「CTBT Science and Technology 2013」参加報告
「CTBT Science and Technology」はCTBT検証技術の向上と国際監視データの科学的利用をテーマとしたCTBT機関(CTBTO)準備委員会主催の国際会議であり、2年に1度開催されている。今回の会議は2013年6月17日から21日にかけてウィーンのホーフブルク宮殿で開催され、100カ国以上から800名以上の参加登録があった。会議では、放射性核種、地震波、微気圧振動、水中音波、大気輸送モデル(以下、ATM)、現地査察(OSI)、民生及び科学的応用、CTBT観測データを用いたロシアの隕石イベント解析、北朝鮮核実験イベント等に関する16のセッションに対し、口頭発表が85件、及び282件のポスター発表が行われた。原子力機構からは核物質管理科学技術推進部の木島が出席し、2013年2月に実施された第3回北朝鮮地下核実験の解析評価に関して口頭発表を行うとともに、原子力機構におけるCTBT関連研究開発業務の遂行に資するための情報収集を行った。
まず、原子力機構での業務に関連する放射性核種、ATM及び北朝鮮核実験イベントのセッションの中から、出張者が特に関心を持った発表内容を述べる。
放射性核種に関しては、医療施設や原子力発電所等からの放射性キセノンの放出が世界の放射性キセノンバックグラウンドに影響を与えていると考えられているが、それぞれの放出量は1日あたり医療施設が109から1013ベクレル、原子力発電所が109ベクレル程度と推定され、特に医療施設からの放出に関する調査が非常に重要であること、今後もこれに関する医療及び産業活動により生成された同位体の痕跡に関するワークショップ(WOSMIP)等を通して調査を継続していくこと等の話があった。また、希ガス測定装置に使用されるβ線検出器としてシリコンPIN(三層構造)ダイオードを用いたときの効果についての発表では、放射性キセノンガスが検出器内壁に染みこんでしまうメモリー効果をシリコン検出器を用いることにより大幅に減少させることができ、かつ、放射性キセノンの4つの同位体のMDC(最小検出可能放射能濃度)も10%から30%程度小さくできるとのことであった。
ATMに関しては、複数の観測所で放射性核種が検知された時の放出源推定方法に関して、福島原発事故や各国国内データセンター(NDC)の検知能力を調べるNPE(NDC実施体制試験)2012を例として、検討が行われた。
北朝鮮核実験イベントに関しては、核爆発規模の推定として過去2回の核実験と今回(第3回)との比較に関する報告があった。それによると、今回の核爆発規模は第1回目の10倍以上、第2回目の2倍以上と推定されるとのことであった。
次に、出張者が最終日の北朝鮮イベントセッションにて行った口頭発表内容について紹介する。2013年2月の北朝鮮による核実験実施宣言を受け、核物質管理科学技術推進部技術開発室では放射性核種に関するデータ解析やATM解析を行った。しかし、核実験直後から3週間程度行った解析では通常のバックグラウンドレベルを有意に超える放射能濃度の放射性キセノンは検出されなかったことから、その期間において放出されたと仮定した場合の放射性キセノン放出量の上限値推定を行った。また、2013年4月にCTBT高崎観測所において通常のバックグラウンドレベルを超える放射能濃度を有する2種類の放射性キセノン(Xe-131m,Xe-133)が同時検出された事象について解析・評価した結果、これらの放射性キセノンは2月の核実験により生成されたもので、日本時間で4月7日9-21時の間に大気中に放出されたものである可能性が高いことを報告した。さらに、希ガス観測所を増やすことによる観測網の強化についても提案を行った。この希ガス観測網の強化の提案は特に参加者の関心を集め、具体的な計画の有無に関する質問があった。
CTBT国際監視ネットワークは既に80%以上が完成し、整備段階から運用段階に移行している。この会議に出席して、CTBT検証技術は着々と向上しており、条約発効前の技術的準備がかなり整ってきていること、及びCTBT国際監視ネットワークから得られる観測データがCTBT以外の科学分野でも非常に有用であることを改めて認識することができた。今後のCTBT国際監視ネットワークの一刻も早い整備完了が望まれるところである。