原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

130 「広範囲の地下水」流れにくさ評価

掲載日:2025年7月15日

幌延深地層研究センター 堆積岩工学技術開発グループ
研究副主幹 尾崎 裕介

大学では地下探査(電気探査)に関する研究により博士号を取得。原子力機構入構後は、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究の一環で地下坑道内における地下探査の高精度化に関する研究に従事。この他、大学時代に培った数値解析の知識を活かし、地下水流動などのシミュレーションに関する研究も行っている。

岩石の特性データ活用

少ないデータで

高レベル放射性廃棄物の地層処分は地下深くに廃棄物を封じ込める計画だが、地下水が流れていると物質を動かしてしまうおそれが生じる。そのため、地層処分の安全評価では、地下水の流れやすさ(透水性)を広範囲で評価する必要がある。

一方で、地下水の流れは非常に緩やかだ。既存の原位置試験は数㍍程度の範囲しか評価できず、広範囲となれば、長期間かつ大規模に行うこととなる。

実際の地下調査は期間や規模に限度があり、広範囲の地下水の透水性評価は、こうした制約を乗り越えなければならない。日本原子力研究開発機構では、幌延深地層研究センター(研究センター)で培った岩盤の透水性や地下水の流れ方の評価手法を組み合わせ、少ないデータでも広範囲の評価ができる新しい推定手法を開発した。

有効性を実証

岩盤内での地下水は割れ目の隙間が広いと流れやすく、狭いと流れにくくなる。また、地下水が通過可能な割れ目が多い場合は自由に水平面内を流れることができる一方で、少ない場合には割れ目がパイプのように機能する限られた経路へと集中する。広範囲の透水性は、これら両方の影響を受ける。

そこで我々は、電気回路の直列・並列回路の抵抗計算方法に着想を得て、局所的な透水性と地下水の流れ方の情報から、広範囲の透水性(有効透水量係数)を推定しようと考えた。

活用したのが、研究センターが地殻変動に対する堆積岩の緩衝能力の検証研究を通じて開発した指標「ダクティリティインデックス」(DI)だ。岩石の強度・応力状態を示すもので、岩石にかかる力を岩石の硬さで割った値だ。これまでの研究から、DIを用いて岩石の局所的な透水性も岩盤内の地下水の流れ方も評価できている。

新手法の妥当性は、研究センター坑道への湧水量や周辺の水位に関する10年以上のデータを用いて検証を済ませた。また、研究センターの立坑拡張計画が本格化した際には、500㍍まで掘り進んでも湧水は限定的になると推計。実際に大きな湧水もなく、新手法の有効性を実証した一例となった。

脱炭素技術にも

脱炭素社会の実現に向けて、二酸化炭素の地中貯留や地熱開発といった分野でも、岩盤中の流体挙動評価の重要性が増大している。今回の手法はボーリング調査1本で得られる情報のみでも推定が可能だ。地下空間の利用検討など、情報が少ない初期段階での活用が期待される。