エルバラダイIAEA事務局長講演会 結果概要

11月30日、独立行政法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)と国立大学法人東京工業大学(東工大)の共催による、エルバラダイIAEA事務局長講演会が、如水会館において、約500名の聴衆を集めて開催された(後援:原子力委員会、文部科学省、経済産業省、外務省)。
冒頭、東工大小川雅生原子炉工学研究所長の開会宣言に続き、主催者の両機関より開会挨拶があった。

原子力機構殿塚猷一理事長は、エルバラダイ事務局長のノーベル平和賞受賞と原子力の軍事転用防止と平和利用確保に対する功績をたたえると共に、燃料供給保証といった新たな核不拡散強化の取り組みにおけるIAEAの役割の重要性を指摘した。また、原子力機構としても核不拡散科学技術センターを設置し、核不拡散に関する取り組みを行っており、これらの取り組みを通じたIAEA支援を表明した。

東工大相澤益男学長は、原子力の平和利用推進において、安全に加えて平和利用担保の重要性を指摘するとともに、東工大が実施している、IAEAへのインターン派遣や、原子力技術の伝承に関するワークショップの計画について紹介した。また、東工大が、核不拡散を含めた原子力の研究と教育を、これまで以上に推進することを表明した。
続いて、エルバラダイ事務局長より、「NUCLEAR POWER: PREPARING FOR THE FUTURE」とのタイトルで、約40分の講演が行われた。講演の概要は、以下のとおり。
- 日本とIAEAは、原子力の安全や平和利用、核不拡散、核軍縮の分野において、長期にわたり、共通の目的をもって協力してきた。
- 現在、人類をとりまく2つの懸念があり、それは、世界における差し迫った開発(development)へのニーズと、国際的な安全保障(security)に関する効果的なシステムの確保である。開発を進めるためにエネルギーは不可欠であるが、地球規模のエネルギーの不均衡を考慮する必要がある。
- 国際エネルギー機関(IEA)の先月の発表によると、世界のエネルギー消費は2030年までに53%増加する。この報告には注目すべき点が2点あり、1点目は、その増加の70%が途上国によるものであること、2点目が、同機関が初めて、原子力が、エネルギー需要を満たし、エネルギーの安全保障を高め、二酸化炭素の放出を抑制することに言及したことである。
- 原子力は万能薬ではないが、地球規模のエネルギーの混合を考えたときに、重要性が高まっている。
- 最近の原子力の拡大は、中国、インドといった、アジアに集中している。インドネシア、ベトナム、トルコが原子力発電を導入する計画を進めている。
- サンクトペテルブルクサミットにおいて、グローバルなエネルギーの安全保障の重要性が指摘されたが、私はこのサミットで、途上国を含め全ての国・人々のエネルギー需要を満たすことが重要であることを強調した。
- 原子力は、エネルギーの多様性やエネルギーの安全保障の観点から重要である。温室効果ガスの放出を削減する観点からも注目されている。
- また、原子力発電は半世紀にわたる運転経験があり、ここ20年間に信頼性、経済性、安全性に対する大きな改善が図られた。
- 原子力がエネルギー資源として発展していくためには、原子力が引き続き、良い実績を示す必要がある。その観点から、安全性、核セキュリティー、使用済燃料の管理と高レベル廃棄物の処分、核不拡散が重要である。
- チェルノブイリ事故後に、原子力安全に関する大きな改善が図られた。国際的な「原子力安全体制」が整備され、安全性を強化する法的な枠組みが構築された。また、系統的なリスク分析、IAEAとWANOの協力による安全性を向上するための情報交換といった取り組みが行われ、「安全文化」の普及が進められている。
- 近年、「核セキュリティー」は、大きな懸念になっている。IAEAは、核物質や放射性物質の管理及び原子力施設の防護に関する支援を行っており、国際的には、原子力施設のセキュリティー上のリスクや脆弱性に対抗するための防護措置が講じられつつある。
- 使用済燃料の管理と高レベル廃棄物の処分は、原子力産業にとってチャレンジである。フィンランド、スウェーデン、米国に於いて、地層処分に関する大きな進展があった。中間貯蔵や、高速炉や加速器による長寿命廃棄物の核変換に関する研究も進んでいる。
- 最も深刻な問題は、核兵器の拡散である。原子力に対する期待が高まるとともに、ウラン濃縮、再処理といった機微な原子力技術の拡散に直面している。
- 最近の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核実験は、ウラン濃縮、再処理技術の拡散のコントロール、並びに、普遍的な核実験禁止への早急な取り組みの必要性を提起した。
- 北朝鮮問題に関して、六者会合の再開に向けての合意を歓迎するとともに、本問題の解決に向けて、IAEAでは、自身の検証能力を活用する用意がある。
- IAEAは、NPT保障措置協定に基づいて、査察を実施しているが、依然として、30カ国が包括的保障措置協定を未締結で、約100カ国が追加議定書を未発効の状態である。
- 産業化が進む中で、機微技術の管理が難しくなっており、私は、ウラン濃縮や再処理の多国間管理構想を提唱し、2つのステップで、新たな国が、機微な核物質を製造する能力を持たないことを確実にしたいと考えている。
- 最初のステップが、核燃料の「供給保証」のメカニズムを構築することで、このメカニズムは、原子力発電国において燃料供給が中断するリスクをなくし、同時に、新たに核拡散上機微な運転を行おうとする国の動機や正当性をそぐことができる。
- 2番目のステップは、新たにウラン濃縮やプルトニウムの分離を行おうとする国の活動を、多国間管理下におくことである。長期的には、既存の施設にも多国間管理を拡大し、全ての国を公平に扱うことを考えている、
- このコンセプトに賛成しているいくつかの国においても、既存のウラン濃縮や再処理施設が制約を受けることを懸念している。IAEA事務局は、これらの懸念を踏まえて、加盟国に提案する新たなアイディアを検討しており、この構想を進めていきたいと考えている。
- 原子力の将来は、技術革新に依存する。INPRO、GEN-IV、GNEPといった取り組みが行われており、途上国は、適応性の高い中小型炉に対する関心が高い。
- ITER協定が今月初めに署名され、このプロジェクトによって、核融合の技術開発が進展することが期待される。
- 原子力の将来を決める重要な局面の一つが、一般の理解の促進である。原子力に携わる研究者、運転者、規制担当者は、正確で理解しやすい情報の発信を心がけることが重要である。
- 日本は長年、IAEAの協力的なパートナーであり、また、原子力平和利用において地域あるいは、世界的なリーダーである。日本は、IAEA保障措置が適用されている最大の原子力計画を持っており、従来の保障措置と強化された手法を統合した、統合保障措置にも移行している。
- 最後に、IAEAは、原子力発電ばかりでなく、途上国を含めた原子力利用に対する支援を行っている。開発(development)と安全保障(security)に寄与している原子力の状況について説明してきたが、IAEAは、日本を含む各国のニーズとプライオリティーに最も適合する解決策を見出すための支援を行う用意がある。

エルバラダイ事務局長の講演に対して、以下の質疑応答が行われた。
主催者より、講演を行ったエルバラダイ事務局長に対して、記念品としてウランガラスを贈呈した。
最後に、原子力機構岡﨑俊雄副理事長より、事務局長の示唆に富んだ貴重な講演に対する謝意が示されると共に、平和利用と不拡散の取り組みと核軍縮の重要性を再認識し、原子力のかかえる課題に対する取り組みの重要性を指摘し、閉会の挨拶とした。

