核拡散抵抗性
1) 核拡散抵抗性とは?
核拡散抵抗性とは、簡単に言えば「核拡散のしにくさ」と言えます。古くから核拡散抵抗性を定義する試みがなされてきました。2002年10月にイタリアのコモでIAEAによって国際技術会合が開催され、核拡散抵抗性の定義とその基本的理解について議論が行われ、報告書(STR−332 1)が発行されました。ここで合意された内容については現在、国際的にコンセンサスを得られていると考えられ、概要は以下のとおりです。
- 「定義」
- 国家が核兵器や他の核爆発装置を獲得することを目的とした核物質の転用や未申告生産、技術のミスユース(不正使用)を防ぐための特性
- 核拡散抵抗性の程度は、技術的設計特性、運転形式、制度的取決め、保障措置の組合せで決まる。
- 「基本的理解」
「核拡散抵抗性」とは、- 将来の原子力システムが、核兵器計画のための材料獲得には非魅力的なものであり続けることを確実にするものである。
- 管理や検認の手段のような外在的抵抗性の措置は、内在的特性の有効性レベルがいかなるものであっても不可欠なものである。
- 補完的で冗長性のある特性と措置が何重ものバリアを提供することで強化できる。
- 内在的な特性と外在的な措置の最適な組合せが、他の設計上の配慮と整合して原子力システムに含まれるときに、最も費用対効果が良くなる。
- 原子力システムの設計と開発のできるだけ早い時点で考慮に入れることで強化される。
これにより、「国家」が脅威者となる場合を「核拡散抵抗性(PR: Proliferation Resistance)」の対象とし、「非国家主体」、「サブナショナル」が脅威者となる場合を「核物質防護(PP: Physical Protection)」として明確に区別しています。
1 IAEA STR-332. 2002. Proliferation Resistance Fundamentals for Future Nuclear Energy Systems. International Atomic Energy Agency (IAEA), Vienna, Austria.
2) 国際的な枠組みにおける検討
i) INPROにおける検討
INPRO(The International Project on Innovative Nuclear Reactors and Fuel Cycles)はIAEA総会決議により2000年9月に提案され、11月に開始されました。原子力技術の保有国、これから原子力技術を持とうとする国および原子力技術の利用国といった、原子力の様々な発展段階に属する38ヵ国(日本を含む)と1機関(欧州委員会)(2013年7月末時点)が参加しています。
INPROは、増加するエネルギー需要への対応の一環として、安全性、経済性、核不拡散性等を備えた革新的原子力システムの導入環境の整備等の支援を行うことを目的としており、原子力システムを経済性、安全性、廃棄物問題、核不拡散性等の観点から評価する手法(INPROメソドロジー)の開発とINPROメソドロジーを用いた原子力システム評価を実施しています。
INPRO における手法は、ユーザーによる評価を重点に置いた手法であり、抵抗性の高いシステムとなるようなガイダンスを原子力開発者に提供することを目的としています。評価は、表1のように基本原則(BP :Basic Principal)、ユーザー要求項目(UR : User Requirements)、指標(IN : Indicator)、クライテリア(CR : Criteria)および許容限度(AL : Acceptance Limits)で構成されています。主として韓国のケーススタディを基にマニュアルの作成が行われ、2007年に発行されています。

ii) GIFにおける検討
第4世代原子力システム(GEN IV)は、2030年ごろの実用化を目指した次世代原子炉概念として米国エネルギー省(DOE)によって提唱され、この研究開発を進める新たな国際枠組みとして、2011年7月にGIF(Generation IV International Forum)が結成されました。GIFは米国主導の下、EU、日本、韓国などの原子力技術先進国が共同で世界の将来エネルギー需要に対応する次世代原子力エネルギーシステムの開発を原子力技術先進国が共同で推進することを目的としています。持続可能性、経済性、安全性及び核拡散抵抗性/核物質防護(PR&PP)の4つのカテゴリにおいて技術的ゴールが設定され、これを基に6つの有望な炉型(ガス冷却高速炉(GFR)、鉛冷却高速炉(LFR)、溶融塩炉(MSR)、ナトリウム冷却高速炉(SFR)、超臨界水冷却炉(SCWR)、超高温炉(VHTR))及び燃料サイクル概念が特定されています。
GEN IVの核拡散抵抗性及び核物質防護評価手法(PR&PP手法)では、図1のようなパスウェイ解析を採用しています。この解析では、解析者は原子力システムに対するチャレンジ(拡散者による脅威)をシナリオとして定義し、拡散に至る様々なパスウェイ(経路)を設定し、GEN IVシステムの技術的および制度的な特性のこれらの脅威に対する応答を解析して定量的に評価します。評価結果は表2に示す通り、核拡散抵抗性については、6つの指標、核物質防護は3つの指標で表現されます。


3) ワークショップ
原子力機構は、核拡散抵抗性に関し、以下のワークショップを開催しました。