核鑑識
核鑑識とは、捜査当局によって押収、採取された核物質について、核物質、放射性物質及び関連する物質の組成、物理・化学的形態等を分析し、その物質の出所、履歴、輸送経路、目的等を分析・解析する技術的手段です。
核鑑識活動には、対象物質のサンプリング、採取したサンプルの分析、分析結果とデータベースや数値シミュレーションとの比較による解析といった活動が含まれます。
核鑑識技術により、不正取引及びテロ等で使用された核物質の起源を特定できるため、犯人を特定し、刑事訴追できる可能性を高めることで、核テロ等に対する抑止効果につながります。また、核鑑識に関する国際的なネットワークを構築することにより、グローバルな核セキュリティ体制強化に貢献できます。
日本の取り組み

(ワシントンDC、2010年4月12-13日)出典:http://www.whitehouse.gov/photos-and-video/photogallery/nuclear-security-summit
2010年4月12-13日に米国ワシントンD.C.で開催された核セキュリティ・サミットにおいて、日本は次のような声明を出しました。
「核物質の測定、検知等は、原子力及び科学技術先進国である我が国が貢献すべき分野である。日米首脳共同ステートメントに基づき、我が国は、この分野における日米協力を強化することとしている。今般、両国当局間において、核物質計量管理の高度化に資する測定技術や不正な取引及びテロ等で使用された核物質の起源(国・施設)の特定に資する核検知・核鑑識技術の開発の実施に関し、合意が得られたが、今後、3年後を目途により正確で厳格な核物質の検知・鑑識技術を確立し、これを国際社会と共有することにより、国際社会に対して一層貢献していく所存である。」1
上記を受け、2010年4月、文部科学省は、米国エネルギー省(DOE)との協力文書(核不拡散、保障措置、核セキュリティ研究開発、人材育成分野)に署名し、核鑑識に係る共同技術開発に向けた議論を開始しています。
また同年10月、日本原子力研究開発機構は、核鑑識に関する国際ワークショップを開催しました。本会合には核鑑識に関連する国際機関、国際イニシアティブの関係者に加え、核鑑識技術、データベースの専門家、法執行担当者が参加し、核鑑識分野の相互理解を深めるとともに、今後の核鑑識技術の方向性に関して有意義な議論を行いました。さらに2011年には、核鑑識に関する技術開発を開始しました。
核鑑識技術により、ごく微量の核物質であっても、超精密測定により、核物質中のプルトニウムやウランの同位対比を測定したり、不純物や粒子形状を測定することにより、核物質が生産された施設や生産された時期等を特定することが可能であり、それにより核物質が核兵器用か民生用かの特定を行うことも可能となります。
1 第1回ワシントン核セキュリティ・サミットにおけるナショナル・ステートメント、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku_secu/2010/nastatement_wabun.html
国際的な取り組み
核鑑識に関する国際的取組みとしては、核鑑識に関する国際技術ワーキンググループ(ITWG)、IAEAの不法取引データベース(ITDB)及び核テロリズムに対抗するグローバルイニシアティブ(GICNT)があります。
核鑑識に関する国際技術ワーキンググループ(ITWG)の旧名は、物質の違法移転に関わる国際技術ワーキンググループ(Nuclear Smuggling International Technical Working Group)で、冷戦後の核物質の違法移転に対処するために、G8核不拡散専門家グループ(NPEG)の後援を受けて、1996年に核鑑識技術の開発、共通の手法や技術を提供するために設立されました。のち会議の名称は、核鑑識に関する国際技術ワーキンググループ(Nuclear Forensics International Technical Working Group)に変更されました。
IAEA不法取引データベース(Illicit Trafficking Database:ITDB)は、IAEAが核物質及びその他の放射性物質の許可を受けない使用、輸送および所有に関係する事例について、各国から提供された情報を共有するために構築したものです。
核テロリズムに対抗するグローバルイニシアティブ(Global Initiative to Combat Nuclear Terrorism:GICNT)は、核テロの防止、検知、対応に関する能力を国際的に強化することを目的とした国際パートナーシップです。設立されたのは2006年7月で、2013年7月現在、85カ国とIAEA、EU、Interpol及びUNODC(United Nation Office of Drugs and Crime)が参加しています。GICNTの提唱国である米国と露国が共同議長を務めており、これまで、高級レベル会合(全体会合)やGICNTのStatement of Principles に関連する分野の国際的ワークショップや演習が行われています。http://www.gicnt.org/