第12回 原子力機構報告会
「原子力の未来 ―原子力機構の挑戦―」

全体概要 機構の概況と研究開発の取組 (テキスト版)

全体概要
機構の概況と研究開発の取組
事業計画統括部長 大井川宏之

事業計画総括部の大井川です。きょうは「機構の概況と研究開発の取組」ということで御報告させていただきます。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P) まず、原子力機構ですけれども、我が国における原子力の唯一の総合的な研究開発機関として、基礎基盤研究からプロジェクト開発まで幅広い取り組みを推進してまいっております。昨年度平成28年度には、原子力機構改革の一環といたしまして、核融合と量子ビーム応用研究の一部を量子科学技術研究開発機構のほうに移管しまして、経営管理スパンをスリム化して、より重点化した研究開発を進めているところです。

現在、第3期の中長期目標期間の3年目といたしまして、研究開発成果の創出に取り組んでおります。

きょうは、各分野におけます主な取り組みについて御紹介するとともに、昨年度から今年度にかけまして取り組んでおります研究開発成果創出のための取り組みのうち、イノベーション創出戦略と施設中長期計画について簡単に御紹介させていただきたいと思います。

P) まずこのスライドは、第3期の中長期計画の概要を示したものです。福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発、安全規制への技術的支援、安全性向上、核不拡散・核セキュリティへの取り組み、高速炉の研究開発、核燃料サイクルの研究開発、これらの大きな柱となる研究開発をまた支えるための基礎基盤研究と人材育成、さらに、こういう取り組みの成果を最大化するためのイノベーション創出に向けた取り組みだとか国際協力、こういうのが第3期中長期計画の概要になっております。

P) それでは、各項目について御紹介させていただきます。

福島第一原子力発電所事故の対処にかかる研究開発に関しましては、この後詳しい説明がありますので割愛したいと思いますが、先ほど理事長からもあったように、最近富岡町のほうで国際共同研究棟が竣工しまして、ここを核にしまして産学官による研究開発、それから人材育成を進めていきたいと考えております。

P) 原子力安全規制への技術支援と安全研究に関しましては、こういった機構特有の施設をうまく用いまして、実効性、中立性及び透明性を確保しつつ、安全規制行政への技術的な支援を進めてまいります。

最近の成果として挙げていますのは、ここにありますCIGMA、大型格納容器実験装置というものを使いまして、シビアアクシデント時に格納容器の冷却にヘリウム、これは水素の模擬体なのですけれども、こういうガスが及ぼす影響について研究して、データをとっているということが挙げられます。

それから核不拡散、核セキュリティに関する活動に関しましては、最近の成果として北朝鮮の核実験の監視強化のためにCTBTO、包括的核実験禁止条約機関ですけれども、これとの希ガス共同観測プロジェクトを青森県のむつ市と北海道幌延町で開始するということで、本年度中にこれを開始する予定で今取り組んでいるところでございます。

P) 次に、高速炉の研究開発ですけれども、先ほど理事長からもありましたように、もんじゅに関しましては、政府の方針に基づきまして廃止措置に移行するということになりました。我々はもんじゅの再稼働に向けて取り組んでまいったわけですけれども、残念ながらこういうことになりました。

しかし、高速炉の研究開発というのは我々国の方針に従って進めていくということですので、こういう国際協力あるいは常陽を使った研究を進めながら、それから国が策定します戦略ロードマップ策定に向けて、我々も体制を構築して貢献を行っていくということで取り組んでおります。

それからもんじゅの廃止措置に関しましては、ことしの6月に基本的な計画というのを公表いたしまして、それに基づいて着実に取り組んでまいろうと考えております。

P) 次に、再処理燃料製造、放射性廃棄物の処理処分技術に関する取り組みですが、さまざまな取り組みを行っております。

最初に放射性廃棄物の減容化、有害度低減に関してですけれども、これに関してもこの後詳しい説明がありますので詳細は割愛しますが、1つトピックスとして挙げておりますのは、ロシア・ロスアトムとマイナーアクチノイドの核変換のための炉物理試験に関する情報交換、こういう覚書を締結いたしまして、こういう国際協力とそれからみずから我々が持っている施設をうまく組み合わせて、こういう技術の進展を図っていこうと考えております。

次に、高レベル放射線廃棄物の処分技術ですけれども、我々が持っております地下研究所あるいは東海の研究施設を使いまして、データをとっているところです。最近の成果として挙げていますのは、地下300mの地下水中でメタンをエネルギー源とする微生物生態系の存在を発見しました。これは東京大学さんとの共同研究によるものですけれども、こういう微生物の存在が放射性物質を閉じ込めるのにどういう効果をあらわすかということを研究しているところでございます。

P) 次に、使用済み燃料の再処理、燃料製造に関する技術開発です。東海再処理施設に関しましては、現在ガラス固化を再開いたしまして、平成28年度から再開して、これまでに59本のガラス固化体を製造しております。

その再処理施設そのものは、廃止措置計画をことしの6月に規制委員会のほうに認可申請しております。東海再処理施設に関しましては、放射性廃液のガラス固化を安定的に実施しまして、平成40年度末までにこのガラス固化を終了するべく、今努力しているところでございます。

