幌延深地層研究センターでは、原子力発電に伴って発生する高レベル放射性廃棄物を安全に地層処分するための基盤的な研究開発として、平成13年3月より、北海道の幌延町において幌延深地層研究計画(堆積岩を対象とした深地層の研究施設計画)を進めています。幌延深地層研究計画は、実際の地層処分事業とは明確に区別することを前提に、堆積岩を対象とした深地層の科学的な研究(地層科学研究)および地層処分技術の信頼性向上や安全評価手法の高度化に向けた研究開発(地層処分研究開発)を行うものです。
幌延深地層研究計画は、
「地上からの調査研究段階(第1段階)」
「坑道掘削(地下施設建設)時の調査研究段階(第2段階)」
「地下施設での調査研究段階(第3段階)」
の3つの調査研究段階に分けて進めることとしており、全体の期間は20年程度を考えています。
平成29年度は、地下施設での調査研究段階(第3段階)において、
第3期中長期計画
に掲げたこれら3つの課題(以下、
必須の課題
)を達成していくための調査研究を引き続き実施していきます。
平成29年度においては、主に以下の取り組みを進めます。
実際の地質環境における人工バリアの適用性確認については、平成26年度に深度350m調査坑道で開始した人工バリア性能確認試験、 オーバーパック腐食試験および原位置トレーサー試験を着実に進めます。 処分概念オプションの実証については、共同研究として搬送定置・回収技術に関する実証試験の検討を継続するとともに、実証試験のための準備作業などを行います。地殻変動に対する堆積岩の緩衝能力の検証については、 一時的な水圧上昇が割れ目の水理特性に与える影響を確認するための試験を開始します。
上記の調査研究を含め、平成29年度に実施する調査研究の概要を以下に示します。
350m調査坑道における主な調査研究の実施場所
●通常よりも高い注入圧を用いた透水試験(水圧擾乱試験)を実施し、割れ目の水理特性に与える影響を確認します。
●岩石や地下水の化学組成などのデータを用いて、これまでに構築した地質環境モデルを必要に応じて更新することにより、坑道周辺の地質環境を推定するための手法の信頼性を向上させます。
●地下施設での調査研究で使用するための調査技術や調査機器の開発を継続します。
●沿岸部における地質環境の調査技術の高度化開発を行います。
【地層科学研究】 1-1-1.地質構造
【地質観察、地下施設や地表で採取した岩石の分析など】
ボーリング調査および坑道掘削時の壁面地質観察において取得した地質データの解析および地下施設や地表で採取した岩石の顕微鏡観察や分析などを継続し、坑道周辺における岩盤の水理特性や地下水の地球化学特性に影響を及ぼす可能性のある地層や断層・割れ目の空間的な分布に関する特徴を整理して、それに基づく 地質構造モデル を更新します。
【地層科学研究】 1-1-2.岩盤の水理
【地下水の水圧モニタリング、岩盤の水理に関する情報の取得、水圧擾乱試験など】
断層帯中の割れ目の透水性は、断層運動により増加する可能性がありますが、その透水性の増加幅は岩盤の力学条件に大きく左右され、この透水性の上昇幅を ダクティリティインデックス(DI) という力学的指標を用いた経験式(DIモデル)によって推定できる可能性があります。
そのため、東立坑の深度380mの坑底から掘削したボーリング孔において、断層運動を模擬するための通常よりも高い注入圧を用いた透水試験(水圧擾乱試験)を実施し、DIモデルのデータの拡充やモデルの更新を行い、一時的に水圧を上昇させた場合における堆積岩の水理学的な緩衝能力について検討します。
また、坑道の掘削に伴う地質環境の変化を把握するため、地上から掘削した既存のボーリング孔における地下水の水圧観測を継続します。地下施設における調査では、坑道周辺岩盤の水理特性の変化を観測し、掘削影響領域の評価に必要なデータを取得します。
