原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

039 プラントをまるごと解析

掲載日:2023年8月15日

高速炉サイクル研究開発センター 高速炉解析評価技術開発部 炉心・プラント解析評価Gr
研究員 浜瀬 枝里菜

原子炉の設計や安全評価に用いる解析手法開発に取り組んできた。専門は高速炉熱流動、数値流体力学。ARKADIA構築に向け、AIの活用に加えて、熱流動解析手法をより進化させ、高速炉の早期導入につなげたい。民間のニーズを取り込み、より安全性と信頼性の高い評価手法の構築を目指す。

適用可能な原子炉増やす

日本原子力研究開発機構で開発した統合評価手法「ARKADIA」は、人工知能(AI)を活用し、最新の数値シミュレーション技術や評価技術と、原子炉開発プロジェクトで獲得した経験や知見を組み合わせたものだ。2回目となる今回は、複数分野の物理現象(マルチフィジックス)と、プラント内で生じるスケールの異なる物理現象を、評価の目的にあわせた精度と計算負荷でモデル化し、プラント全体をまるごと解析するマルチレベル・シミュレーションを紹介する。

熱流動挙動 把握

原子力機構では、ナトリウム冷却高速炉で電源喪失事故が起きても、炉心部の熱を自然に除去する自然循環崩壊熱除去システムの構築を目指している。このシステムでは、炉心部から上部へ流れる高温の冷却材が冷却器に取り込まれ、冷却後には比重が増えた低温の冷却材が自動的に炉心部へ戻るしくみだ。

これを設計に取り込むには、この過程においてプラントの冷却系統で生じる物理現象を1次元でプラント動特性として解析し、さらに原子炉容器(RV)内で生じる熱流動挙動の物理現象を詳細な3次元解析でモデル化し、両者を組み合わせるマルチレベル・シミュレーションの構築が鍵となる。

とはいえRV内の炉心部には、ワイヤに巻かれた数百本の燃料ピンからなる多数の燃料集合体がある。ここで生じる現象をまともに解析すれば計算負荷が膨大になる。

物理現象を解明

そこで燃料集合体内の流路を、燃料ピンで囲まれた小流路の単位として分割した3次元解析モデルを開発した。これにより一定の解析精度を担保しながら、解析メッシュ数を詳細解析の1万分の1に減少させた。

これを大洗研究所のナトリウム伝熱流動試験装置で実施された試験解析に適用したところ、試験結果の再現と、RV内の複雑な物理現象を解明することに成功した。

さらに各種機器や配管部のプラント動特性解析と、炉心部のマルチフィジックス・シミュレーションを連成させることで、プラント全体の熱と流れの様子をシミュレーションすることまで可能とした。

民間に技術提供

今後は、適用可能な原子炉プラントの拡張を進める。なお、このARKADIAを研究開発基盤技術として民間事業者に提供することで、高い安全性と経済性をもつ革新的原子炉の開発に貢献することが期待される。