原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

139 原子炉圧力容器の健全性評価手法

掲載日:2025年9月30日

原子力安全・防災研究所 安全研究センター 経年劣化研究グループ
研究副主幹 河 侑成

韓国出身。日本に留学し京都大学で博士後期課程を修了。原子力機構の博士研究員を経て、3年後に職員となった。安全研究センターでは軽水炉材料の健全性評価に携わり、国内外規格の改定に参画。照射試験と照射後試験の一連を管理・評価している。持続可能な原子力につながる有意な成果で、原子力の未来を支えていきたい。

中性子照射鋼DBで貢献

60年超運転へ

日本では発電用原子炉の長期施設管理計画を策定し、認可を受ければ、運転開始から60年を超える運転が認められることとなった。その発電所を安全に長く使うために重要なのが「原子炉圧力容器 (RPV)の健全性」だ。

RPVは炉心からの中性子を受けて徐々に劣化し、脆くなる(照射脆化)。RPVの健全性評価では、照射脆化の程度を予測したうえで、RPV鋼の粘り強さ「破壊靭性」が想定上の最も厳しい事故時に対する破壊の駆動力「応力拡大係数」を上回ることを確認する。

日本原子力研究開発機構では、中性子照射を受けたRPV鋼に関する大量の機械的特性データを基にデータベースを構築。軽水炉を安全に長く使うため、評価検討に科学的知見を提供している。

材料特性が関係

RPV鋼の照射脆化には、鋼材の化学成分や製造工程(圧延か鍛造か)などの材料特性が大きく関係する。長期運転時の健全性評価では、これらの因子が照射脆化に及ぼす影響をより定量的に理解し、照射脆化の予測手法をさらに高度化することが求められる。

一方、破壊靭性は従来、シャルピー衝撃試験のような間接的手法で評価されてきた。近年では、破壊靭性試験で直接評価する試みも進められており、手法間での整合性確認も必要となっている。

そして、長期運転に対応した高照射量領域のデータは依然として限られている。信頼性の高い評価を行うには多くの実データが必要だ。しかし、中性子照射された材料の入手は容易ではない。この状況を解決するための加速照射試験もあるが、試験後の各種試験を含め高い技術力とコスト、時間を要する。取得に極めて大きな労力をかけたデータは、まさに“宝物”のような貴重な情報資源である。

活用の幅広げる

原子力機構はこれまでの研究で取得・蓄積したデータを体系的に整理し、「原子炉圧力容器鋼の機械的特性データ(RPVSDATA)」を構築した。多岐にわたる材料、照射条件、試験方法などに基づく結果を取り込んでいる。データ数は照射材だけで175点、未照射材を含めると1000点以上にのぼる。2024年12月に公開、原子力機構のデータベース検索システムから利用できる。

RPVSDATAは、現在照射脆化因子の影響を調べるための統計的分析などに用いられている。今後、RPV鋼の照射脆化や健全性評価への幅広い活用も期待している。