取得したデータに基づいて、これまでに構築した坑道周辺の 水理地質構造モデル を更新します。
【地層科学研究】 1-1-3.地下水の地球化学
【坑道壁面からの湧水、ボーリング孔の孔内水、岩石からの間隙水の化学分析、溶存ガス・コロイド・有機物・微生物の分析、表層水の分析】
地下水の水質調査の様子
(140m調査坑道)
坑道の壁面から採取した湧水や岩石、坑道内のボーリング孔から採取する地下水および岩石を対象として、化学組成、溶存ガス組成、コロイド、有機物および微生物などに関する分析や試験を行い、坑道の掘削に伴う周辺岩盤および地下水の地球化学特性の変化を把握します。
あわせて、地上から掘削した既存のボーリング孔(HDB-1~11孔など)および表層水を対象とした採水調査を行い、現在の地下水の水質の分布や、それがどのように形成されてきたのかを検討するとともに、坑道周辺における地球化学環境の時間的な変化に関わる 地下水の地球化学モデル を更新します。
【地層科学研究】 1-1-4.岩盤力学
【坑道内での初期地圧の測定結果や内空変位計測結果に基づく坑道周辺における地圧の空間的な分布の評価など】
地下水の水質調査の様子
(140m調査坑道)
これまでに実施してきた、深度140m、250mおよび350m調査坑道における 初期地圧 の測定結果や、坑道内で実施している 内空変位計測 などの結果に基づき、坑道周辺における地圧の空間的な分布を解析的に評価し、地下施設の設計上必要となる岩盤物性値の設定方法を検証します。
【水圧擾乱試験方法の整備、水圧・水質連続モニタリング装置や間隙水圧計、水分計などの長期性能確認、ガスやコロイド・有機物・微生物の調査のための試験装置の開発、光ファイバー式AEセンサーの長期性能確認、弾性波トモグラフィ調査、高精度傾斜計や地中変位計などによる岩盤の微小な変形の計測、坑道の掘削が周辺の岩盤に与える影響を評価するための解析技術開発、沿岸部における地質環境の調査技術の高度化開発、コントロールボーリング技術により掘削したボーリング孔を利用したモニタリング技術の開発(現地設備の撤去作業)など】
地下水の水圧・水質モニタリングの様子
(350m調査坑道)
必須の課題の評価に活用する地質環境特性データの長期的な変化やそれら計測手法の妥当性を確認するため、地下水の地球化学特性、岩盤の力学特性および坑道掘削の影響などに関する調査技術・調査機器開発を継続します。
岩盤の水理特性に関する調査技術について、 1-1-2.岩盤の水理 で述べた水圧擾乱試験を実施するため、通常よりも高い注入圧を用いた透水試験方法の整備を図ります。
地下水の地球化学特性に関する調査技術については、深度140m、250mおよび350mの各調査坑道から掘削したボーリング孔に設置した地下水の水圧・水質連続モニタリング装置や間隙水圧計、水分計などの長期的な性能を確認するとともに、地下水中のガスやコロイド・有機物・微生物を調査するための試験装置の開発を行い、データを取得します。
岩盤の力学特性に関する調査技術については、光ファイバー式地中変位計の長期モニタリング性能を確認するための観測を継続します。
また、深度140m、250mおよび350mの各調査坑道で、坑道掘削後の岩盤の力学特性の長期的な変化を確認するために、弾性波トモグラフィ調査や比抵抗トモグラフィ調査を定期的に実施します。
これらの観測および調査を通じて、岩盤の力学特性の評価に必要となるモニタリング技術の整備を図ります。
坑道掘削の影響に関する調査技術については、地表や坑道に設置した 高精度傾斜計 および坑道に設置した地中変位計、埋設ひずみ計や光ファイバー式 AE センサーを用いて、岩盤の微小な変形の観測を継続します。
また、坑道の掘削が周辺の岩盤に与える影響を評価するための解析技術の開発を行います。
その他の調査技術の開発として、沿岸部における地質環境の調査技術の高度化開発を実施する予定です。
