
日本原子力研究開発機構に核不拡散科学技術センターが設置されて初めてとなる国際シンポジウムを2月7日、茨城県大洗町で開催した。「核不拡散と平和利用」をテーマとして開催したもので、直前に米国が発表した新たな原子力政策である「国際原子力エネルギー・パートナーシップ」の内容も紹介され、議論がなされた。
シンポジウムには地元大洗町長をはじめ茨城県民の方々、国内の原子力関係者、マスコミ関係者、米国エネルギー省や国立研究所、韓国原子力管理規制機構など海外からの参加者、同機構が客員教員などを派遣して連携している東京大学大学院原子力国際専攻の学生も招待されるなど約160名が参加して、盛大なシンポジウムになった。
特別講演

「ゆらぐ核不拡散体制と日本の対応」と題する特別講演では、元原子力委員長代理の遠藤哲也氏が、北朝鮮・イラン問題や、それに対する国際原子力機関の査察強化、輸出規制の強化、米国ブッシュ大統領や国際原子力機関エルバラダイ事務局長が提唱する国際管理構想や燃料供給保証などに触れ、「核不拡散対策には万能薬はなく、これらの措置を一層進めていくことが重要」と指摘した。また、日本としては、エネルギー安全保障のために独自の核燃料サイクルを確立していく必要があるとしつつ、燃料供給保証などにも積極的に対応し、唯一の被爆国として世界の核不拡散体制強化に貢献すべきであると主張された。また、シンポジウム開催日の未明に米国で発表された「国際原子力エネルギー・パートナーシップ」の概要にも言及され、米国は30 年以上続いた再処理しない政策を見直し、使用済燃料のリサイクルを、核拡散抵抗性の高い技術で実現し、廃棄物量を抑制する新たな政策を打ち出したことが報告された。
政策研究紹介
続いて、核不拡散科学技術センターが政策研究として取り組んでいる2課題の状況についての発表がされた。

一つは、原子力平和利用に対する国際的な信頼確保に関するもので、倉崎高明政策調査室長より、日本は現在の国際的信頼を獲得するまでに並々ならぬ努力を行ってきており、例えば、積極的な情報提供、早い段階からの国際原子力機関(IAEA)との密接な連携、核燃料物質が核兵器に転用されていないことを証明する技術の積極的な開発、直前にしか通告のないランダム査察の受入れ、などがポイントであると分析し、今後、これらの取組みを世界に普及させていくことにより、国際的な核不拡散の強化に貢献していきたいという報告がされた。また、ウラン濃縮や使用済燃料再処理の制限、多国間管理が国際的に議論されている状況の中で、日本の原子力平和利用は核不拡散と両立していることを海外にアピールする狙いもある。

もう一つの研究は、アジアの原子力活動の透明性向上に関するもので、堀啓一郎技術主席より、エネルギー需要の増大に伴って今後アジアで原子力発電の拡大が予測され、その平和利用の信頼性を担保するためには透明性が不可決であるとし、透明性向上に向けた現在の様々な取組みを踏まえつつ、まず比較的早期に具体化が図れるものなどから、積極的に推進していくという発表がなされた。
パネルディスカッション

パネルディスカッション「原子力活動の透明性と技術」では、京都大学大学院浅田正彦教授がモデレータを務め、米国エネルギー省国家核安全保障庁のジョン・カー部長、米国サンディア国立研究所のドーリ・エリス部長、韓国原子力管理規制機構のワン キ・ユン部長、原子力機構の堀雅人技術副主幹がパネリストとして参加した。
最初に、ジョン・カー部長から燃料供給保証、米国の新政策「国際原子力エネルギー・パートナーシップ」等についての紹介がなされた後、議論が行われ、堀雅人技術副主幹より、米国新政策は、資源の有効利用、廃棄物の低減、核不拡散上の観点から好ましいが、立地や保障措置等の課題が考えられ、経験を有する日仏との協力が重要である旨指摘し、また、ワン キ・ユン部長は基本的に賛成としつつも、濃縮・再処理を断念した国への燃料サービスについては、国によっては微妙な問題がある旨指摘。また、米印原子力協力については、ワン キ・ユン部長はインドを核不拡散条約に加盟させることを優先すべき旨指摘し、ドーリ・エリス部長は、インドの民生原子力活動を公開させ、保障措置を適用することなどが、透明性の観点から重要と指摘。いずれも地域やグローバルでの協力、信頼醸成、透明性が必要であるとされた。
次に、アジアにおける原子力の透明性に関して、日米及び米韓が協力して開発している相互の燃料などの遠隔監視技術のデモンストレーションも交えて、各国の取組みなどが紹介された後、議論が行われた。ワン キ・ユン部長は、保障措置の透明性と関係国間の信頼醸成のための透明性とは異なり、安価な機器やインターネットの活用でも後者の透明性、信頼醸成には十分役立つとして、今後日韓間での協力の重要性を指摘し、堀雅人技術副主幹より、日韓協力が実現しそれで1つのモデルができればアジア等他国にも広がる可能性を指摘。また、ジョン・カー部長も、日米韓間で侵入的でない任意の形態での協力モデルができれば、アジアにも扉が開くであろうと指摘。このようなモデルを徐々に広く普及させることによって、より広い地域での透明性向上、信頼醸成に貢献する可能性があると指摘した。さらに、遠隔監視の将来性に関して、ドーリ・エリス部長より、透明性によって査察低減やセキュリティ向上に役立つ可能性がある等の指摘があった。
最後に、浅田正彦教授より総括が行われ、核不拡散を巡る状況は激しく動いているが、いかなる協力でも信頼関係が重要であり、その構築のためには遠隔監視など透明性に関する技術が有効であること、また、その様な比較的容易にできる内容について緩い協力関係からはじめ、日米韓だけでなくステップ・バイ・ステップでアジアに広げていくことが重要であること、さらに、今後とも、今回の様なシンポジウムやワークショップなど地域諸国が集まって議論する場を重ねることも透明性向上、信頼醸成において重要であるとして、締めくくられた。