2_2_1 ボーリング孔による地質環境調査技術
達成目標

坑道内におけるボーリング調査では,地上からの地質環境調査で予測された地質・地質構造を直接観察するとともに,坑道の掘削が地下水流動や地球化学特性に与える影響などを観測し,それらに基づき地上からの地質環境調査で構築した各モデルと比較することでその妥当性を確認・更新することを目標とします。

方法・ノウハウ

①坑道におけるボーリング調査で取得する情報

②モニタリング

瑞浪超深地層研究所における実施例

研究坑道から掘削したボーリング孔の位置図を図1に示します。モニタリング装置設置後の各孔の地下水の水圧・水質観測結果は2_2_2で示し,ここでは,前述した方法・ノウハウに手法を適用し,地質構造モデルの更新に活用した成果の一例として,主立坑断層を対象としたボーリング調査(10MI22,10MI23号孔)の結果について紹介します1), 2)

本調査では深度300m研究アクセス坑道から主立坑断層に直行する方向にボーリングを掘削し,コア観察,各種検層によって主立坑断層の詳細な地質・地質構造を明らかにしました(図2)。また,ボーリング孔内に水理試験装置を設置し,単孔式水理試験および長期揚水試験を行い,主立坑断層の透水異方性(断層面に対し直交する方向と平行な方向で透水性が異なること)や周辺岩盤の水理地質構造の推定を試みました。図3は,深度300mに掘削された10MI22号孔を用いた長期揚水試験の結果と,それに基づく水理地質構造の概念図です。この試験では,主立坑断層や泥岩層を境として水圧応答の傾向が大きく異なることが確認されました。これにより,断層や泥岩層がその直交方向に対して低透水性であり,水理学的な境界を形成する地質構造であることが確認されました。

これらの結果は第2段階(研究坑道の掘削を伴う研究段階)におけるサイトスケール領域の地質構造モデルおよび水理地質構造モデルの更新に活用されました3)2_2_7)。

この図は,2019年度時点での坑内ボーリング孔の位置を示したもの。瑞浪超深地層研究所は主立坑と換気立坑の2つの立坑と,深度100mから500mまで100m毎に水平坑道が設けられた。水平坑道からは,断層や割れ目の分布,地下水水圧,地下水水質,岩盤変位やひずみ,初期応力,岩盤中の物質移動,岩盤の破壊現象を把握するために,多数のボーリング孔が掘削され,観測装置が設置された。2019年度に深度300mボーリング横坑において岩盤中の物質移動に関するボーリング孔である19MI66号孔を掘削している。
図1 坑内ボーリング孔位置図(2019年時点)
この図は,深度300mの平面図に地質を示したもの。上部割れ目帯の中央に深度300mの坑道がある。北西から南東に主立坑をかすめて主立坑断層が通り,主立坑断層は母岩の変質を伴う割れ目帯に挟まれている。主立坑断層の南に二本,北に三本断層に伴う割れ目帯が薄紫色で描かれている。深度300m研究アクセス坑道の北西側の計測横坑から10MI22号孔が西南西方向に約170m,10MI23号孔が西方向に約90m掘削され,それぞれにおいて単孔式水理試験を3か所,単孔式水理試験の予備区間が1か所,長期用水試験が1か所で実施された。
図2 ボーリング調査に基づく深度300mの地質平面図(主立坑断層の特徴を示す)
赤い丸が単孔式水理試験,青い丸が長期揚水試験の実施区間
主立坑断層を境にした水理学的な連続性を確認するため,主立坑断層の北側にある10MI22孔を揚水孔とする揚水試験を実施した。この図は,主立坑断層と交差する南北断面で,主立坑断層を境に,10MI22孔が存在する北側と,南側の岩盤の地下水圧観測区間と,揚水試験における各観測孔の地下水位の時間変化のグラフを示している。
図3 10MI22号孔を用いた揚水試験結果に基づく水理地質構造の概念図

主立坑断層を境にして,10MI22号孔側にあるMIZ-1号孔やMSB-1号孔では水位が大きく低下しましたが,主立坑断層の10MI22号孔と反対側にあるDH-2号孔やMSB-3号孔ではわずかな水位低下しか認められませんでした。また,10MI22号孔側にあるMSB-1号孔の中でも,本郷層中に分布する泥岩層より浅部(no.1やno.2)では,同孔の深部の区間と比較して水位低下量が小さい傾向が認められました。この結果から,主立坑断層や泥岩層が水理境界として機能していると考えられました。
参考文献
  1. 鶴田忠彦,武田匡樹,上野孝志,大丸修二,徳安真吾,尾上博則,新宮信也,石橋正祐紀,竹内竜史,松岡稔幸,水野崇,田上雅彦 (2012): 超深地層研究所計画 主立坑断層を対象としたボーリング調査結果報告書,JAEA-Technology 2012-001,134p.
  2. 大丸修二,尾上博則,竹内竜史 (2012): 超深地層研究所計画(岩盤の水理に関する調査研究)主立坑断層を対象とした水理学的調査,JAEA-Research 2012-008,70p.
  3. 尾上博則,小坂寛,竹内竜史,三枝博光 (2015): 超深地層研究所計画(岩盤の水理に関する調査研究)第2段階におけるサイトスケールの水理地質構造モデルの構築,JAEA-Research 2015-008,146p.

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