体積試料の放射能測定は、ゲルマニウム検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリによる方法が一般的ですが、あらかじめ試料の形状、密度、組成等を模擬した標準体積線源を作製して計数効率曲線を求めておく必要があります。しかし、多数の標準体積線源の作製は煩雑であるとともに、線源の更新毎に放射性廃棄物が増し望ましくありません。また、計算により計数効率曲線を求める方法もありますが、検出器結晶の不感層や電荷収集領域に関する情報を正確に得られない場合が多く、精度の良い結果が得られるとは限りません。そこで、標準点状線源を用いて体積試料に対する計数効率曲線を評価可能な方法(代表点法)を開発しました。
本方法は、①モンテカルロ計算により体積試料の「代表点」の位置を見出す操作と、②標準点状線源を用いた代表点における一点校正の操作、の2段階に大別されます。①の操作では、検出器周辺の多数の点における点状線源に対する計数効率曲線をモンテカルロ計算により求め、自己吸収が無い場合の体積試料の計数効率曲線と形状及び絶対値が最も近い計数効率曲線が得られる代表点(最適校正位置)を選定します。②の操作では、代表点に標準点状線源を配置し、自己吸収が無い場合の体積試料の計数効率曲線を求め、これに試料材質や試料容器による吸収効果についての補正を行うことにより、目的とする計数効率曲線を求めます。評価の流れを図1に示します。
種々形状、組成の試料について実験により検証した結果、本方法により体積試料の計数効率曲線が実用上十分な精度で決定可能であることが実証されました。評価結果の一例を図2に示します。本方法では、実際に標準線源を用いることでトレーサビリティーが確保されます。また、代表点の位置及び吸収の補正係数は検出器の幾何学的条件にほとんど左右されないため、検出器が厳密に模擬できない場合でも計数効率曲線を精度良く評価することが可能です。 これらのことから代表点法を用いることにより、精度のよい体積試料の計数効率曲線の評価が可能となり、環境試料をはじめとした放射能測定値の信頼性確保が容易になります。この方法は、体積試料の計数効率曲線評価のみならず、より一般的な有限体積試料の放射能評価を必要とする様々な分野においても応用可能です。今後、既存の三次元形状計測システムと本方法を融合することで、複雑な形状をした体積試料の放射能を迅速かつ精度良く測定する手法を開発する予定です。