なお、これまで 電力中央研究所 との共同研究として実施してきた、通常の鉛直ボーリングの技術では調査が困難な場合に使用するコントロールボーリング技術(ボーリング孔の角度と方向を制御して掘削するボーリング)により掘削したボーリング孔を用いたモニタリング技術開発を終了するとともに、実施場所( HCD-3孔 )の設備を撤去します。
【坑道周辺岩盤・支保の長期挙動の観測、地下施設設計の妥当性の検証、地下施設の安全性に関する検討、グラウト材料の岩盤中への浸透範囲を評価するための解析手法の検討、海水条件下での溶液型グラウト特性データ取得のための室内試験など】
吹付コンクリート応力計の設置の様子
●坑道を掘削した後の岩盤と支保の長期挙動を観測し、地下施設設計の妥当性の検証を行います。
●地質環境特性の長期的な変化に関するデータなどに基づいて、地下施設の安全性をさらに向上するための方策の検討を継続します。
●湧水抑制のための技術開発として、解析手法の高度化や室内試験を実施します。
「処分概念オプションの実証」として処分孔などの湧水対策・支保技術などの実証試験を進めます。
また、必須の課題の実施に必要となる岩盤の変位や支保工の応力に関するデータの取得を継続します。
既設の地中変位計やコンクリート応力計などの計測機器により、坑道を掘削した後の岩盤と支保の長期挙動を観測するとともに、得られたデータを用いて、地下施設設計の妥当性の検証を行います。
また、調査坑道で取得された長期的な変形計測結果などに関するデータや耐震性評価結果に基づいて、地下施設の安全性をさらに向上するための方策の検討を継続します。さらに、湧水抑制のための技術開発として、断層などの割れ目に対するグラウト材料の浸透範囲を評価するための解析手法の高度化を図るとともに、海水条件下での溶液型グラウト特性データを室内試験により取得します。
【地形調査、地質調査、岩石・地下水・ガスの測定・分析、沿岸部における隆起・侵食に関する検討、地震の観測など】
地震観測モニターの設置の様子
●地形や地質の調査とともに、岩石、地下水およびガスの化学分析を行い、地形および地質構造の長期的な変化を予測する手法の検討を継続します。
●沿岸部における隆起・侵食に関する検討として、海成段丘が未発達の地域における評価手法の技術開発を実施します。
●地震の活動と断層の動きが地下水の流れや水質などの地質環境に与える影響を推定するための手法の検討を進めます。
地下施設や地表の地形・地質の調査、岩石・地下水・ガスの測定・分析で得られたデータを利用して地質環境の長期的な変化に関する数値解析・評価を実施し、長期的な地形・地質の変化やそれに伴う地下水の流れや水質の変化などを評価する手法の開発を進めます。
上幌延観測点( HDB-2 )と深度350mの調査坑道での地震観測を継続し、地震や断層の動きによって生じる地質環境への影響の把握や推定手法の開発を進めます。
なお、断層に伴う地質環境への影響に関する知見は、「地殻変動に対する堆積岩の緩衝能力の検証」で実施する水圧擾乱試験の試験結果の評価にも活用していきます。
沿岸部における隆起・侵食に関する検討として、 海成段丘 が未発達の地域における評価手法の技術開発を実施します。
これらの評価手法の開発では、必要に応じて、現地調査を実施します。
【人工バリア性能確認試験、人工バリアなどにおける無線計測技術の適用性に関する試験、オーバーパック腐食試験、オーバーパック溶接部の耐食性に関する原位置試験、搬送定置・回収技術に関する原位置試験の準備、緩衝材の定置試験、緩衝材への水の浸潤挙動を把握するための試験、低アルカリ性コンクリート材料の周辺岩盤などへの影響調査、緩衝材のパイピング・エロージョンに関する原位置試験など】
●人工バリア性能確認試験などの原位置試験をとおして、実際の地質環境における計測技術や評価技術の適用性を確認します。
