原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

040 ウラン超電導の謎を解く

掲載日:2023年8月22日

先端基礎研究センター 強相関アクチノイド科学研究グループ
グループリーダー 徳永 陽

専門は固体物理、核磁気共鳴実験。将来の応用を見据えながら、アクチノイド化合物にしか現れない、新しい磁性や超電導を発見し、そのメカニズムを解明する研究を行っている。ウラン化合物の超電導研究は国内外で大きな盛り上がりを見せており、9月開催の日本物理学会の年次大会でもシンポジウムが開催される。

量子計算に応用へ

多分野で応用

次世代の超高速計算機として期待されているのが、量子コンピューターだ。その実用化に向けた大きな課題であるノイズ問題の解決につながる研究を、日本原子力研究開発機構が行なっている。量子コンピューターはケタ違いの計算能力を持つため、物質開発や創薬、金融予測など広い分野での応用が期待されている。しかし、その計算を支える量子情報は、電磁波や熱などの外部ノイズに非常に弱い。その影響をどう抑えるかが、応用に向けた大きな課題となっている。

その根本的解決の切り札として期待されているのが、「トポロジカル超電導」を利用した新しい量子コンピューターである。「トポロジカル超電導」の量子情報は、環境ノイズに強い耐性を持ち、その性質を利用できれば、量子コンピューターの実現に大きく近づくことが可能だ。

しかし、トポロジカル超電導体の仕組みについては、謎の部分が多かった。一方、この研究分野では、ウラン化合物が大きな注目を集めている。ウランとテルル元素を含む新しいスピン三重項超電導体が、それである。従来のトポロジカル超電導は物質の表面にのみ実現する不安定なものだった。しかしスピン三重項超電導体では、物質全体が「トポロジカル超電導」状態になることが理論的に見いだされた。

弱点を克服

原子力機構は、ウラン化合物の物質開発分野で、世界最先端の技術と経験を持つ。これを生かして私たちは、従来法で生成された単結晶では必ず微量のウラン元素が欠損していることを突き止め、さらにこの従来法の弱点を克服した新しい結晶育成法の開発に成功し、スピン三重項超電導の研究を大きく前進させた。

なお、放射能を持つウラン化合物は、汎用性のあるデバイス開発には向かない。しかしスピン三重項超電導の基本原理を解明すれば、将来的にはウラン以外の元素を用いた物質開発に道を開くことになる。

有力な候補物質

現時点では、スピン三重項超電導の有力な候補物質はすべてウラン化合物だ。その総合的な研究ができる場所は、私たちの研究所など世界的にも限られている。私たちは自ら育成した超純良単結晶を武器に、ウランがもたらす新しい超電導の謎に挑み続けている。