次に、原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理処分に関してです。我々みずから持っている原子力施設についてこういうのを進めていかないといけないわけですけれども、技術開発と並行して進めているところです。その技術開発のうちの1つとして、最近の成果で挙げていますのは、廃棄物分析の効率化に貢献できるTc-99の迅速測定システムの構築というのを挙げています。Tc-99というのは、半減期が21万年と非常に長い長寿命の核種で、鋼材の不純物の中で放射化で生成するわけですけれども、こういうのをしっかりとどれだけ入っているのかというのを、すぐに迅速に計測できるというシステムの開発を行っています。

P) 次に、基礎基盤研究です。基礎基盤研究で最近の成果で挙げていますのは、大規模原子シミュレーションによる、合金元素による変形機構の特性変化解明となっていますが、要は原子力機構が持っていますスーパーコンピューターを使いまして、数億個の原子をシミュレーションしまして、合金元素の非常に微量な元素の存在が、こういう合金の強度にどういう影響を及ぼすのかというのをシミュレーションで解明するという、そういう成果です。これは、文部科学大臣賞の平成29年度の若手の部門で受賞している、そういう成果でございます。

高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発ですけれども、ここで大きくトピックスとして挙げられるのは、ポーランド国立原子力研究センターと高温ガス技術開発に関する研究協力覚書を締結したということになります。ポーランドは、高温ガス炉をエネルギー源として使うそういう検討を今進めておりまして、その前段階として試験研究炉を導入することを考えております。原子力機構では、高温工学試験研究炉HTTRというのを持っておりまして、その技術が非常に期待されているところで、これからこういう国際協力をうまく活用して、この技術の展開を図っていきたいと考えております。

P) 次に、先端原子力科学研究ですけれども、先端原子力科学研究では、アクチノイド先端基礎科学、それから原子力先端材料科学といった、こういう2本の柱で、原子力の先端的な研究を行っているところです。

最近の成果として挙げているのは、音波を用いて銅から磁気の流れを生み出すことに成功ということで、この成果は慶応大学等との共同研究なのですけれども、スピンというのをうまく使ってこういう成果を生み出している。こういう取り組みは何の役に立つかというと、対放射線性の電子デバイスの開発だとか、非常に高効率の電子デバイスの開発、こういうのに役立てていきたいと考えております。

それから、我々が保有します先端的な大型施設を用いた中性子・放射光応用研究、J-PARCだとかSPring-8を使った研究です。

ここで最近の成果として挙げていますのは、シリコンを使わない太陽電池材料、ぺロブスカイト半導体の特性を解明、あるいはガラスの基本単位の構造を決定する。これは200年にわたり謎になっていたものですけれども、こういうところでJ-PARC等の例えば中性子を使ってこういう分子の構造を解明するという、そういう取り組みを行っているところでございます。

J-PARCに関しましては、1MW相当の世界最強中性子パルスビームを安定供給したいということで、日夜取り組んでいるところでございます。

P) 各分野の研究開発成果というのはこれぐらいになっていまして、原子力機構のイノベーション創出戦略というのを策定しましたので、簡単に紹介したいと思います。

原子力機構の目指すべきイノベーションというのは、原子力のエネルギーの利用にかかるイノベーションと、それから原子力の科学、サイエンスを通じたイノベーションに大別されると思います。これらのイノベーションを活性化するための取り組みとしまして、ここに書いてあるような8つの取り組みを各部門において進めることにいたしております。

例えば協力・連携及び分野・異種融合の促進ということで、ここに書いてありますように共創の場、JRR-3だとかJ-PARCといった先端的な施設にいろんな分野の研究者が集まってきて、そこで新しいイノベーションが生み出される、そういう場をつくって提供していくということも進めていきたいと考えております。

P) 一方で、イノベーションを創出するためのインフラというのを我々持っているわけですけれども、残念ながら研究炉に関しましては今全てがとまっている状況で、一番再稼働に近いのがNSRRで何とか今年度中に再稼働を果たしたいということで、現場では頑張っているところであります。

そのほかJ-PARCだとかSPring-8については、稼働中で成果を出しているという状況でございます。

それから、最後に原子力機構が持っています施設に関する中長期計画について簡単に説明します。原子力機構が保有する原子力施設というのは、老朽化が進んでいるということ。それから、震災以降の新規制基準への対応が必要であるということ、それからバックエンド対策をしっかりやっていかないといけないということ、こういうことを背景に我々は施設をスリム化した上で、安全強化、バックエンド対策を進めていって、研究開発機能の維持発展を目指していかないといけない、そういう状況になっています。

そこでこの三位一体の計画、施設の集約化・重点化、安全確保、バックエンド対策、こういうのを整合性を保ちながら進めていく、そのための計画、これは平成40年ぐらいまでのものですけれども、これを策定してことし3月に公表しております。

その中でキーとなるのは、我々が保有する約90の施設のうちの約半分が廃止のほうに位置づけられたということです。この中には、新たに廃止に選別されました12施設が含まれておりまして、原子炉施設といたしましては、高速増殖原型炉もんじゅ、高速炉臨界実験装置(FCA)、材料試験炉JMTRらが含まれているということです。

これに従いまして、これをさまざまな要因を踏まえて、更新しながら着実に進めていくということで、取り組んでまいりたいと思っております。

P) 以上まとめますと、原子力機構は引き続き安全を最優先に研究の再稼働など果たし、イノベーションの創出に取り組んでまいりたいと思っております。並行しまして、廃止措置や高経年化対策など、課題への対応を着実に進めてまいります。そういうことを組み合わせて、原子力の総合的な研究開発機関として、原子力の未来の可能性を示し、エネルギー利用とサイエンスの両面から貢献していきたいと思っております。

以上であります。御清聴ありがとうございました。