濃縮関連活動を再開。今回のIAEA理事会決議にも反発を強めている。3月初めのIAEA理事会の検討、その後の安保理での取り上げをにらんで、イランが反発姿勢を強めていることが注目されている。
【報告:政策調査室 大塚】
<イラン、地下核実験の建設に着手か?>
米情報機関によれば、イランは地下核実験を行うトンネル建設を計画しているという。ただ、イランは核保有国になるには少なくとも10年はかかると分析している。また、これまで拒否してきたカーン博士の側近タヒル氏が、90年代半ばに高性能の遠心分離機3台をイランに送っていたこともわかった。
(情報ソース)
- 国内新聞、外信 2006年2月8日
イランの地下トンネル建設については、2004年12月にIAEAがイスファハンのウラン転換施設で実施した査察の際に、未申告の地下トンネルを発見し、イラン側は同トンネルを核物質や関連機器への想定される攻撃から守るために建設したと説明して修正申告に応じている。また、本年1月に米国のISIS(米国科学国際安全保障研究所)が、ナタンツの濃縮施設の衛星写真を公開し、地下施設があることを指摘していた。
【報告:政策調査室 濱田】
<米国、新しい核研究事業に33億円>
米エネルギー省は、2007会計年度で、核兵器の入れ替えを目的とした研究事業「信頼性のある代替核弾頭計画」の予算33億円を議会に要求した。「地中貫通型小型核兵器」(通称:バンカーバスター)については、議会の反対で要求を見送った。
(情報ソース)
- 8月30日付IAEA事務局長報告
今回の要求により、同兵器の研究開発費は3年連続して削除されることになったが、イランや北朝鮮の核開発疑惑で浮かび上がる地下トンネル施設の存在が、同予算を復活させる可能性も排除できない。
米国が発表した新政策「国際原子力エネルギー・パートナーシップ」において7項目が提案されているが、核不拡散等の観点から、特に「燃料サービス・プログラム」や「先進保障措置開発」に関する主な課題に関して以下に解説する。
(燃料サービス・プログラム関連)
(先進保障措置開発関連)
【報告:政策調査室 倉崎、井上他】