●幌延の岩石や地下水を用いた室内試験を継続し、人工バリアなどの設計手法の適用性や長期健全性を評価するための基礎データの拡充・整理を行います。
●人工バリアの定置・品質確認などの方法論に関する実証試験について、地下環境下での実証試験計画の検討・準備作業などを継続します。
●緩衝材の定置試験や緩衝材への水の浸潤挙動を把握するための試験を継続します。
●低アルカリ性コンクリート材料が坑道周辺の岩盤や地下水に及ぼす影響を把握するための調査などを継続します。
「実際の地質環境における人工バリアの適用性確認」として、人工バリア性能確認試験、オーバーパック腐食試験を継続するとともに、「処分概念オプションの実証」として、人工バリアの定置・品質確認などの方法論に関する実証試験の準備を継続します。
人工バリア性能確認試験について、平成29年度は、平成26年度に開始した実物大の模擬オーバーパックおよび緩衝材を用いた人工バリア性能確認試験を継続します。
この試験では、実際に坑道内に処分システムを構築し、オーバーパック、緩衝材および岩盤の間で発生する、熱-水理-力学-化学連成挙動に関わるデータを取得します。
また、原環センターとの共同研究として、人工バリアなどを対象とした無線計測技術の適用性に関する試験を継続します。
オーバーパック腐食試験について、平成29年度は、平成26年度に開始したオーバーパック腐食試験では、周辺のセメント材料の影響を考慮した耐食性についての試験を継続します。
また、試験終了後の模擬オーバーパックの回収および表面の腐食状態の分析などの計画の立案を進めます。
平成25年度から原環センターとの共同研究として実施しているオーバーパック溶接部の耐食性を確認する原位置試験を継続し、周辺の環境条件が異なる場合の耐食性の違いなどについて検討します。
人工バリアの定置・品質確認などの方法論に関する実証試験について、平成29年度は、搬送定置・回収技術を実証するために、原環センターとの共同研究を通じて、地下環境下での実証試験計画の検討ならびにその準備作業などを継続します。
また、地層処分実規模試験施設の活用方策の検討を継続するとともに、緩衝材の定置試験や緩衝材への水の浸潤挙動を把握するための試験を継続します。
また、平成25年度までに深度140m、250mおよび350mの各調査坑道において施工した低アルカリ性コンクリート材料が坑道周辺の岩盤や地下水に及ぼす影響を把握するための調査および、平成25年度から原環センターとの共同研究として実施している緩衝材の パイピング・エロージョン に関する原位置試験を継続します。
人工バリア性能確認試験の概念図
オーバーパック腐食試験の概念図
【原位置トレーサー試験、室内試験の実施など】
●350m調査坑道で実施している健岩部を対象とした原位置トレーサー試験を継続するとともに、東立坑坑底から掘削しているボーリング孔を利用し、割れ目帯を対象としたトレーサー試験を開始します。
●原位置トレーサー試験および室内試験結果の評価を継続するとともに、必要な室内試験を行い、物質の移動現象についての評価を進めます。
「実際の地質環境における人工バリアの適用性確認」として、 原位置トレーサー試験 を継続します。
岩盤および人工バリアを対象とした原位置トレーサー試験について、平成29年度は、350m調査坑道で実施している健岩部を対象としたトレーサー試験を継続するとともに、東立坑坑底から掘削しているボーリング孔を利用し、割れ目帯を対象としたトレーサー試験を開始します。
また、平成28年度までに実施した原位置トレーサー試験および室内試験結果の評価を継続するとともに、必要な室内試験を行い、物質の移動現象についての評価を進めます。
原位置トレーサー試験の概念図(岩盤を対象とした試験)
原位置トレーサー試験の概念図(割れ目(帯)を対象とした試験)